20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:オーガストとメイ  第二章 作者:ハンス

第1回   1
<<登場人物>>


 オーガスト = メイに恋する少年。
 メイ    = 喘息を患う少女。
 クアトロ  = メイの恋人
 ノーヴェ  = クアトロの姉


オーガスト・メイの男友達>

 ムツキ
 カンナヅキ


オーガスト・メイの女友達>

 ヤヨイ 
 キサラギ


オーガストの職場仲間>

 ロザリンド
 ヨージュ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



第一幕>


第一場  町のパンの製造工場、倉庫。


 オーガスト、登場。


オーガスト  労働を愛する・・・
       ああ、そんなこと、僕には到底不可能だ。

       労働で一体僕は何を得る?
       賃金?
       技術?
       ・・・それが一体何になる?

       ここの人間は嫌いだ。
       彼らの頭脳は、
       ただより良いパンを作り出すためだけの機械となってしまっている。
 
       生活資金のために体に無理を強いることを美徳とし、
       本当に求めるべきものから目をそむけ、
       よりよいパンを作り出す技術のみに力を注ぐことをよしとする。

       善く生きることよりも、
       永く生きることにのみ気をかける!
 
       彼らは恐れているのだ、自分を見ることを。
       真実をつきつけられることを!

       だが、ご安心。
       僕はあなたたちに、何も言わないよ。
       あなたたちの心は、まるで埃で塗れてさび付いているあの機械のように、
       全く動かなくなってしまっているのだろうからね。
 

 ノーヴェ、ロザリンド、ヨウジュ、登場。


オーガスト  [気づかない]僕は生産者ではない。
ノーヴェ  あ。
オーガスト  創造者だ。
ロザリンド  またさぼってる!
オーガスト  さぼっている・・?よくものを考えてから発言してほしいものですね。
       時間がないという言い訳ををするために、
       無理矢理労働に熱中して、最も大事な仕事から目を背けているのはあいつらだ。
ヨウジュ  やあ、またはじまった!
ノーヴェ  [オーガストに]最も大事な仕事って?
オーガスト  人間という仕事。
ロザリンド  よくわからないわ。
ヨウジュ  [ロザリンドに]こいつ、変なんだ。
オーガスト  まあ、あなたたちを正常とするなら、僕は変なのでしょうね。
ヨウジュ  [ロザリンドに]な。
ロザリンド  本当。
ノーヴェ  [オーガストに]また工場長に怒られたんでしょう。
オーガスト  ・・・・。
ノーヴェ  あんたって子ども。
      上手な世渡りってものをまるでわかっていないんだもの!
      いちいち刃向かうから、説教が長引いちゃうのよ。
オーガスト  というと・・?
ノーヴェ  説教する人って言うのはねえ、
      大概は自分の言っていることに酔いたいだけなのよ。
      だから、適当にハイハイ返事をしておいて、
      相手がそのうち調子にのって格言じみたことを言い出した時には、
      感動したような顔のひとつでも浮かべてやればいいのね。
      そしたら、もう、相手はすぐに満足して、どこか行ってくれるから。
ヨウジュ  [ノーヴェに]怖い女。
オーガスト  僕は自分に嘘をつけない人間なんですよ。
ノーヴェ  いいわ、それ!とっても格好いいわよ。
オーガスト  僕を馬鹿にすると・・。
ロザリンド  怒ったわよ。
ノーヴェ  怒らせると可愛いの。
オーガスト  ・・・・。
ヨウジュ  [オーガストに]大丈夫か?
オーガスト  ・・・ふっ。
       馬鹿にされて怒るのは、本当に馬鹿な人間なのだ。
ロザリンド  怒りを抑えているわよ。
ノーヴェ  そういうところもまた可愛い。
オーガスト  ああ!
ヨウジュ  [煙草に火をつけ、オーガストに]なあ、オーガスト。
      そんなことより、お前、どこの中等科に通ってるんだっけ。
オーガスト  第二百十四校。
ヨウジュ  二百十四!名門じゃねえか!
ロザリンド  へえ、頭がいいんだ。
ノーヴェ  じゃあ、中等科が終わったら、やっぱり高等科へ行くのかしら。
ロザリンド  高等科なんて行くのは落ちこぼれだけよ。
ヨウジュ  間違いねえな。
ノーヴェ  でも、第十二校とかあるじゃない。
ロザリンド  二百十四じゃ、十二には行けないよ。
       あそこに行くのは、知数5万以上の化け物だけって言うよ。
ヨウジュ  それじゃ、職専(職業専門コース)か。
      オーガスト、何やるの?
ロザリンド  やりたいこととかあるのかしら。
オーガスト  将来の話・・。僕がもっとも嫌う話題のひとつだ。
ノーヴェ  はい?
オーガスト  今、世の中は、若者たちにこう考えるよう強いている。
       「目標を定め、それに向かって歩め」と。
ヨウジュ  ふむふむ。
オーガスト  だが、僕はそれに対し、断固として言う。
      「何かがあるから歩むのではなく、
       何かがあるかもしれないから歩め」と。
ノーヴェ  ・・・・・。
ロザリンド  ・・・・・。
ヨウジュ  [オーガストに]それで?
オーガスト  ・・・・・・。
ロザリンド  黙っちゃった。
ヨウジュ  それだけ?
オーガスト  ・・・・・・。
ノーヴェ  偉そうなこと言うだけで何も考えてないんでしょう。
ヨウジュ  なんだよ!期待しちゃったぞ。


 ロザリンド、ノーヴェ、ヨウジュ、笑う。


オーガスト:(傍白)先ず其の言を行い、而して後にこれに従う・・。
      ・・・無知なる者の哀れよ


[第二場へ]


次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 1066