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作品名:無鉄砲が成功に繋がる世の中だ 作者:田添田

第9回   第九章 若い芽(最終回)
翌日、会長室に清三と光一、一郎、今田財務部長の五人が集まって居た。
「光一、今回は本当に御苦労で有った。
君には本来、社長が提案した様に世界経済の投機市場に対する経済企画研究所を設立して君に担当して貰うのが筋かも知れない。だが先日も申した様に、光一、君には利益のみを追求する商社では無く、世界の全ての人類がどう生きるかであって、全ての人類が幸せな人生を送れるかを立案行動していく事が、商社の使命で過去もそうだが未来も変わらないと思う。君に当て嵌(はま)るかどうかは知らないが、刹那的と云われる現代の若者の一人として君の意見を伺いたい、今後の企業の有り方、意識改革及び構造を如何に構築するかの抱負を訊かせた呉れ、君なら私信を持って居るだろう」
光一は今度の株の売買でしみじみ身に滲みた事は、原油の高騰に世界の経済が震撼させられ、インフレが生じ、鉱石金銀、食糧実物経済が異常に上昇した実事だ。
「はい、今回の事で実物経済に強い影響があり世界の実体経済が混乱して憂慮させられました。実物経済が金融経済に引きずられ実体経済を上下に揺り動かされた現実が、原油高騰とサブプライムローンと云う、不確かな証券商品に根底から揺さぶられ世界経済が下降、失速仕様として居る事です。ヘッジファンドが舞い踊り嵐の様な熱風が吹き荒れ、世界中を駆け巡り金融経済を異常に拡大していきました。数百兆円とも云われる金融市場が世界を独り歩きして、実物市場を押し上げ実体経済が悪化させられ悩まされる事と成りました、其の結果世界の国民生活が脅かされ、世界経済を震撼させています。実物経済が翻弄(ほんろう)乱高下して、資本主義経済の末期的症状が現れ様としている事です、世界のヘッジファンドの崩壊は必ず訪れると思います。
金融恐慌に近いインフレと金融経済の末路は不況によるデフレです、歴史が物語るように極度なインフレ、デフレは国民生活を直撃倒産失業の波は間違いなく世界に吹き荒れます、不動産業が手始めに消費経済が収縮、全てが下落基調を辿る事と成るでしょう。
然し、賢明な世界の人類はアメリカ経済を中心に実物経済に基づいた新しい金融経済を派生させ、堅実な金融市場が実体に有った形で時間は掛りますが静かに台頭して来ると思います。其れにしてもアメリカを対象にした世界の物資提供の形は是正され、アメリカ一辺倒の流れは弱まり世界各国は自国の経済繁栄を考へねば為らない事に気が付くでしょう。日本が得意とする先端技術と云っても、他国に出せば、手にした商品を参考に数カ月でクリア独自の製品開発を行い得る土壌を世界は持ち始めて居ます、国によっては其れ以上の製品を作り上げるでしょう、結局世界は一つと云う事ですが、良い物ならば皆で作れば怖くない現象は、先端を行く日本は超独自の優れた先進を考えざるを得ません、現時点では世界中が原油高騰で困って居る、儒給のバランスは何れ是正されるでしょうが困窮は開発に繋がると云いますが、一つのチャンスとして開発の目が向けられ、人間が持つ自衛本能はガソリンに対しても、当然代替え品が研究され、早かれ遅かれ成功して巷に出てくるでしょう、其れにエネルギーと成る其の物質が開発、台等して来るでしょう」
光一は以前から考えて居た事で有ったが此処一年、株騒ぎで頭の隅に追いやって居た事を、暫く目を瞑り考え思い出して居た。
「光一、会長の前だからと云って、背伸びをしてはいかん、今のお前には荷が重い」
光一は父の言葉に心で反発をしながら静かに口を開いた。
「佐々会長、私が二年ほど前から危惧して居る事が有ります、其れはインド、中国、ブラジル、ロシア、詰まりBRICSの考えられない発展です、金融市場に深くとり入ったシンガポールです、勿論経済の拡大には付き物の悪癖として物価の激しいインフレが続いて居ます、原油採掘を国有化したロシアは日本の中古車しか買えなかった人々が新車を買い、女性はパリのブランド品を買える様に成って居ます、産油国は良いインフレですが、消費国では原油高騰が食品不足に迄及ぼし悪インフレが起きています、企業の優秀な開発は貧富の差を招き、折角の商品も国民の日常生活に於いて二極化、頭でっかちと成り高所得者と一般国民に価格面で普及が遅れ、数量が少なく限定的で拡大路線は遅滞して居ます、アメリカの不況は世界の物流を収縮実体経済に悪影響を及ぼします」
光一は父の顔を見て頷き言葉を続けた。
