第二場 クアトロの部屋。
クアトロのベッドの上で、クアトロとメイが横になっている。
クアトロ:ああ、愛する人とひとつになれることの幸福よ! でも、幸福を得るたびに俺は不安になるんだ。 それを失いはしないか、と考えてしまう。 メイ:・・・・・・。 クアトロ:・・ああ、俺は君にそんな心配はない、と言って欲しかったのに。 メイ:[はっとして]あら、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたの。 クアトロ:女性が考え事をしているのは、彼女の中に何か満たされないものがある証拠だ。 メイ:まあ、そんな出鱈目も、箴言に飾り立てれば、それなり聴こえるものね。 クアトロ:じゃあ、証明してくれよ。出鱈目ではないとさ。 メイ:男の人の思い上がりは、女の人の心の悩みが、 全て自分に関わりがあるものだと考えてしまうことね。 クアトロ:それも証明してくれ。 君の悩みを作り出しているのが俺ではないということを。 メイ:あなた、子どもみたい。あれもこれも見せてくれだなんて。 クアトロ:君が何かを考えているのを見るたび、俺は不安になるんだよ。 不安を晴らしたいという願いは、決して子どもに限ったものではないさ。 メイ:不安はいつだって幻想よ。 ちゃんとその正体を見つめてやれば、たちまち消えてしまうわ。 クアトロ:だからそれを払いのけてくれと頼んでいるんじゃないか! メイ:・・・・・・。 クアトロ:・・・・なんてね。平気さ、俺は君を信じているもの。 メイ:・・・ねえ、話題を変えましょうよ。そうね・・・・ あっ、じゃあメイモーン芸術学校のことを教えて! そういえばあまり聞いたことがなかったものね。 クアトロ:聞かせるほどのものじゃないよ。 メイ:それは聞いてから決めるわ。 クアトロ:・・・・ひどいところさ。思ったような場所ではなかった。 確かにそれなりの才能を持っている人間が集まっているよ。 でもどいつもこいつも、絵画以外においては、ただの凡人さ。 下世話な話で盛り上がり、面白くもないことで馬鹿みたいになって笑い合っている。 奴らはもう終わってしまったんだ。 あの学校に入ることが、奴らのゴールだったのだからね。 でも俺は違う。あの学校だってただの通過点に過ぎない。 俺が偉大な目的を達成するまでのね。 メイ:偉大な目的・・? クアトロ:知りたいかい。 メイ:ええ。 クアトロ:世界的な、歴史に名を残せるような偉大な画家になることだ。 メイ:まあ。 クアトロ:君だから話すんだぜ。他の人に言ったって、 ただの若気の至ったロマンチストとしか見られないだろうからな。 メイ:そんなことないんじゃない?あなたはちゃんと結果も残しているんだもの。 クアトロ:そういうものは忘れることにしているんだ。 過去の功績にすがりつくような奴は、その場所より先には進めない。 その先を見ることはもう、できないのだからね。 メイ:ふむふむ。 クアトロ:俺が見ているのはずっと先だ。 まだ先には何も見えない大海原だ。 臆病者は適当に島を見つけてそこに落ち着き、 その島のてっぺんでふんぞり返って暮らしていればいい。 しかし俺の船旅は一生終わらない。生きている限り、俺は船をこぎ続ける。 俺は偉大になる。そして、永遠にそれを超え続けてやる。 メイ:じゃあ、あなたの旅は一生終わらないの。 クアトロ:人生という旅に、ひとつとして終着点などというものはないんだよ。 死という最大の終着点のほかにはね。 ・・・・死んだあとのことには興味もないが。 メイ:なんだか、私、とても大きな人のとなりにいるみたい。 自分がとても小さく見えてしまうわ。 クアトロ:そんなことはない。君だけが、俺を包んでくれるんだ。 俺を包む君こそ偉大だよ。
クアトロ、メイを抱きしめてキスする。
クアトロ:小さいのは俺の方だ。・・・・俺は時々、 どうしても思い上がってしまうことがあるんだ。 さっきだって、半分は良い格好をしてやろうと思って語ったものさ。 でも君がとなりにいると、そんな自分がものすごくちっぽけに見えて、 恥ずかしくなってしまうよ。 メイ:・・・・・・。 クアトロ:メイ、だからずっと俺のそばにいてくれ。 君は俺のありのままの姿を現して、しかもそれを包んでくれるんだ。 メイ:・・・そんな、わたし・・・。 クアトロ:いつまでも、俺の傍にいてくれ・・。
クアトロ、再びメイを強く抱きしめる。
メイ:・・・・・・。
[第三場へ]
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