第四場
オーガスト、ムツキ、カンナヅキ登場(下校中)。 オーガスト、煙草をくわえる。
ムツキ:おい、オーガストさん、今日、何本目だい。 カンナヅキ:落ち込んでいるんだぜ、きっと。 オーガスト:誰が! ムツキ:そうかあ、おひメイ様とはうまく行かなかったかあ。 カンナヅキ:残念だったなあ。 オーガスト:うまく行かなかった、だと。 相対的に物事を判断するのはよくないね! うまくいったのか、いかなかったのか。 そんなことは人知の及ぶところではない。 ムツキ:わかったよ。じゃあ、オーガスト君的にはどうだったのかな。 オーガスト:オーガスト君的・・? よく意味がわからないが、これだけなら言える。 今、僕の心は満たされていない。 カンナヅキ:心に隙間があればあるほど、煙草の煙がよく入るというわけですか。 オーガスト:君にしちゃ上出来だ。 カンナヅキ:[何気に嬉しそう] ムツキ:何があったんだ。 オーガスト:愛しいムツキ君、何故そんな愚かなことを尋ねる。 僕はね、借金の相談ならいつでも持ちかけるが、 恋の相談だけは絶対にしないのだ。 ムツキ:金返せよ。 オーガスト:恋の相談・・ それは自分に自信のない人間が、 他人の判断力にすがりつく恥ずべき行為だ。
そんなことができるものか!
自分に自信を持つことのできないような男に、 はたして乙女が彼女の心を託すことがあろうか。
恋とは差し詰め、相手の心を奪うこと。 そして僕こそは、狙った獲物は決して逃がさない鷹。
誰が、空を舞う勇気のない鷹に自分の身を任せようか。 空を舞う勇気のない鷹に、 美しい乙女の心を奪う権利があろうか。
否。
乙女の心を奪い去る権利があるのは、 それを大空へと連れ去り、 無限に広い自由の地平線を見せることのできる者だけだ カンナヅキ:[感慨深く頷く]。 ムツキ:それは言い過ぎじゃないかなあ。 恋に落ちればどんな勇者だって臆病者になるというじゃないか。 オーガスト:腰抜けは自慰でもしていればいいのだ。 ムツキ:おい! オーガスト:[聞いていない]ああ、メイ! 僕は君に無限に広い世界を見せることができるよ。
僕の心を感じて。 僕が、この世界の美しいものを、君にたくさん見せてあげる。 そしてたくさんの愛すべきものを、君に教えてあげる。
そのためにはどうかまず、君自身を愛して。 君の心が美しいことを知って。 僕がそれを教えてあげるから、どうか耳を傾けて。
君が自分のことを愛したとき、 はじめて君は全てを愛することができるのだから。 僕が君の翼を癒してあげる。 そして、君を、大空へ、自由に羽ばたかせてあげる。 カンナヅキ:[メモを取りながら]「自分のことを愛したとき・・」 ムツキ:おい!メモを取っているのか! カンナヅキ:だって・・。 ムツキ:どいつもこいつも・・・。 なあ、オーガスト!結局お前はどうしたいんだ! まさかいつまでもそんな陳腐な詩を歌って、 うだうだしているわけじゃあるまいな! オーガスト:ああ、友よ。 ムツキ:何。 オーガスト:僕のためを思うのなら、どうか下手なおせっかいはせず、 黙って見守っていてくれないか。 ムツキ:おせっかい! オーガスト:そう。 ムツキ:けっ・・・・。 ・・それよりオーガストよ、知っているかい。 メイは今、三年のクアトロって先輩に恋をしているんだと。 お互い、良い感じなんだと! カンナヅキ:ああ、そうだった! ムツキ:クアトロって言えば、学校一の紳士と有名だ。 お前みたいな変人とは、比べものにならないかもなあ。 なあ、どうする。 オーガスト:何を。 ムツキ:何を、だって?俺は、あきらめちまったほうがいいと思うがね! オーガスト:君、おもしろいよ。 ムツキ:何が。 オーガスト:恋に破れる男よりも、 恋を諦める男の方がずっと情けない。
戦って負けた男よりも、 戦わずに逃げた男の方がずっと恥ずかしい。 ムツキ:・・・・。 オーガスト:っくっく。クアトロだか何だか知らないが、 僕より魅力的な男がいるのなら、僕がその男に恋をするだろうねえ。 カンナヅキ:あはは。 ムツキ:勝手にしろ!この変態ナルシストめ!
ムツキ、足早に退場。
カンナヅキ:行っちゃったよ。 オーガスト:カンナヅキ。 カンナヅキ:ん。 オーガスト:人生にはね、下手に手を出しておせっかいをするよりも 黙って見守ることが大切なこともあるのだ。 カンナヅキ:ふむふむ。 オーガスト:それをしっかりと見極めるのが重要だよ。 カンナヅキ:ふむふむ。 オーガスト:・・・・。そんな紙切れにではなく、君の心の中に、 しっかりと刻んでおきたまえ。
オーガスト、退場。
カンナヅキ:[メモをとりながら]「心の中に・・」
カンナヅキ、退場
|
|