第三幕
第一場 メイの病室
メイとヤヨイがふたりで何かを話している。
ヤヨイ:それで、どうだったの。 メイ:何が。 ヤヨイ:このあいだオーガストとふたりっきりになっちゃったでしょう。 メイ:ああ・・。 ヤヨイ:困ったんじゃない。 メイ:別に。普通に話したよ。 ヤヨイ:あんた、あいつ平気なの。 メイ:平気って? ヤヨイ:あたし、あいつのこと、どう扱っていいのかわからないのよ。 いつも人のことを馬鹿にして、からかっているみたい。 メイ:あなたの何を馬鹿にするのよ。 ヤヨイ:わからないよ。ただ、何ていうか、こう、上から人を見下しているみたいな・・。 メイ:そうじゃなくて。 ヤヨイ:何。 メイ:私が聞いたのは、彼があなたを「どう」馬鹿にしているかじゃなくて、 彼があなたの「何を」馬鹿にしているのかってこと! ヤヨイ:そうねえ・・・。何かしら。 メイ:ふむ。 ヤヨイ:・・・私の幼稚なところ、かしら。ああ、わからない。 メイ:あなたの幼稚なところ? オーガストはあなたの幼稚なところを馬鹿にするのね! ヤヨイ:そう。きっと。 メイ:ひどいわね! ヤヨイ:ひどいわよ!あの変態! メイ:誰にだって幼稚なところはあるわ。それを馬鹿にするなんて。 ヤヨイ:許せないわ。 メイ:じゃあ・・ ヤヨイ:何? メイ:どうすれば、あいつに馬鹿にされないでいられるかしら。 ヤヨイ:どうすれば? メイ:そう! ヤヨイ:そうねえ。 メイ:ふむふむ。 ヤヨイ:この星から追い出してやりたいわ。 メイ:そうじゃなくて。 ヤヨイ:わかってるわよ!「どうしたいか」じゃなくて「どうするか」、でしょ。 メイ:うん! ヤヨイ:んんん・・。 メイ:あなたの幼稚なところって具体的にどんなところなの。 ヤヨイ:幼稚なところ? メイ:そう、幼稚なところ。 ヤヨイ:そうねえ・・。怒りっぽいところかしら。 メイ:怒りっぽい。 ヤヨイ:うん。あたし、怒りっぽいのよ。 このあいだも、つまんないことでお姉ちゃんと・・。 メイ:怒りっぽいっていうのは・・あまりいいことじゃないわね。 ヤヨイ:そうね。 メイ:じゃあ、直しちゃえば。 ヤヨイ:直したいけど・・。 メイ:そうしたら、オーガストにだって馬鹿にされないわよ! ヤヨイ:そうかしら。 メイ:そうよ!だって、オーガストはあなたの幼稚なところを馬鹿にするんだって、 あなたが言ったんじゃない。 ヤヨイ:そうだったわねえ。 メイ:答えが見つかったわね。 ヤヨイ:答え? メイ:オーガストに馬鹿にされない方法。 ヤヨイ:ああ・・。 メイ:ね。 ヤヨイ:・・・。 でも、どうしてあたしが変わらなきゃいけないのよ。 あんな奴のために!あたしのことを馬鹿にするのはあいつよ! 確かにあたしもよくないかもしれないけど、 あいつだってひどいじゃない! メイ:ひどい。確かにひどいわ。 ヤヨイ:・・・これ、初めてあなたに話すけどね、あたし、 昔あいつに泣かされたことがあるのよ! メイ:うそ。 ヤヨイ:本当!小学生の時にね、同じクラスだったことがあってね、 あいつがテストでカンニングしているのを私が目撃して・・ メイ:ふむふむ。 ヤヨイ:あたしね、テストの後に、こっそりあいつに注意しに行ったのよ。 先生に言いつけたりするの、嫌だったからね、 そしたらあいつ、何て言ったと思う。 メイ:何て? ヤヨイ:「君が僕にカンニングが何故いけないのかを教えてくれたら、やめてあげる」 ですって。 メイ:うん。 ヤヨイ:だからあたしね、言ってやったの。 「卑怯だからよ!