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作品名:オーガストとメイ 作者:ハンス

第2回   2
第二場  病室

 メイ、ベッドの上で、壁によりかかって本を読んでいる。
 ドアが開き、ムツキ、カンナヅキ、キサラギ、ヤヨイ、遅れてオーガスト登場。

キサラギ:メイったら!
メイ:あれ、どうしたの、みんな。
キサラギ:どうしたのじゃないよ。そっちこそどうしたのよ!
ヤヨイ:何も教えてくれないで、本当に友達思いなのね。
    「みんなに心配かけたくなかったの・・」とでも言うのかしら。
メイ:ずばりそう。
ヤヨイ:そういうの、友達思いって言わないのよ。
キサラギ:信頼してないのねえ。
メイ:そんなこといわないで!来てくれてとっても嬉しいのよ。
   ああ、ムツキもカンナヅキも、オーガストも来てくれたのね!驚いた。
カンナヅキ:驚くことはないだろう。
ムツキ:そうだね。
メイ:おどろくよ。無愛想な君達がわざわざ来てくれるなんて。
キサラギ:男の子ってみんなそうよ。
ヤヨイ:女の前ではそうなだけよ。
    下手に自分を見せて嫌われやしないかとびくびくしているだけなんだから。
ムツキ&カンナヅキ:・・・・・。
メイ:あはあ。
   [こそこそしているオーガストに気づいて]おす。
オーガスト:おす。
メイ:[女子ふたりに]おす、って答えてくれたよ。
キサラギ:乗りがいいのね。
ヤヨイ:そう。サービス精神が旺盛な男っていいと思うわ。
オーガスト:・・・・・。
キサラギ:[メイに]ねえ、それよりどうなの。大丈夫なの。
メイ:大丈夫よ。至って健康。
ヤヨイ:じゃあどうしてこんなところにいるのよ。
メイ:お医者さんから見たら健康ではないだけね。
ヤヨイ:ややこしいよ。
キサラギ:すぐ退院できるの?ずっとこんなところにいるの?
メイ:まさか!だってただの喘息よ。夜になるとちょっと苦しくなるだけ。
ムツキ:ちょっとだけなのか。
メイ:そう。
ムツキ:どうなんだよ、オーガスト。
オーガスト:何が。
カンナヅキ:「何が?」じゃねえよ。喘息の苦しさってのは、ちょっとだけなもんなのかねえ。
メイ:あら、オーガストも喘息なの。
オーガスト:うん、一応。
メイ:喘息同盟。
オーガスト:そうだね。
メイ:・・・・・。
オーガスト:・・・・・。
ムツキ:・・・・・。
カンナヅキ:・・・・・。
ヤヨイ:・・・・・。
キサラギ  ・・・・・。
ヤヨイ:あ、もうこんな時間。あたし帰らなきゃ。
キサラギ:え、もうそんな時間?あたしも帰らなきゃ。
オーガスト:ん?
ムツキ:俺も用事があるんだった。
カンナヅキ:俺もそういえば。
オーガスト:おい!
メイ:みんな用事があるの?
ヤヨイ:まあね。健康な人は忙しいものよ。あなたはゆっくり休みなさいって。
キサラギ:そうそう。病気の人は休むのが仕事。
メイ:そうねえ。
オーガスト:おい!
ムツキ:オーガストはもう少しいてやれよ。お前はどうせいつも暇なんだから。
カンナヅキ:そうそう。喘息同盟の結成を祝って、仲良くやってくれや。
ヤヨイ:それじゃあね、メイ。また来るからね。
キサラギ:しっかり休むのよ。
メイ:ありがとう。
ムツキ:お大事に。
カンナヅキ:お大事に。
メイ:ありがとう。
ヤヨイ:じゃあ、またね。

