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作品名:far east paradise 作者:grico

第2回   the luster of a pearl
 部屋に戻ってきて四時間、体が動かない。楽しい気分はずっと続かない。その後に来るのは不感の鬱。状況を客観的に考える事すら出来ず、もしそれをしたとしてもそこで起こるのは焦燥感と自己嫌悪。決して前には進めないようになっているゲーム。クリアするにはどうしたらいいのだろう。どこかに鍵が隠されているはずなのに、根気のない私は攻略本なしでは見つけられない。そしてその私の迷路の攻略本すらどこにあるのか、何なのか、私には分からない。もしかしたら難しく考えすぎてるだけで、本当は簡単な単純な事なんじゃないかとも思う。例えば、右足と左足を交互に前に出して歩くように。でも私にはどうしてもそんな風には思えないから、真実だとしても意味がない。私が信じられない真実なんて、私にとっては真実なんかじゃなくてただ通り過ぎていく理論。どうしてもしたくない。したくない事はしない。ただしたい事をしたくない事だと、思い込んでいるみたい。これが私の鬱。
 唐突に今の状況がとてつもなくつまらない事に気づいた私は、出かける準備を始める。出かけるつもりはない。服を着替えて、靴を履いて、化粧をして、髪の毛をセットする。香水をつけ、アクセサリーをつけ、マニキュアを塗る。そして部屋のパソコンに向かう。オークションの入札分に高値更新がないかどうか、チェックしてるモデルのブログに更新がないかどうかをチェックすると、やる事もなくなりベッドに倒れ込む。病んでるなぁ、と自覚している。
 こんな時は電車に乗ってどこか街へ出たら気分も晴れるのに。何もする気がないんだから仕方がない。そんな事をつらつらと考えていると、携帯のバイブがなる。受話器から聞こえたのは、最近仲良くなったリンのハイテンションなhelloだった。適当に相槌をいれながら話を聞いていると、本題に入ったのか、今日の夜からのコンパに誘われはじめた。気分はのらなかったけどせっかくめかしてるし、と考えると断る気にもならなくてokをする。じゃあ八時にアルタの前でね。約束をして電話を切ると起き上がってメイクを直す。テンションはどんどんあがる。多分私は目の前に誰か他人と絡んだ約束事がないとだめなのだろう。一人の世界は好きだけど自由すぎて規律のない私には向かないみたい。つけまつげをつけて、チークを濃くしてアイラインを薄くする。ストレートにセットした髪をアイロンでくるりと巻いてシーグリーンのグリッターをつけたネイルをピンクと白のフレンチに作り替える。私はいつだってどんな風にだってなってあげる。


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