20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:姉と私 作者:u-my

第1回   姉と私 「鍵」
 「それは外しちゃダメだ、って言ったでしょうに。」
鍵を外してしまったので、姉に叱られた。
何の鍵かと聞かれると、困るので答えることは出来ない。
そして、私は鍵のつけかたを知らないので、なおも姉を怒らせるのだった。
 「もう。
  つけられないんだったら、無闇に外さないでちょうだい。」
そう言って怒りながらも姉は、実に簡単に鍵をかけてゆく。
私が簡単に外した鍵を、姉は簡単に鍵をかける。
そして、私が手をつける前の状況に戻ってしまった。
ああ、外したい。
でも、また姉に叱られるのも嫌なので、その場を離れることにした。
その時。
中から声がした。わずかだが、声がした。
私は急いで姉を呼んだ。
 「姉さん、姉さん。」
 「何よ。また外したの。」
 「違うの。違うのよ。中から、中から声がしたの。」
私が言うと、姉の表情が少し変わった。
何処がどう変わったかと聞かれると答えられないが、それでも少しだけ変わったのだ。
 「・・・本当なの。」
 「本当よ。私は耳がいいでしょう。だから聞こえたわ。中から、声が聞こえたわ。」
すると、姉はそれに近づき、鍵を開けようとした。
かちゃかちゃと、鍵を外そうとした。
私は、いつも簡単に鍵をかける姉の姿を見ていたので、簡単に鍵を外せるものだと思っていた。
しかし、姉の手が右へ左へと動いても、鍵は外れなかった。
私が簡単に外すことの出来る鍵を、姉は外せなかった。
 「姉さん。代わりましょうか。」
おそらく、普通に口から出る言葉であろうものを、私は言った。
しかし、姉の目はもちろん、耳までもが鍵に集中しているようで、私の声は流された。
邪魔をされたくないのだろうな、と思い、私はしばらく姉を見ていた。
けれど、それでも鍵は一向に外れなかった。
姉の手が、がちゃがちゃと動く。
いくら経っても、姉はがちゃがちゃと鍵をいじっていた。
やがて私は、どこか妙なことに気づいた。
中から、何かがあふれていた。
その正体が私には分からず、思わず見てみぬふりをするのだが、それは明らかに姉の手にかかっていた。
けれども姉は、その何かを全く気にしていないように、相変わらず鍵をいじっている。
 「姉さん。それは何なの。」
聞いても、姉は答えずに鍵をいじっている。
今度は、中の何かに聞いてみることにした。
「ねぇ。あなたはなあに?
 あなたは、姉さんをどうするつもりなの。」
すると。
聞いた途端、その何かは、一気に外へとあふれ出した。
何処にこんな大量のものをしまえたのだろうか、と思えるくらいの何かが、部屋じゅうにあふれだした。
それでも。
それでも姉は、相変わらず鍵をいじっていた。
やがて、その何かは、部屋を全部飲み込んでしまった。
私は必死にもがいたけれど、それでも何かが溢れるのは止まらなかった。
姉は、相変わらず鍵を外せなかった。


次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 338