―イマジュナ界の法制度―
まず今回最初にご紹介するのは、ベルリンのシュタイナー精神医科学大学の教授でもある、精神科医ジョナス=アーヘンバッハ博士が、2002年7月15日に、ある二十代のドイツ人女性患者にカウンセリングを行った際、そこで行われた退行催眠の会話を記録するための録音テープから抜粋した対話文章である。
「『リム』―空想世界からの賢人―に関する記録」出版後、私は博士からお便りを頂き、その後数回のやりとりを交わした後、昨年の冬にベルリンに赴いて、博士の貴重なお話を聞かせてもらうことができた。
博士は自分が体験したことを、それまで誰にも語ることができなかったという。現在、スピリチュアルな事柄に対する理解は、この世の中にも広く浸透しつつあるが、空想世界を実際に「体験する」などと言う事例は、過去にも現在にも記録されていない。
博士は独自に過去の退行睡眠のカウンセリングを記録を調べ続けていたものの、精神科医である自分が、周囲から精神異常者扱いされてしまうことを怖れ、誰にも自分の体験を打ち明けることができずに、深い孤独に苦しみ続けていたのだという。
そんな時に私の著作を読んだ博士は、その時ようやく暗闇から抜け出すことができたのだと、笑顔ながらに語ってくれた。
当時の状況を順を追って慎重に語ってくれる中、博士は、一冊のノートブックを自分の引き出しから持ち出して、私に見せてくれた。それは、博士のプライベートな日記だった。 博士は、その時のカウンセリングの様子を、自身の日記の中に鮮明に記録していたのだ―
「・・・深い催眠状態にあったその女性患者は、突然震えだしたかと思うと、まるで別人のような・・・権威ある口調で語りだした。彼(その口調から男性であると私は判断したのだが)は、現世と隠世の両方を含めた、この我々の世界とは全く異質の世界(彼は『空想世界』だと言った)からやって来たのだと言う。トランス状態の超意識、または多くの退行催眠の記録の中で出現が確認されている霊的なガイド(指導霊、マスター)とは、全く異なるようである・・・」
女性患者:あなたたちは知らなくてはいけない。 あなたたちは自分たちの意識を変革しなくてはいけない。 もはや、法律や一般的な道徳の奴隷となるのはやめるべきだ。 あなたたちは目を閉じ、自分の心の音色に耳を傾けるべきである。 そのとき、あなたは初めて自分を宣言し、 自分の人生を生きることができるだろう。 博士:続けて下さい。 女性患者:私の住む世界のことを教えてあげようか。 私の世界には、法律や、「道徳の教科書」などというものはない。 それぞれの「個人」が、それぞれの「心」(価値観)に従って生きている。 博士:法律がないのですか。 それでは無秩序で、社会はどうしようもないほどに乱れるのではないでしょうか。 女性患者:法律とは、いわば自転車の補助輪のようなものだ。 自分の判断力のみで生きていくことのできない人が、 いずれ自分自身の判断基準を見出し、 それを信じて進むことができるようになるための チャンスを与える手段に過ぎない。 すべての被創造物はあなた自身を映し出すための鏡だ。 それなのに、あなたたちは、 法律に無条件で服従するばかりで、 法律の中に、自分自身の価値観を見ようとはしない。 博士:あなたの住む世界は、平和に成り立っているのですか・・その・・ 女性患者:そのようになるまでに多くの時間を費やしたが、 とりあえずそれで成り立っている。 博士:犯罪などは起きないのですか。 女性患者:悲しいことに、全く犯罪が起きないというわけではない。 僅かな歪が存在する限り、悲劇は消えないものだよ。 博士:では、犯罪者はどうするのですか。 法律がないのなら、罰されることもないのでしょう。 殺人などの凶悪犯罪を犯した者は、どうなのですか。 女性患者:私たちは何もしない。 博士:何も? 女性患者:何も。 博士:・・・・詳しく話していただけませんか。 女性患者:理解に苦しんでいるようだね。 しかし、あなたがたの世界にはこんな言葉が残されているではないか。 「幸福な者に対しては、妬みのない友情を、 苦しんでいる者に対しては哀憐を、 善行者に対しては喜びを、 悪行者に対しては、中立の心である無関心を」 博士:ヨーガ・スートラですか。 女性患者:そう。 これが大半の人の意識の中に浸透していると考えれば、 わかってもらえるだろう。 博士:では、あなたの世界では、 殺人犯が、一般人と何食わぬ顔で生活しているのですね。 女性患者:そう。 博士:そういった犯罪者達には、罪悪感と言ったものはないのでしょうか。 女性患者:あなたがたの世界には、罪悪感というものに関しては、 大きく分けて三つの段階の人間がいる。 つまり、罪悪感を全く持たない者、 罪悪感に心を支配される者、罪悪感の支配から脱した者。 