はじめに
私は、昨年の春(2005年4月)に、あらゆる外部の障害を押し切って、「『リム』―空想世界からの旅人―に関する記録」(格鵜社)と題した一冊の本を、故郷デトロイトのメイクビリーブ社より出版した。
自分の信念に従って出版に踏み切ったとはいえ、それに際して多く人が自分から離れ、関係を断ち切っていくにつれ、日に日に不安の念が自分の中に募っていったのを否定することはできない。 しかし私は、そんな悲しみをいくつもかいくぐろうと、その他のどんな無慈悲な仕打ちにあって惨めになろうとも、後悔だけはしなかったと断言できる。
それが報われたと言ってよいのか、その後「『リム』―空想からの旅人―に関する記録」は世界中で静かな反響を呼び、今私の手元には、世界各国から喜びと感動を伝える手紙が届いている。 その中には、もっと「『リム』のことを知りたい」、「未公開の記録もすべて公開して欲しい」という要望が予想以上に多く、残りの記録は決して公開しないと決めていた私も、それらの声と熱意に強く心を動かされ、今春に再び記録の編集に取り掛かった次第である。
そして、特に、メイクビリーブ社のノア=アルク氏、フォルスフッド新聞社のマーク=ゴスペル氏、NGO団体「オーム」のゴータ=マシタータ氏による温かい友情と協力によって、こうして再び「リム」に関する記録の出版に辿り着いたわけである。 前妻エヴァにも、伝えきれない感謝の念を、この場をかりて示したい。
初めて「リム」に触れる読者のために簡単に説明させてもらうと、「リム」とは、彼の言葉で言う、我々「の中の誰かが生み出した空想世界の住人」である。 「リム」が「空想世界」から、この現実世界にやって来たのは、今から約三十年前のことで、こちらの世界にやって来る途中で彼は肉体を失い、意識だけの精神体となって辿り着いたのだと言う。 その後、「リム」はこちら世界を浮遊して回りながら「観察」を続け、最近になって、ようやく自由自在に時間と空間を移動する能力を得、肉体を組織・操作する方法を見出したと言うのである。
「リム」の本当の姿を知る者は誰も居ない。「リム」はある時は老人、またある時は若い女性、といった風に、場所と時とによって、あらゆる姿に自分自身を変え、あらゆる人間を「演じて」いるのである。
「リム」に関する最初の報告は、前著「『リム』―空想世界からの旅人―に関する記録」に載せたように、サウスカロライナ州リンカーンハイスクールの学生オードリー=フォードによる現地新聞社への投稿書簡に始まる。 1998年4月、その日、ジュニア・プロムのためのタキシードを予約するために、徒歩で近くのショッピングモールへ向かっていたオードリーは、近所の公園で、子ども達を相手に不思議な話を聞かせている水簿らしい格好をした老人を目撃する。 まるで「何かに引き付けられるように」その傍へ近寄った彼は、とても信じられない、しかし、実に興味深い話を耳にした。 その老人は、しゃがれた低い声で、自分のやってきた「空想世界」の話を子ども達に聴かせていた―
「・・・そう、あれはいつだったかね。わしの住んでいた世界を創ったという神様が、裁判にかけられたことがあった。その裁判の様子がね、ゲルシフォン・・とは、まあテレビみたいなものなのだが、そこに映し出されて、イマジュナ界(「リム」の住んでいた「異世界」の名前)のほとんどの生き物がそれを見たのだよ。その神様が言うにはね、イマジュナ界も、私たちイマジュナ界の全ての住民も、みんな彼の想像が作り出したものだと言うのだ。それを聞いて怒り狂う人、絶望する人、信じる人、信じない人、色々な人がいたがね、私はただ笑うだけだった。いや、馬鹿にして笑ったわけじゃないよ。ただ、それがあまりに面白かったからさ。その神様は本当に面白い人だった。その人はね、我々に向かって、『あなたたちが私の中から勝手に生まれたのだ』と言うのだから。(中略)それで、私もいつかその神様と話せないものだろうかと私なりに研究を続けていたのだが、そしたらどうやらね、私はその神様のいる世界に来てしまったみたいなのだ。子ども達、それはこの世界、君達のいるこの世界なんだよ。」
「リム」は、その「神様」を探し続けているのだと言う。彼のいた世界「イマジュナ界」で裁判にかけられたという「神様」に関する情報は、彼の調査を続けていた彼の手元にも、ほぼ無に等しかったらしい(「神様」も自分の肉体を自由自在に操作できたらしく、残されている裁判の記録にも、彼は支離滅裂な発言や、意味不明な冗談を繰り返ししており、彼の言葉の何が真実で、何が真実でないかを見極めるのが、「リム」たち研究者の仕事だったという)。
(*中略―こちらの意図で一部分を省略)
以上が、「リム」に関する基本的な情報である。
(*中略)
「リム」の言葉が、これからも多くの人を楽しませ、心を潤し、生きる喜びと感動を与えてくれるものであると信じている。
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