「それは外しちゃダメだ、って言ったでしょうに。」 鍵を外してしまったので、姉に叱られた。 何の鍵かと聞かれると、困るので答えることは出来ない。 そして、私は鍵のつけかたを知らないので、なおも姉を怒らせるのだった。 「もう。 つけられないんだったら、無闇に外さないでちょうだい。」 そう言って怒りながらも姉は、実に簡単に鍵をかけてゆく。 私が簡単に外した鍵を、姉は簡単に鍵をかける。 そして、私が手をつける前の状況に戻ってしまった。 ああ、外したい。 でも、また姉に叱られるのも嫌なので、その場を離れることにした。 その時。 中から声がした。わずかだが、声がした。 私は急いで姉を呼んだ。 「姉さん、姉さん。」 「何よ。また外したの。」 「違うの。違うのよ。中から、中から声がしたの。」 私が言うと、姉の表情が少し変わった。 何処がどう変わったかと聞かれると答えられないが、それでも少しだけ変わったのだ。 「・・・本当なの。」 「本当よ。私は耳がいいでしょう。だから聞こえたわ。中から、声が聞こえたわ。」 すると、姉はそれに近づき、鍵を開けようとした。 かちゃかちゃと、鍵を外そうとした。 私は、いつも簡単に鍵をかける姉の姿を見ていたので、簡単に鍵を外せるものだと思っていた。 しかし、姉の手が右へ左へと動いても、鍵は外れなかった。 私が簡単に外すことの出来る鍵を、姉は外せなかった。 「姉さん。代わりましょうか。」 おそらく、普通に口から出る言葉であろうものを、私は言った。 しかし、姉の目はもちろん、耳までもが鍵に集中しているようで、私の声は流された。 邪魔をされたくないのだろうな、と思い、私はしばらく姉を見ていた。 けれど、それでも鍵は一向に外れなかった。 姉の手が、がちゃがちゃと動く。 いくら経っても、姉はがちゃがちゃと鍵をいじっていた。 やがて私は、どこか妙なことに気づいた。 中から、何かがあふれていた。 その正体が私には分からず、思わず見てみぬふりをするのだが、それは明らかに姉の手にかかっていた。 けれども姉は、その何かを全く気にしていないように、相変わらず鍵をいじっている。 「姉さん。それは何なの。」 聞いても、姉は答えずに鍵をいじっている。 今度は、中の何かに聞いてみることにした。 「ねぇ。あなたはなあに? あなたは、姉さんをどうするつもりなの。」 すると。 聞いた途端、その何かは、一気に外へとあふれ出した。 何処にこんな大量のものをしまえたのだろうか、と思えるくらいの何かが、部屋じゅうにあふれだした。 それでも。 それでも姉は、相変わらず鍵をいじっていた。 やがて、その何かは、部屋を全部飲み込んでしまった。 私は必死にもがいたけれど、それでも何かが溢れるのは止まらなかった。 姉は、相変わらず鍵を外せなかった。
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