第四場 帰り道
ノーヴェ、オーガスト登場。 仕事からの帰宅途中。
オーガスト:勘弁してくださいよ! どうして僕があなたに付き合わなくちゃならないんです! ノーヴェ:紳士じゃないわねえ。レディを一人で帰そうっていうの? オーガスト:僕をからかうと・・。 ノーヴェ:私、あなたが好きなのよ。 あんたって、とっても可愛くて、とっても面白いんだもの。 オーガスト:愛の告白と受け取っていいのかな? ノーヴェ:好きにとって頂戴。解釈する自由を奪う権利なんて、私にはないんだから。 オーガスト:ああ、僕は罪な男だ。 また女性をひとり、僕というくびきに縛り付けてしまった。 ノーヴェ:誤解しないで頂戴。 愛は解放よ。恋は束縛だけどね。私はあなたを、愛しているの。 オーガスト:つまり、あなたは自由・・。 ノーヴェ:そう!愛は無限で自由!だから、あたしはあんたに縛られもしないし、 あんたを縛りもしないのよ。 オーガスト:そう言われると無理矢理にでも縛り付けてやりたくなってしまうのが、 僕という人間の忌むべき性質だ。 ノーヴェ:そういうところが可愛くて好きなのよ。 オーガスト:・・・ふふ、あなたはなかなか手ごわい人のようだ。 僕の血がうずいて来ましたよ! 絶対にあなたという鳥を、僕の愛のかごの中に閉じ込めてご覧にいれよう、とね。 ノーヴェ:そうして欲しいわねえ。自由でいるのも、結構大変なんだから。 オーガスト:自由というのは、 自分の進むべき方角を知っている人にとっては素晴らしい無限の世界だが、 それを知らない人にとっては、恐ろしい無限の牢獄でしかない・・。 ノーヴェ:そうね。行き先がわからない人は、いくら道が無限にあったって、 どこへ進めばいいのかわからないのだものね。 オーガスト:僕が導いて差し上げますよ。あなたの道しるべになってあげる。 ノーヴェ:上手に言ったって無駄。私は誰にも支配されないもの。 オーガスト:ふふ、あなたが気がついていないようだ。 あなたは御自分に支配されているんですよ。 ノーヴェ:私自身に? オーガスト:そう。あなたの心はあなたの理性に支配されている。 ノーヴェ:難しいこと言われてもわからないわよ。
ノーヴェの家の前に辿り着く。とても豪華な屋敷である。
ノーヴェ:ありがとう!ここが私の家よ。 オーガスト:[屋敷を見上げて]これは・・・。 ・・・僕はとんでもないお姫様のお供をさせてもらったようだ。 ノーヴェ:上がって行く?可愛い従者さん。 オーガスト:いや結構!僕のような貧乏人が上がりこんで、 美しい屋敷の絨毯を汚すわけにはいきませんからね! ノーヴェ:それもそうね。
屋敷の中から、クアトロ、メイ、登場。 一同、互いに気がつく。
オーガスト:! メイ:! クアトロ:あ、お姉さん。 ノーヴェ:ただいま。 [メイに目を向けて]・・・そちらの可愛いお嬢さんは? クアトロ:ああ。紹介するよ。僕の恋人のメイだ。 メイ:[ノーヴェに]はじめまして。 ノーヴェ:はじめまして! あら、クアトロにはこんなに素敵な恋人さんがいたのね! クアトロ:・・・・・・。 [オーガストを見て、ノーヴェに]そちらは? ノーヴェ:ああ。この子は私の従者のオーガスト! 仕事場から私をわざわざ送ってきてくれたのよ。 オーガスト:・・・・・・。 クアトロ:ふうん。 [オーガストをまじまじと見て]・・・君、どこかで会ったことある? オーガスト:まさか!これが初対面ですよ。 クアトロ:へえ、そうだったか。いや、どこかで見たことあるような気がしてね。 メイ:・・・・。 オーガスト:・・・・・。 クアトロ:それじゃ、姉さん。俺はメイを駅まで送っていくから。 夕飯の仕度はよろしく! 材料はさっきメイに付き合ってもらって買ってきてあるから。 ノーヴェ:了解。ありがとうね、メイさん。 メイ:いえ。 クアトロ:それじゃ、オーガスト君も。 オーガスト:ええ。 メイ:[ノーヴェに]さようなら。 ノーヴェ:さようなら。またいらしてね!
メイ、ふと立ち止まって振り返る。
メイ:[オーガストに]・・じゃあね。 オーガスト:え?・・・ああ、さよなら。
クアトロ、メイ、退場。
ノーヴェ:あら、オーガスト。メイさんと知り合いなの? オーガスト:知り合いも何も・・・彼女のことだったら何だって知っていますよ。 ノーヴェ:なあんだ、そうだったの!それにしてはお互い何だかよそよそしそうだったけど。 オーガスト:太陽が朝を待てずに、あの子の夜に陽をさしてしまったんです。 ノーヴェ:はい? オーガスト:や、こちらの話・・。では、僕は帰ります。 また、明日、仕事場で。 ノーヴェ:うん。それじゃ、お疲れさん!
オーガスト、退場。
ノーヴェ:・・・・・におうわねえ。
[第五場へ]
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