第二幕>
第一場
教室内。 キサラギが中心となって、劇の稽古が行われている。
キサラギ:どうしたの、みんな! まだまだ発表会まで時間があるからって、安心しているんじゃなくて? そんなの甘いわよ! 一瞬一瞬に熱を込めない限りはね、 いくら時間があったってそれは無駄に過ぎていくだけなの。 ほら、冷えたる夜の王子、次ぎの場面の台詞は? 冷えたる夜の王子役:・・・・・。 キサラギ:どうしたの? 冷えたる夜の王子役:・・・・すいません、台詞を暗記してくるの忘れました・・。 キサラギ:・・・・なんですって? あたしがあれだけ覚えておきなさいって言ったのに、 あなたは何もしてこなかっというの? ・・・・あなたという人は・・・
カンナヅキ、キサラギにおそるおそる近寄る。
カンナヅキ:おい、キサラギ。 キサラギ:何? カンナヅキ:見ろよ、みんなの顔。 確かにみんな劇のことは楽しみにしているけど、 そうやって無理矢理やらされるんじゃ、その気持ちも萎んじまうってもんだぜ。 キサラギ:あら。 それじゃあ言わせて貰うけどね、あたしだって、最初はゆっくり、 みんなのペースに合わせて、少しずつやっていけたらいいな、と思っていたのよ。 そしたら何? 誰一人台詞は覚えてこない、大道具、小道具係はさぼってばかり・・ 何一つ進まないじゃないの。 あたしだって好きでこんな小うるさい役を買って出ているわけじゃないわ。 仕方なくやっているの!わかる? カンナヅキ:だ、だけどよう! ヤヨイ:カンナヅキ、ここは引いておいた方が賢明よ。 あの子、ああなったら何も聞かなくなっちゃうから。 カンナヅキ:うう、・・・。 ムツキ:そうそう。今以上に機嫌を悪くさせないほうがいいな。 カンナヅキ:・・・・・ちぇ、仕方ねえ。
メイ、登場。
ヤヨイ:あら、メイ。 メイ:ごめんなさい、遅れちゃって・・! キサラギ:・・・・何してたの? メイ:[キサラギの目つきにやや怖気づいて]う、うん。 ちょっと、先生に呼ばれていたのよ。 次の委員会の選挙のことで・・。 キサラギ:・・・ふうん、それなら仕方ないわね。 さ、早く着替えてきて頂戴、お姫様[衣装を渡す]。 メイ:はい!
メイ、着替えるために退場。
カンナヅキ:ん?いつの間にメイの衣装作ったの? 衣装係:ふふん。メイの役が決まってからすぐに、あたしが作り始めたの。 たっぷり時間をかけて、愛情込めて作ったわ。 それで、やっと昨日完成したというわけ。 カンナヅキ:へえ。ご苦労だなあ。 衣装係:(傍白)・・・・何よ、軽々しく・・・。 カンナヅキ:ん? 衣装係:いえ、こっちの話。 キサラギ:さあ、メイが戻ってきたらもう一度最初からやってみるわよ。 役者の人は、みんな今のうちに台本をおさらいしておいて!
扉が開く。
キサラギ:あら、割と早かったわね。 ・・・って、あれ?
オーガスト登場。 一同、久しぶりに見るオーガストに注目。
オーガスト:・・・・ああ、やめたまえ。 汚らわしい視線を浴びせて、この僕の美しい肉と霊に泥を塗るのは。 カンナヅキ&ムツキ:オーガスト!
ふたり、オーガストのもとに駆け寄る。
カンナヅキ:[オーガストの肩に手をかけ]おう、貧乏な王子様。どうだい、 労働に精を出したおかけで、ちったあ懐も暖かくなったのかな? ムツキ:いや、そいつは無理!こいつがいくら働いたって、 可愛い賃金ちゃんたちは、 全部俺達への借金返済へ回されちまう運命になっているんだから! オーガスト:・・・・・。 カンナヅキ:ああ、そうだった!残念だなあ、王子様。
キサラギ、すさまじい剣幕でオーガストに近寄る。
キサラギ:オーガスト、久しぶりね。 オーガスト:・・・・ああ、なんて恐ろしい表情を浮かべているんだ、君は。 爆発を抑えている人間の表情ほど僕を怖がらせるものはない。 キサラギ:よくお見通しで。 さ、劇のことはちゃんと聴いているんでしょう。 あなたの衣装はまだないけど、さっそくリハーサルに参加してもらうからね。 もちろん、自分の台詞は覚えてきたわよね? オーガスト:愚かな。台詞を暗記するといったようなナンセンスな作業を、 僕のような自由と遊戯をこよなく愛する、 非凡の創造家に無理矢理強いるつもりかい。 ・・・台詞などいるものか。設定さえ与えていただければそれで十分。 さあ、教えたまえ。僕の演じる人間が、どのような男なのか。 客観的事実のみ与えてくれればよろしい。 さすれば、役は勝手に動き出すだろうから。 キサラギ:・・・・・。 ムツキ:(ひそひそと)あ〜あ。 ヤヨイ:(ひそひそと)これは危ないわよ。 キサラギ:[目に涙を浮かべてオーガストを睨みつける]・・・うっ・・うっ・・・。 オーガスト:・・・・わ、わかったよ。 ・・・君のために三十秒ですべての台詞を暗記してご覧に入れよう。
メイ、登場。 あまりの美しさに、一同、声をあげる。
ムツキ:おお! カンナヅキ:ひゃあ・・すげえなあ。 衣装係:[涙をふいて]メイったら・・・素敵! ヤヨイ:(傍白)いいなあ・・・。 オーガスト:・・・・・。 キサラギ:メイ、あなた、とってもきれいよ! メイ:ありがとう。 キサラギ:・・・さあ、それでははじめましょう! とりあえず一幕の冒頭からね。みんな自分の待機場所へ移動して!
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