 オーガストとメイを残して全員退場。

メイ:みんな行ってしまいましたね。
オーガスト:うん。やるならもっと自然にやって欲しかったね。
メイ:何を?
オーガスト:いや、気にしないで。それよりどうなんだい、調子は。
メイ:さっきも言ったじゃない。あたしは至って健康。
オーガスト:それなのに、医者は君をこんなところに閉じ込めたというのか。
メイ:そうなのよ。
オーガスト:憎むべき医者!人を生の鎖に縛りつける悪魔!地獄に堕ちてしまえ!
メイ:そこまで言わなくても。
オーガスト:や、言い過ぎた。
メイ:ねえ、オーガストも喘息なんでしょう。
オーガスト:そう。最近はわりとよくなったけどね。
メイ:どのくらいひどかったの。
オーガスト:たまらなかったよ。
      塵ひとつ吸い込んだだけで一日中苦しまなくてはならなかった。
メイ:可哀想。入院していたの。
オーガスト:時々ね。でも決して可哀想ではなかった。
メイ:どうして。
オーガスト:母親がそばにいてくれた。
メイ:まあ。
オーガスト:苦しかったけど、僕にとってその時ほど幸福な時間はなかったんだ。
      皮肉なもんだね。
メイ:あたしとは全然違うよ。
オーガスト:何が。
メイ:うちの親は心配してくれないの。
オーガスト:そんなことはないだろう。
メイ:まあね、確かに心配はしているわ。
   自分たちの投資してきた競争馬が、駄目になりはしないかと。
オーガスト:競争馬だって?
メイ:そう。私は競争馬なの。親が投資した以上のものを、返さなくてはならないのよ。
オーガスト:それは大変だねえ。
メイ:私の親が心配しているのは、私のことではなくて、私にかけてきた投資ね。
オーガスト:実に寂しい話だ。
メイ:ごめん。そんなこと聞いたって仕方ないわよね。
オーガスト:いや、決してそんなことはない。やっぱり君は病気であるとわかった。
メイ:どういうこと?
オーガスト:ああ、メイ、君の心は深く病んでいるよ。
      君が生まれたときに持っていた、ご両親に愛してもらいたい、
      愛したいという願いが、どうしようもないほどに踏みにじられている。
メイ:わかったように言うのね。
オーガスト:ああ、そして君は自分自身をも愛せなくなっている。
メイ:あなた何様?私の何がわかるの?
オーガスト:君のことなどわからない。だけど君の病ならよくわかるつもりだ。
      君が、自分は愛されるに値しない人間であると思い込んでいることだ。
メイ:やめて頂戴!
オーガスト:やめるものか、僕は君を愛しているのだから!
メイ:何ですって。
オーガスト:と、言っても、君を嫌っている君ではないがね。
      僕が愛しているのは、君を愛したいと願っている君なのだから。
メイ:・・・・・。
オーガスト:やあ、とんだ告白だ。煙草吸ってもいいかい。
メイ:煙草ですって。
オーガスト:そう。
メイ:あなた喘息でしょう。
オーガスト:そう。
メイ:あなたまだ子どもでしょう。
オーガスト:そう。
メイ:・・・じゃあ窓開けて吸ってよ。
オーガスト:吸うわけがないじゃないか。
メイ:はい?
オーガスト:君の病はそれだ。自分のことを大切にしていない。
      自分が苦しむということが、
      僕に煙草を吸うのを拒むに値する正当な理由ではないと考える。
メイ:あなたねえ・・。
オーガスト:君の友達も言っていたね。
      どうして君は、自分が入院しているのか教えてくれなかったのかと。
      そんな気遣いは、決して友情などではないと。
メイ:・・・・。
オーガスト:いつか、彼らを傷つけるよ。
メイ:・・・・。
オーガスト:ねえ、どうか君自身を・・
メイ:やめて。
オーガスト:やめて?

 メイ、手で顔を覆う。

オーガスト:どうして。
メイ:もうやめてよ。
オーガスト:・・・・・。
メイ:帰ってよう。
オーガスト  ・・・・。
メイ:お願い。
オーガスト:・・・・わかったよ。

 オーガスト、退場。

メイ:何なのよう。


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