―イマジュナ界の全体像―
1997年6月、イギリス、ロンドンのトップハム大学で開催された英国プラトン学会の研 究発表会で、イギリスのプラトン研究の権威であり、神学者でもあるケニーブリッジ大学 のアレックス=シュミット教授によって、驚くべき資料が公開され、国内外のプラトン研 究者たちの注目を集めた。
シュミット教授は、学内の講堂ステージに立つなり、こう語り始めた。
「私は、昨年八月にエジプトの砂漠で発見された、古代エジプトで作成された思われる、ある対話記録の写本を特別に入手しました。使用言語はギリシア語で、写本の内容が古代アテネを舞台とした対話形式のものであったことから、それが一部で話題になったように、実際にソクラテスの対話を記録したものであるかどうかを確かめるために、我々は独自に調査を続けてきました。」 その資料とは、1996年8月に、エジプトのナパ大学の考古学の研究チームが発見した、 紀元前四百年から三百年頃に書かれたと思われる、ギリシア文字で記された古代エジプト の写本のことである。その発見が発表されるやいなや、発表の冒頭で教授が述べたように、 それがギリシア語で記され、文書の内容が対話形式で書かれたものであったことから、ソクラテスの新たな対話記録ではないかと、イギリスのあるテレビ局が特集を組んで報道したところ、一時期各地で話題となった。各国のプラトン研究者たちは、それには全く興味を示さなかったが、研究熱心なシュミット教授は、その真偽を確かめずに放っておくことができず、学生らと共に、独自に調査を続けていたのである。
「しかし」 と、教授は続けた。 「残念ながら、それがソクラテスの対話記録であるかどうかを判断する明白な確証は、結果的に得ることはできませんでした。しかし私は個人的に、これはソクラテスの対話記録であると確信しています。というのも、読んでいただければみなさんも同意してくださることと思うのですが、この対話記録に登場する聞き手役には、現在にまで残されているソクラテス像と深く似通っている点が多く見られ、彼の人間像を連想させるからです。そして、この文書の記録者は、一応プラトンであるようなのですが、確証は持てません。今、みなさんの手元にはその文章を翻訳したものがあることと思いますが、どうか、深く考えずに、軽い気持ちでお読みになってみてください。」 シュミット教授は、その対話記録に、ソクラテスとおぼしき人物の他に登場する、もう ひとり男のことについては、あえて最初には触れなかった。その文章に登場する人物がソ クラテスであるかどうかも疑わしいのに、ましてや、その中に「空想世界からの旅人」が 登場するなどと言われたら、頭の固い研究者たちは、すぐに読む気を失ってしまうだろう と考えたからだ。
シュミット教授の協力を得て、私はその文書をここに掲載することができた。温和であ りながら強い信念を内に秘めておられる尊敬すべきシュミット教授に、この場を借りて、 深い感謝と敬意を表したい。
リムノスと
[序]先生と、リムノス。 ソクラテスは、いつものように、広場で若者達を調べていた。 そこで、先生は、異国からやって来たある若者とお話になった。 私は、興味に駆られて、ふたりの問答を記録し始めた。
ソクラテス レメノンよ、ポリスも法律もなく、 それでいて争いや戦争が起こらないというのは、 実に素晴らしいことだ。 我々が真に理想とする国家は、 実にそのようなものなのだからね。
レメノン しかしソクラテス、それでは民は快楽に溺れ、 みなが他人の財産を奪ったり 他人の妻を寝取ったりするのではないでしょうか。
ソクラテス 愛しいレメノンよ、君は法律がなくなったら、 快楽に溺れ、他人の財産を奪い、 友の妻を寝取ったりするのかね。
レメノン ゼウスに誓って、ソクラテス、私は法律がなくなっても、 決してそんなことはしません。
ソクラテス では、全てのアテナイの民が君のように、 法律がなくなっても 悪事をはたらかないという意志をもっていたらどうかね。 法律がなくても、国家は平和に成り立つのではないか。
レメノン たしかに。
ソクラテス レメノンよ、このリムノスのやって来た国の民は、 みな、君のように真の正義と徳をわきまえた人たちなのだ。 だから、法律などという、 悪を無理矢理縛り付けるような鎖は全く必要ないのだよ。 利口な羊が、縄をほどいて自由にさせても、 ちゃんと主人のもとへ戻ってくるようにね。 いいかね、正義や徳を法律で定めることはできないのだよ。 多くの人がそれをしようと試みているが、 自由でいて不正をはたらかないことが、最も理想的なのだ。 そうだね、リムノス。
リムノス いかにも、そのとおりです、ソクラテス。
ソクラテス では、愛しいリムノスよ、 どうかぼくのために君の国のことを話してくれないか。 きっとここの若者たちも聞きたがっていることだろうからね。
