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作品名:オーガストとメイ  第二章 作者:ハンス

第2回   第一幕  第二場
第二場  クアトロの部屋。


 クアトロのベッドの上で、クアトロとメイが横になっている。


クアトロ:ああ、愛する人とひとつになれることの幸福よ!
     でも、幸福を得るたびに俺は不安になるんだ。
     それを失いはしないか、と考えてしまう。
メイ:・・・・・・。
クアトロ:・・ああ、俺は君にそんな心配はない、と言って欲しかったのに。
メイ:[はっとして]あら、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたの。
クアトロ:女性が考え事をしているのは、彼女の中に何か満たされないものがある証拠だ。
メイ:まあ、そんな出鱈目も、箴言に飾り立てれば、それなり聴こえるものね。
クアトロ:じゃあ、証明してくれよ。出鱈目ではないとさ。
メイ:男の人の思い上がりは、女の人の心の悩みが、
   全て自分に関わりがあるものだと考えてしまうことね。
クアトロ:それも証明してくれ。
     君の悩みを作り出しているのが俺ではないということを。
メイ:あなた、子どもみたい。あれもこれも見せてくれだなんて。
クアトロ:君が何かを考えているのを見るたび、俺は不安になるんだよ。
     不安を晴らしたいという願いは、決して子どもに限ったものではないさ。
メイ:不安はいつだって幻想よ。
   ちゃんとその正体を見つめてやれば、たちまち消えてしまうわ。
クアトロ:だからそれを払いのけてくれと頼んでいるんじゃないか!
メイ:・・・・・・。
クアトロ:・・・・なんてね。平気さ、俺は君を信じているもの。
メイ:・・・ねえ、話題を変えましょうよ。そうね・・・・
   あっ、じゃあメイモーン芸術学校のことを教えて!
   そういえばあまり聞いたことがなかったものね。
クアトロ:聞かせるほどのものじゃないよ。
メイ:それは聞いてから決めるわ。
クアトロ:・・・・ひどいところさ。思ったような場所ではなかった。
     確かにそれなりの才能を持っている人間が集まっているよ。
     でもどいつもこいつも、絵画以外においては、ただの凡人さ。
     下世話な話で盛り上がり、面白くもないことで馬鹿みたいになって笑い合っている。     奴らはもう終わってしまったんだ。
     あの学校に入ることが、奴らのゴールだったのだからね。
     でも俺は違う。あの学校だってただの通過点に過ぎない。
     俺が偉大な目的を達成するまでのね。
メイ:偉大な目的・・?
クアトロ:知りたいかい。
メイ:ええ。
クアトロ:世界的な、歴史に名を残せるような偉大な画家になることだ。
メイ:まあ。
クアトロ:君だから話すんだぜ。他の人に言ったって、
     ただの若気の至ったロマンチストとしか見られないだろうからな。
メイ:そんなことないんじゃない?あなたはちゃんと結果も残しているんだもの。
クアトロ:そういうものは忘れることにしているんだ。
     過去の功績にすがりつくような奴は、その場所より先には進めない。
     その先を見ることはもう、できないのだからね。
メイ:ふむふむ。
クアトロ:俺が見ているのはずっと先だ。
     まだ先には何も見えない大海原だ。
     臆病者は適当に島を見つけてそこに落ち着き、
     その島のてっぺんでふんぞり返って暮らしていればいい。
     しかし俺の船旅は一生終わらない。生きている限り、俺は船をこぎ続ける。
     俺は偉大になる。そして、永遠にそれを超え続けてやる。
メイ:じゃあ、あなたの旅は一生終わらないの。
クアトロ:人生という旅に、ひとつとして終着点などというものはないんだよ。
     死という最大の終着点のほかにはね。
     ・・・・死んだあとのことには興味もないが。
メイ:なんだか、私、とても大きな人のとなりにいるみたい。
   自分がとても小さく見えてしまうわ。
クアトロ:そんなことはない。君だけが、俺を包んでくれるんだ。
     俺を包む君こそ偉大だよ。


 クアトロ、メイを抱きしめてキスする。


クアトロ:小さいのは俺の方だ。・・・・俺は時々、
     どうしても思い上がってしまうことがあるんだ。
     さっきだって、半分は良い格好をしてやろうと思って語ったものさ。
     でも君がとなりにいると、そんな自分がものすごくちっぽけに見えて、
     恥ずかしくなってしまうよ。
メイ:・・・・・・。
クアトロ:メイ、だからずっと俺のそばにいてくれ。
     君は俺のありのままの姿を現して、しかもそれを包んでくれるんだ。
メイ:・・・そんな、わたし・・・。
クアトロ:いつまでも、俺の傍にいてくれ・・。


 クアトロ、再びメイを強く抱きしめる。


メイ:・・・・・・。



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