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作品名:オーガストとメイ 作者:ハンス

第15回   第四幕  第三場
第三場  川沿いの道(夕方)。


 キサラギとメイが一緒に下校している。


キサラギ:あたしたちももうすぐ三年生!
     なんだか寂しいわね。
メイ:そうね。
キサラギ:三年生が終わったら、みんなばらばら。
     みんな自分の行きたい道を進むのね。
メイ:そうねえ。
キサラギ:メイったら、さっきから軽い返事ばっかり!
     メイは寂しくないの。
メイ:寂しいわよ。ばらばらになってしまうって考えたらね。
   でも、実感がわかないのよ。
キサラギ:そう。私は今考えただけで悲しくなっちゃう。
メイ:・・・・。
キサラギ:ねえ、メイは中等科が終わったら、どうするの。
メイ:あたし?
キサラギ:他に誰が?
メイ:さあ、私はあまり考えていないのよ・・。
   ・・・キサラギは?
キサラギ:あたし?
メイ:他に誰が?
キサラギ:あたしはねえ、ケーキ職人になりたいの。
メイ:まあ、そうなの。
キサラギ:ありきたりよね。
メイ:そんなことないわよ。
   ケーキ職人が百人いれば、百のケーキがあるわ。
キサラギ:そうよね!
メイ:ええ。
キサラギ:私ねえ、実は小さい頃からずっとケーキ職人になりたいと思っていたんだけど、
     ある時から自分でそれを認めないようになっちゃったの。
メイ:どういうこと?
キサラギ:ありきたり、って思われるのが嫌だったのね。
     ふふ、くだらないでしょう。
     だから、最近まで、ケーキ職人の他になりたいものを探していたのよ。
     もっと、なんていうか、世の中に貢献できるような、
     たくさんの人の役に立てるような・・
     そんなお仕事はないかな、って。
メイ:うん。
キサラギ:私のやるべきことって、何だろうって、ずっと考えていたの。
     それをこのあいだ、冗談交じりに、オーガストに言ってみたらね・・、
メイ:うん。
キサラギ:怒られちゃった!
メイ:怒られた?
キサラギ:そう!とても真剣にね。
メイ:そうなの。
キサラギ:うん・・・、本当に真剣だったのよ。
     私、どきどきしちゃったんだから!
メイ:・・・・。
キサラギ:オーガスト、最初にこう言ったの。
    「それなら、君が最も誰かの役に立てる素晴らしい方法を教えてあげようか。」
メイ:うん。
キサラギ:それで私が興味深深で「教えて!」って言ったらね、こう言ったのよ。
メイ:何て?
キサラギ:「君が輝いて生きることだ。」
メイ:・・・・。
キサラギ:「ありきたりだから嫌だ?
      世の中に貢献したい?
      志は立派だがね、
      今の君は全く輝いていないよ!」
メイ:・・・・。
キサラギ:そう言って行っちゃった。
メイ:・・・・・。
キサラギ:オーガストにそう言われて、私、たくさん考えたのよ。
     今の私は輝いているのかな、って。
     どうすれば、輝けるのかなって。
メイ:うん・・。
キサラギ:それで、少しだけわかった気がするの。
メイ:何が・・?
キサラギ:私が輝いて生きるっていうことは、
     私が、私のやりたいことを、胸を張ってやることなんだって。

     それが、どんなにありきたりのものでも、
     誰にも認めてもらえないものでも、
     胸を張って、全力でやることなんだって。

     私はね、ケーキを作りたいと願っているのよ。
     とてもありきたりで、
     小さな望みかもしれないけど、
     それを願っているのが私なの。
     私はね、その願いを大切にしなくちゃいけないと思ったんだ。
メイ:・・・・。
キサラギ:人の役に立つために生きる・・それって少し違うのよね。
     きっと、私が自分のやりたいことを全力でやって、私らしく生きていれば、
     知らないうちに誰かの役に立っていたりするんだと思うの。
     誰かの役に立つか、立たないかなんて、私の決めることじゃないのよ。
     私が私のためにやることが、
     知らないうちに誰かのためになっていたりするのだと思う・・
メイ:うん・・。
キサラギ:そう思ったよ。
メイ:そう・・。
キサラギ:・・・ふふ、オーガストって時々良いこと言うよね。
     いつもふざけているかと思えば、そんな一面もあったりして。
メイ:うん。
キサラギ:ここは意見がわかれるところだけど・・・、
メイ:?     
キサラギ:オーガストって、素敵よね!
メイ:・・・・・。
キサラギ:ね!
メイ:ええ・・。
キサラギ:とっても!
メイ:うん、とっても。
キサラギ:とってもとっても素敵!
メイ:そうね・・。
キサラギ:[スキップして](傍白)うふふ、借りは返したからね、オーガスト。
メイ:何か言った?
キサラギ:何でもないのよ。
     さ、帰りましょう。

 キサラギ、メイ、退場。


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