「企業の改革進歩にも拘わらず、不況が故に相反して購買意欲が削がれ委縮して、何れの国も売り先の無い輸出の後退に経済を小さく収縮させて仕舞う傾向にあります。日本は物作り先端技術の開発力は一歩先んじて居るものが多いのですが、国内景気を高揚し需給のバランスを考へ、今迄の様に人件費や土地や設備の安い国で作り、いち早く世界の国々へ輸出の考えは慎まねば為らないのでは無いでしょうか、物を作ろうとすると、九十九パーセントが原油を要します、原料は原油から抽出されます」
「そうだ、安い丈夫と云うので繊維製品、鉄筋コンクリトにも色々な樹脂が使用されて居ると訊く…」
「私は人間生活の根幹を考える時が来たのでは無いかと思われます、地球温暖化やエコ問題が切実と成って居ます。衣食住が進化して居るのは間違い無いのですが、例えば木材は木材、金属は金属でしか使用されて居ない、あらゆる素材を混合して、優秀な融合材を作り建築資材開発が必要な時代に成って来た様に思われます、神社仏閣に見られる二百年三百年以上経っても健在な建築物に感嘆するのみで、当時の自然環境での為せた事かと存じます、現在ではその様な木々は皆無あっても天然記念物に指定され耐久材としての使用は敵いません、其の研究は必然欠かせ得ない急務かと…。地球温暖化による水没は世界各国で海面の上昇が見られると考へられます、原始時代に人間の智勇が万物の霊長と成った我々は、自然のいかなる変化にも対応しなくては為らない、また、為し得て雄大な人間生活の社会を考え作らねば成りません、今日本に直面して居る事は以前に申しました様に農業政策が急務です、次に国内経済高揚に何と云っても住宅が上げられます、核家族が齎(もたら)した住まいの無駄遣いが顕著な事です、大抵の家庭では子供は子供で五千万程度の、精々持っても五六十年のマンションを買い、親は親で同額程度のマンションで住み安堵している、二軒合わせれば一億数千万円、同居ならば百年、二百年の戸建て住宅も夢では無く、一代限りの家族では無く何代もの住宅として守っていけるのでは無いでしょうか、各地に乱立しているマンションは何れ粗大ごみと成る者が多いのでは無いでしょうか、大いなる資源の無駄遣いと云うべきです。政治の無能ぶりは住宅政策の改善で大きく消費の無駄を省く事が出来、内需拡大に繋がり豊かな生活が可能かと思います、農業政策の具体案として毎年起きる天災に関しては干ばつ、大雨対策を恒久的に勘案して洪水、農業用水確保に力を入れ、住宅並びに作物の安定化を図る、農業も機械化、ロボットの進化を急ぎ広域農業化でコスト削減に尽力、三Kと若者に嫌われた職域の解消、農家の近代生活を推進する事です。都市集中化の解消は、地方の活性化に他ならないのです、其れには地方の産物のブランド化が必須条件で有ります。都会で売られて居る加工食品の原料は全て国内外であれ、地方で産出された物で有ります。地方は地熱、太陽熱風力が開発しやすく、産業、工業化すれば若者の流失も防げる。都市の大学を卒業して其の侭大企業に就職する構図は地方を過疎にして原野に戻してしまう、其れには楽しい農業で無くては人は集落を成さない、地方の発展は地方の工業化は労働者の雇用に繋がる事でしょう、さすれば村から町へ、都市へと付加価値の有る商品の輸送も頻繁に成り、商業道路も今以上に必要と成ります、都会の小規模メーカーは地方に協力、大型店舗とは違う小回りの利く強みを利用して地方の直売店を都市の街並みに作り、新鮮な良い商品が供給、販売されるのでは無いでしょうか。今の農協の大半の活動は好影響を与えて居るとは思えません。農業の産業化は必須でしょう。我ら商社は世界の国から今以上に資源開発に手を貸し、国内では各地域にロボット化を推進、若者と共に歩むと云う構想を漫画チックに考えて居ます、都市集中の緩和が地方全体に進化と幸せを及ぼすと思います」
「うむ、其れにエネルーだが太陽熱と地熱利用に付いては初期段階と言える、地熱に付いては安定供給も可能だ、其れに資材の融合ねえ…再生は勿論、新素材の開発は二十一世紀の使命であり、産業に於いても製造に必要なエネルギーの残存逃避する熱の再利用は研究課題であり産業革命と云える」
「日本の大学生の怠慢ぶりは目に余るものが有ります。大学を最先端研究化して産業、工業機関の重要な智慧袋として企業が今以上に親密に上手にお互い先駆者としての互換性を持ち人類の発展に寄与していく様に官が指導せねば為りません」
「我ら商社の成すべき課題は山積している」
