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作品名:オーガストとメイ 作者:ハンス

第6回   6
第四場


 オーガスト、ムツキ、カンナヅキ登場(下校中)。
 オーガスト、煙草をくわえる。


ムツキ:おい、オーガストさん、今日、何本目だい。
カンナヅキ:落ち込んでいるんだぜ、きっと。
オーガスト:誰が!
ムツキ:そうかあ、おひメイ様とはうまく行かなかったかあ。
カンナヅキ:残念だったなあ。
オーガスト:うまく行かなかった、だと。
      相対的に物事を判断するのはよくないね!
      うまくいったのか、いかなかったのか。
      そんなことは人知の及ぶところではない。
ムツキ:わかったよ。じゃあ、オーガスト君的にはどうだったのかな。
オーガスト:オーガスト君的・・?
      よく意味がわからないが、これだけなら言える。
      今、僕の心は満たされていない。
カンナヅキ:心に隙間があればあるほど、煙草の煙がよく入るというわけですか。
オーガスト:君にしちゃ上出来だ。
カンナヅキ:[何気に嬉しそう]
ムツキ:何があったんだ。
オーガスト:愛しいムツキ君、何故そんな愚かなことを尋ねる。
      僕はね、借金の相談ならいつでも持ちかけるが、
      恋の相談だけは絶対にしないのだ。
ムツキ:金返せよ。
オーガスト:恋の相談・・
      それは自分に自信のない人間が、
      他人の判断力にすがりつく恥ずべき行為だ。

      そんなことができるものか!

      自分に自信を持つことのできないような男に、
      はたして乙女が彼女の心を託すことがあろうか。

      恋とは差し詰め、相手の心を奪うこと。
      そして僕こそは、狙った獲物は決して逃がさない鷹。

      誰が、空を舞う勇気のない鷹に自分の身を任せようか。
      空を舞う勇気のない鷹に、
      美しい乙女の心を奪う権利があろうか。

      否。

      乙女の心を奪い去る権利があるのは、
      それを大空へと連れ去り、
      無限に広い自由の地平線を見せることのできる者だけだ
カンナヅキ:[感慨深く頷く]。
ムツキ:それは言い過ぎじゃないかなあ。
    恋に落ちればどんな勇者だって臆病者になるというじゃないか。
オーガスト:腰抜けは自慰でもしていればいいのだ。
ムツキ:おい!
オーガスト:[聞いていない]ああ、メイ!
      
      僕は君に無限に広い世界を見せることができるよ。

      僕の心を感じて。
      僕が、この世界の美しいものを、君にたくさん見せてあげる。
      そしてたくさんの愛すべきものを、君に教えてあげる。

      そのためにはどうかまず、君自身を愛して。
      君の心が美しいことを知って。
      僕がそれを教えてあげるから、どうか耳を傾けて。

      君が自分のことを愛したとき、
      はじめて君は全てを愛することができるのだから。
      
      僕が君の翼を癒してあげる。
      そして、君を、大空へ、自由に羽ばたかせてあげる。
カンナヅキ:[メモを取りながら]「自分のことを愛したとき・・」
ムツキ:おい!メモを取っているのか!
カンナヅキ:だって・・。
ムツキ:どいつもこいつも・・・。
    なあ、オーガスト!結局お前はどうしたいんだ!
    まさかいつまでもそんな陳腐な詩を歌って、
    うだうだしているわけじゃあるまいな!
オーガスト:ああ、友よ。
ムツキ:何。
オーガスト:僕のためを思うのなら、どうか下手なおせっかいはせず、
      黙って見守っていてくれないか。
ムツキ:おせっかい!
オーガスト:そう。
ムツキ:けっ・・・・。
    ・・それよりオーガストよ、知っているかい。
    メイは今、三年のクアトロって先輩に恋をしているんだと。
    お互い、良い感じなんだと!
カンナヅキ:ああ、そうだった!
ムツキ:クアトロって言えば、学校一の紳士と有名だ。
    お前みたいな変人とは、比べものにならないかもなあ。
    なあ、どうする。
オーガスト:何を。
ムツキ:何を、だって?俺は、あきらめちまったほうがいいと思うがね!
オーガスト:君、おもしろいよ。
ムツキ:何が。
オーガスト:恋に破れる男よりも、
      恋を諦める男の方がずっと情けない。

      戦って負けた男よりも、
      戦わずに逃げた男の方がずっと恥ずかしい。
ムツキ:・・・・。
オーガスト:っくっく。クアトロだか何だか知らないが、
      僕より魅力的な男がいるのなら、僕がその男に恋をするだろうねえ。
カンナヅキ:あはは。
ムツキ:勝手にしろ!この変態ナルシストめ!

 ムツキ、足早に退場。

カンナヅキ:行っちゃったよ。
オーガスト:カンナヅキ。
カンナヅキ:ん。
オーガスト:人生にはね、下手に手を出しておせっかいをするよりも
      黙って見守ることが大切なこともあるのだ。
カンナヅキ:ふむふむ。
オーガスト:それをしっかりと見極めるのが重要だよ。
カンナヅキ:ふむふむ。
オーガスト:・・・・。そんな紙切れにではなく、君の心の中に、
      しっかりと刻んでおきたまえ。

 オーガスト、退場。

カンナヅキ:[メモをとりながら]「心の中に・・」

 カンナヅキ、退場


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