少なくとも我々の世界には、 罪悪感を全く持たない段階にいる人間は、まずいないね。 博士:・・・自分が罪を犯したことについて罪悪感に苛まれている人に対しては、 どのように接するのですか。 女性患者:罪悪感から解放してやる。誰もがそうするだろう。 博士:どうして?そういった犯罪者から大切なものを奪われた人はどうするのですか? 全く恨みを持ち合わせないなんてことは言わないで下さい。 被害者や、被害者の関係者も、 みな彼を罪悪感から解き放とうと努めると言うのですか。 女性患者:そうするだろうな。 博士:どうして?全く理解できません・・。 女性患者:私に言わせれば、そういうあなたが理解できないよ。 あなたたちはすぐに誰かを悪人と決め付けようとするが、 その悪人だって、もとをたどればあなたがたの社会の中から生まれたのだ。 あなた方が作り上げた社会の中に悪人が生まれたのなら、 それはあなたがたの中に悪の一部分がある証拠だ。 あなたがたにだって責任がある。 博士:そうかもしれません。大きな視野で言えばね。 でも私は直接関わっていないんですよ。この世界で起きている犯罪には! 女性患者:自分に責任がないと言っている間は何ひとつ変えられないのだよ。 あなたがた全ての人が「それは私の責任でもある」と認めることができた時には、 きっと万引きのような小さな犯罪だってなくなるだろう。 ・・・直接関わりがないとはよく言えたものだ。 あなたがたはみな同じ種族だというのに。 博士:視野が広すぎて理解できないんですよ。 女性患者:そうかな。ではわかりやすく言ってあげようか。 あなたは精神科医だ。 あなたは精神科医である前にジョナス=アーヘンバッハだ。 あなたはジョナス=アーヘンバッハである前に男性だ。 あなたは男性である前に人間だ。 あなたは人間である前に動物だ。 あなたは動物である前に生命だ。 どうだ?生命を持つものは、みんなあなたの仲間なのだよ。 ひとつの生命は全て、全ての生命はひとつだ。 博士:わかっていますよ・・。 女性患者:さっきはわからないと言ったが。 博士:ペースが狂います。こんなことは初めてです。 女性患者:意識を内に傾けなさい。心を静めて。 博士:ええ・・・。 女性患者:呼吸に集中して、気を落ち着けて。 博士:・・・もう大丈夫です。 ・・・ところで、ひとつおききしていいですか。 女性患者:何でも。 博士:あなたは誰ですか? 女性患者:今は名も肉体も持たない精神体だが、 私が自分の世界にいた頃はちゃんとした名前も肉体も持っていた。 リムという名の学者だったよ。 博士:あなたのいた世界とはどのような場所ですか? 女性患者:・・・あなたらしくない質問だな。 博士:ああ、失礼。とても信じられなくて、冷静さを失っているんです。 ・・・ええと・・。 女性患者:しかしあなたの質問の意図はわからないでもないから、それに答えてあげよう。 私が住んでいたのはイマジュナ界という、 こちらの現実世界とは完全に別の空間と時間の秩序の中にある世界だ。 博士:別の惑星ということですか。 女性患者:いや。この世界の宇宙をも含めた空間とは別であるという意味だ。 こちらの世界では存在するが存在しない世界だ。 博士:どういうことですか。 女性患者:感覚的には・・・ あなたたちで言う五感ではとらえることのできないということだね。 博士:では、どこに存在するのですか。 女性患者:イマジュナ界は、あなたがたの世界の中の誰かの中に生まれた空想世界だ。 博士:空想世界ですって。 女性患者:そう。あなたがたの中の誰かがイマジュナ界を創りだしたのだ。 博士:・・・・ですが、あなたは確かに私の目の前に存在しています。 あなたの姿は見えませんが・・・、こうして会話をしている。 女性患者:・・・空想世界というものは、 あなたがた人間の数だけ存在すると言っても過言ではない。わかるかな。 博士:ええ。本とか、映画などにおいてですね。 女性患者:そう。幼子の可愛い想像まで含めてね。 博士:ええ。 女性患者:だが、私はここに存在している。今、あなたと会話している。 博士:はい。 女性患者:あなたがたの中の、イマジュナ界を想像し創造した誰かの内的世界を超えて、 私はこちらの世界にやってきたのだ。 何のために来たのかも、どのようにして来たのかもわからない。 それを問うために私はイマジュナ界を創り出した「創造者」を探して、 時空を旅しているのだ。 博士:あなたでも、「創造者」の居場所はわからないのですか。 女性患者:そう。 隠れんぼの上手な者だと聞いていたが、これほどまでとは思わなかった。 気が遠くなるよ。
―この後、突然交信が途絶える。
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