第五場 学校の廊下。
担任教師、教師A、歩きながら登場。
担任教師:まったく困ったもんです。 教師A:何が。 担任教師:うちのオーガスト君です。 教師A:ああ、彼。 担任教師:今日久々に学校に現れました。・・・どうすればいいか困りますよ。 教師A:彼はねえ、確かに扱いにくいよ。がつんと言ってやりましたか。 担任教師:まさか。どうせ言い負かされるだけですから。 教師A:最近の子どもは生意気です。口だけは達者だ。 オーガストなど、その典型ですよ。 いつか私も、きつく言ってやるつもりです。 担任教師:「生意気の一言で僕を片付ける気ですか。」 教師A:はい? 担任教師:「おお、哀れな人よ。 あなたは自分の小さな物差しで計りきれない人間を、 すべて『生意気』の一言で片付けるつもりか。」 教師A:彼が言ったのですか。 担任教師:ええ。 どう思います。 教師A:どうもこうも、実に腹立たしいですな。 完全に大人をなめとる。 担任教師:・・・・。 教師A:・・・・。 担任教師:どうなんでしょう。 教師A:何が。 担任教師:彼の言うことは、悔しいが、みんな筋が通っている。 教師A:屁理屈なら幼稚園児だって言える。 担任教師:でも私たちは、結局、彼を言い負かすことはできません。 教師A:でもねえ。 担任教師:確かに「生意気」のひとことで片付けてしまうのは楽です。 だけど、「見下すのも崇めるのも容易いが、向き合うのは難しい」というでしょう。 教師A:・・・・・。 担任教師:私たちは彼と向き合っているのでしょうか。 教師A:先生、私たちは正しいことを言ってやっているだけです。 彼は自分の減らず口に思い上がって、完全に大人を馬鹿にしています。 担任教師:ええ。 教師A:そんなことをしていれば、必ず将来痛い目をみます。 我々教師は、彼がそれを避けることができるよう、 年長者として、しっかり導いてやならくてはなりません。 それが我々の義務というもんです。 担任教師:そうですね。 教師A:礼儀は大切です。 社会では、人を敬う心がなくてはやっていけない。 我々は彼にそれを教えてやらなくてはいけないのです。 担任教師:わかりました。それじゃあ、頼みますよ。 今度彼にがつんと言ってやってください。 教師A:いいでしょう。時間があればね。 担任教師:・・・・・(時間があれば、か。・・・まったく)。
ふたり、退場。
|
|