第三場 川沿いの道(夕方)。
キサラギとメイが一緒に下校している。
キサラギ:あたしたちももうすぐ三年生! なんだか寂しいわね。 メイ:そうね。 キサラギ:三年生が終わったら、みんなばらばら。 みんな自分の行きたい道を進むのね。 メイ:そうねえ。 キサラギ:メイったら、さっきから軽い返事ばっかり! メイは寂しくないの。 メイ:寂しいわよ。ばらばらになってしまうって考えたらね。 でも、実感がわかないのよ。 キサラギ:そう。私は今考えただけで悲しくなっちゃう。 メイ:・・・・。 キサラギ:ねえ、メイは中等科が終わったら、どうするの。 メイ:あたし? キサラギ:他に誰が? メイ:さあ、私はあまり考えていないのよ・・。 ・・・キサラギは? キサラギ:あたし? メイ:他に誰が? キサラギ:あたしはねえ、ケーキ職人になりたいの。 メイ:まあ、そうなの。 キサラギ:ありきたりよね。 メイ:そんなことないわよ。 ケーキ職人が百人いれば、百のケーキがあるわ。 キサラギ:そうよね! メイ:ええ。 キサラギ:私ねえ、実は小さい頃からずっとケーキ職人になりたいと思っていたんだけど、 ある時から自分でそれを認めないようになっちゃったの。 メイ:どういうこと? キサラギ:ありきたり、って思われるのが嫌だったのね。 ふふ、くだらないでしょう。 だから、最近まで、ケーキ職人の他になりたいものを探していたのよ。 もっと、なんていうか、世の中に貢献できるような、 たくさんの人の役に立てるような・・ そんなお仕事はないかな、って。 メイ:うん。 キサラギ:私のやるべきことって、何だろうって、ずっと考えていたの。 それをこのあいだ、冗談交じりに、オーガストに言ってみたらね・・、 メイ:うん。 キサラギ:怒られちゃった! メイ:怒られた? キサラギ:そう!とても真剣にね。 メイ:そうなの。 キサラギ:うん・・・、本当に真剣だったのよ。 私、どきどきしちゃったんだから! メイ:・・・・。 キサラギ:オーガスト、最初にこう言ったの。 「それなら、君が最も誰かの役に立てる素晴らしい方法を教えてあげようか。」 メイ:うん。 キサラギ:それで私が興味深深で「教えて!」って言ったらね、こう言ったのよ。 メイ:何て? キサラギ:「君が輝いて生きることだ。」 メイ:・・・・。 キサラギ:「ありきたりだから嫌だ? 世の中に貢献したい? 志は立派だがね、 今の君は全く輝いていないよ!」 メイ:・・・・。 キサラギ:そう言って行っちゃった。 メイ:・・・・・。 キサラギ:オーガストにそう言われて、私、たくさん考えたのよ。 今の私は輝いているのかな、って。 どうすれば、輝けるのかなって。 メイ:うん・・。 キサラギ:それで、少しだけわかった気がするの。 メイ:何が・・? キサラギ:私が輝いて生きるっていうことは、 私が、私のやりたいことを、胸を張ってやることなんだって。
それが、どんなにありきたりのものでも、 誰にも認めてもらえないものでも、 胸を張って、全力でやることなんだって。
私はね、ケーキを作りたいと願っているのよ。 とてもありきたりで、 小さな望みかもしれないけど、 それを願っているのが私なの。 私はね、その願いを大切にしなくちゃいけないと思ったんだ。 メイ:・・・・。 キサラギ:人の役に立つために生きる・・それって少し違うのよね。 きっと、私が自分のやりたいことを全力でやって、私らしく生きていれば、 知らないうちに誰かの役に立っていたりするんだと思うの。 誰かの役に立つか、立たないかなんて、私の決めることじゃないのよ。 私が私のためにやることが、 知らないうちに誰かのためになっていたりするのだと思う・・ メイ:うん・・。 キサラギ:そう思ったよ。 メイ:そう・・。 キサラギ:・・・ふふ、オーガストって時々良いこと言うよね。 いつもふざけているかと思えば、そんな一面もあったりして。 メイ:うん。 キサラギ:ここは意見がわかれるところだけど・・・、 メイ:? キサラギ:オーガストって、素敵よね! メイ:・・・・・。 キサラギ:ね! メイ:ええ・・。 キサラギ:とっても! メイ:うん、とっても。 キサラギ:とってもとっても素敵! メイ:そうね・・。 キサラギ:[スキップして](傍白)うふふ、借りは返したからね、オーガスト。 メイ:何か言った? キサラギ:何でもないのよ。 さ、帰りましょう。
キサラギ、メイ、退場。
[第五幕へ]
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