みんな頑張って勉強しているのに、 あなたはちっとも勉強しないで、カンニングなんかしちゃって、ずるいわ!」って。 メイ:それで? ヤヨイ:そしたら、あいつ、こう言ったのよ。 「勉強したことの内容を覚えるためのテストだろう、 勉強したことを覚えたか覚えてないかが重要であって、 テストの点数はまったく重要ではない。」 メイ:・・・・・。 ヤヨイ:どう思う? メイ:・・・悔しいけど・・、正しいわね。 ヤヨイ:そう!全く言い返せないのが悔しくて仕方なかったわ。 そしてそれだけで終わらせれば良いのに、あいつ、追い討ちをかけるように、 散々私を馬鹿にして帰って行ったのよ! メイ:まあ。 ヤヨイ:ああ、許せない!許せないわよ! メイ:落ち着いてったら。
オーガスト、花束を持って登場。
オーガスト:ああ、来てはいけないとわかっていながら来てしまった。 ヤヨイ:出たわね!一体何しに来たのよ! オーガスト:僕はなんて罪な男なんだ。 ヤヨイ:腹でも斬ったら! メイ:まあまあ。 オーガスト:何しに来たか、だって? 「僕はただやって来た。」 これ以上、他に何が言えようか。
僕が何故来たか、 ねえ、誰か、教えてよ。 ヤヨイ:お黙り!何なのよあんたは! オーガスト:こんにちは、美しい乙女達。・・・・おや? ヤヨイ:何よ。
オーガスト、メイのベッドのもとにかけより、 台の上に置いてある絵画コンクールのチラシを手に取る。
ヤヨイ:何なのよ。 オーガスト:[メイに]君、応募するの? メイ:まさか。 オーガスト:[ヤヨイの方を見て]まさか、君・・・ ヤヨイ:? オーガスト:ではないだろうな。 ヤヨイ:うう! オーガスト:ねえ、一体誰の何だい。 メイ:・・・・・。 ヤヨイ:ちょっと、あんた何なの?女の子がふたりで話をしていたんじゃない。 邪魔しないで欲しいわね。 オーガスト:[無視して、メイに]ねえったら。 メイ:・・・クアトロ先輩。 オーガスト:クアトロ!ああ、出たなクアトロ! メイ:[オーガストに]知っているの。 オーガスト:知ってしまったんだよ。知る必要もない存在だったがね。 そうか、奴がこれに応募するというのだな。 メイ:そう。 オーガスト:なるほどね。入賞したら結婚しよう、とでも言われたかな。 メイ:な・・。 ヤヨイ:まあ、そうなのメイ。 メイ:まさか!ただ、応援してって言われただけ。 オーガスト:ふふ、何てわかりやすい男だ。 そしてメイ、君も。 君は嘘が下手なんだね。だが、それでこそ美しい。 嘘をつく女というものは、 自分を隠すほどの価値があると思い込んでいる高慢なお姫様気取りに過ぎない。 メイ&ヤヨイ:・・・・。 オーガスト:失敬する!チラシも貰って行く! [花に気がついて、メイに渡す]あ、これは君に。 このあいだ、ちょっと僕も興奮してしまってね。どうか許して。 メイ:ありがとう・・。 オーガスト:[立ち去りながら]ああ、ありがとう言わないで。僕の胸が苦しむだけだ。 それじゃあ!
オーガスト、退場。
ヤヨイ:・・・・・。 メイ:・・・・・。 ヤヨイ:何なのよ、あいつは! メイ:さあねえ・・・。
帰り道。
オーガスト、傍白。
オーガスト:ふふ、クアトロ君。 君はまるで、何も知らない生まれたばかりの赤子のようだ。
残念だが、君は入賞できないよ。 それは、僕のために用意されたものなのだからね。
くっくっく。
君は愛しいほど哀れで、滑稽で、 間抜けな王子様気取りだ。 オーガスト、退場。
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