リムノス もちろんです、ソクラテス。 私が話し惜しむ理由など、一体どこにありましょう。 あなたがたが満足なさるまでお話しするつもりです。
ソクラテス ありがとう。それでは、話してくれないかね。 尋ねたいことがあれば、みな、君がひととおり話し終わった後に 尋ねることにするから。
リムノス わかりました。
リムノス、しばし沈黙する。そして、語り始める。
リムノス 私は、イマジュナ界における地上界ジャープのハーヴァロという国から やって参りました。
イマジュナ界とは、あなたがたのうちの誰かが想像し創造した、 架空の空想世界です。
イマジュナ界は、天上のガイスト界と、 地上のジャープ界とに分かれており、 ガイスト界は、イマジュナ界の均等を司る聖霊の精神と完全の光の世界・・・ ソクラテス、あのマンティネイアの婦人があなたに語って聞かせた、 ダイモン(死すべきものと不死なるものの中間にあるもの)の世界です。 それに対し、ジャープ界は、物質と肉体と不完全の闇の世界です。
こちらの世界で言う隠世がガイスト界であり、 今あなた方のいる現世がジャープ界です。
イマジュナ界創造の物語は、数多く存在しましたが、 その中でも特に多くの人々に信じられていたのは、 尼僧ミアが伝えた物語です。
まずはじめに、全てが「有」りました。 そして、あなたがたのうちの誰かである「創造者」が、 「有」を有せしめるために、「無」を創造しました。 そうして、全てが生まれたのです。
魂に関してミアが語ったところによれば、 イマジュナ界に存在する全ての魂は、ひとつの完全なる全体(神)に 再び帰ること(リユニオン)を目指して向上しています。 全ての魂が、 それを思い出すための大きな流れ(プロセス)の中にいるのです。
ミアは「全てを悟った者」でしたから、ミアの語ったことは、ほぼ真実です。
そして、それら全てのプロセスが終了するのは、 ジャープ界、第八時代のことです。 その時、全ての魂は、 ジャープ界に降りて肉体という重りを授かる必要も、 自分(神)を体験する必要もなくなり、 ひとつの完全なる全体に再帰(リユナイト)します。 ちなみにジャープ界は、 第一時代から、第八時代という、八つの時代にわかれています。
第一時代は、主に、「生めよ、増やせよ」の時代。 第二時代は、主に、信仰と理性の戦いの時代。 第三時代は、主に、信仰に勝利した理性の発展する時代。 第四時代は、主に、ジャープ界の人々よりも 遥かに進んだ科学と思想を持つ異星人が到来し、 それによって魂と神秘への理解が 急激な発展を遂げる時代。 第五時代は、主に、信仰と理性が調和する時代。 神秘と科学が調和する時代。 あなたがたの世界の思想が多く伝わったのも この時です。 第六時代は、主に、哲学者による統治が行われる、 哲人政治に向かうための変革が始まった時代。 第七時代は、主に、哲人政治が実践された時代。 第八時代は、主に、無政府状態が始まった時代。 この時代は非常に永く続きました。 人々があらゆる欲から脱するにつれ、 少子化が急速に進み、 やがてすべての魂がプロセスを終え、 光とひとつになることができたのでした。
全ての魂は不滅です。ちなみにこれは、 あなた方の世界においても共通の事実です。 私もイマジュナ界に居た頃、 あらゆる時代にあらゆるを人生を送りましたが、 私がこの世界に迷い込んでしまったのは、 私が第四時代にジャープ界でリムノスという名と、 肉体を持っていたときのことです。 当時、私は、年老いた学者でした。 こちらの世界にやってくるその日まで、 私は、イマジュナ界を想像し創造した「彼」についての研究に 没頭していました。
「彼」の存在が知られたのは、 私がこちらの世界にやってくる、数十年前のことです (ちなみにジャープ界で使用されている暦は、あなたたちがいずれ使 うことになる、太陽暦と呼ばれるものです)。
「彼」は、あなたがたの世界からイマジュナ界に連行され、 「遊び心で世界を創造し、生命を侮辱した罪」の疑いで 裁判にかけられました。 その後「彼」どうなったかは、政府の判断で、 我々庶民には公開されませんでしたが、 強い興味にかられた私は、私は独自に研究を始めたというわけです。 そして、ある晩、 いつものように眠りにつき、目覚めると、 私はリムノスという名と肉体を失っていて、 その代わりに、偉大な知識と精神を得ていました。
そして、私の今までいた世界とも別の世界にいました。 それがこの世界です。 私は「創造者」である「彼」を探して、 こちらの世界の、 あらゆる時間と空間の中を旅しているというわけです。
ソクラテス ・・・・・。 プラトンよ、ちゃんと記録しておいただろうね。
*この後、シュミット教授は、教授自身も予想していた通り、多くの嘲りと侮辱を周囲から受けたが、偉大なこの教授は、現在も信念を曲げてはいない。
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