「ITによる社会インフラによる企業構造の進化は今後益々期待できます。環境基本法案がサミットで重要課題として取り上げられて居ました。我々商社も経済的に住みよい社会を目指して今日迄来ましたが、此れからは自然に優しく無駄の無い社会を創造して現実化を一日も早く行わねば為らない時に来ています、其れに現在のアメリカですが金融政策に軟弱さが見えます、サミットが終わり強いドルと云いながら必ず一週間程でドル安に転じるでしょう、アメリカの世界に於ける警察官の時代は終わりました、恐らく第二次大戦の様な世界を二部する戦争は起きないでしょうが、テロに対する脅威は無くならないと思います、貧富の差が無くならない限り、その脅威に晒されます。其れにアメリカ経済の停滞、消費の下落は世界不況に連鎖します。何十年先に成るかは分かりませんが今は未だアメリカの不況は世界の不況に繋がる事を世界は知らねば為りません。アメリカが重い心臓病を患った今、中小新興国は債務不履行で財政破綻を起こしかねない状況で何れ陥る国も出て来るでしょう、先進国、大国も自国の不況対策に追われ、他国の救済をする体力が無く成る。そう成ればIMFにも未曾有に融資の資金が寄せられる分けでは有りません、世界の大国迄が悲劇を見る事も考えねば為りません。アメリカは今の不況をイラク、アフガンで多額の財政(ざいせい)支出(ししゅつ)を余儀なくされ、アメリカの不況は金融政策だけの誤りでは無いと言いたいのでは無いかと思いますが、アメリカはイラクに対する損失を、世界に共有して貰いたいのでは無いでしょうか?しかしサミットでは、どの国もアメリカのスタッフレーションを恐れながらアメリカの金融政策の遅れ、誤りの指摘はしないで。協調とだけを云い其れ以上は藪蛇に成るのではと思ったのか,自国の経済危機にあおられてか強い追及はしませんでした。流石に何処かの国のマスコミはFRBの後追いを指摘して居た様ですが、此の侭では原油高騰は際限なく天井知らず不況下のインフレはアメリカのみならず世界を圧倦するでしょう、EUは金利を上げましたがインフレに対しての牽制程度で再値上げは言及しませんでした、其の効果は限定的と云われ何れ利下げは遣るでしょう、全てサブプライム問題と原油価格に掛って居ます」
「そうだ、アメリカがイラクからの引き上げを考えて居ない以上、世界大恐慌によるか?スッタフレーションの洗礼を受け消費の抑制が原油高を落し下げる事に期待する他ない」「若し事態が悪化して世界恐慌が実際に遣って来たとすれば、景気の回復に可なりの歳月が要する事と成ります。アメリカ、EU、日本も今のところ適切に打つ手を持ち合せていません、勿体無い…が世界共通語に成った様ですが喜ばしい様な、捨てる文化を叫ばれた時代が懐かしく、食糧危機の到来も忍び寄っています。我々は民族皆、平等と幸せな生活を送る権利が有り助け合いに徹する世の中にしなくてはなりません、社会の構造がピラミット形を有している限り金、人、物の動きに各々の業界に変化が起こり、況不況の経済に即応出来る様に複雑なペーパー市場は先に述べた様に新ためる時が来て居るのです。
繰り返しますが、金を安定的に得る為、デリバテブや先物市場を以って、実物経済を尻目にレバリッジを掛け数倍の金を安易に膨らませて巨大な経済圏を作って仕舞ったのですが、実物市場が先物商品市場に追従し引き上げられる弱さが全物資にインフレを招き、不自然な経済構造に是正され様として居ます。現実の今の日本は労働者にしても派遣人口が三割を占め雇用の増減は企業サイドで労働基準法とは無関係な新たな雇用が蔓延、即日採用、解雇ができるアルバイト雇用に重きを置き、企業サイドと成っています。彼らの収入減が及ぼす経済の収縮、生涯雇用の不安に依る消費経済の悪化を懸念せざるを得ません。サブプライムが発信した住宅不況は世界の企業全般に及ぼし、世界恐慌に迄憂慮させられる懸念となっています。各企業の減産は金、人、物の悪循環を繰り返し、各国の大企業は依り安い人件費土地へと設備投資の安価な国外に逃避してもやがて来る世界の不況に引き上げ、自国の縮小が益々加速する事でしょう。其の為我が国に依らず具体的には衣食が二極化され、高価は安価に駆逐され購買の低下は在庫処分によるデフレ、銀行の貸し渋りによる企業の倒産、不動産の価格の低下、三十万の裾野を有すると云われる建設業の此処数年の不況は、底辺の低所得者人口が増え生活を圧迫し続けて居ます、値引き競争による廃業、資材の原油高による高騰、地方建設業の赤字、マンションの見込建設は貸し渋りで黒字倒産件数が増加の一途を辿って居ます。
原材料の高騰をも気にせず高価格の物を購入できる勝者は一握りの金持ちだけ、不満分子は無差別に犯罪に走り、其の又一握りの心なき貧者は悪事を働き刑務所に衣食住を求める者が出る始末、庶民は眺めるだけの人生を送る人が多くなる事でしょう。佐々会長が云われた様に我々企業人は平等の精神を怠る事無くピラミットの底辺を広く、頂上を高くする事、詰まりは山を大きくする事を常に考え邁進して行かねばなりません」
佐々は暫く沈黙の後、嬉しくも寂しそうに言葉を選び、ゆっくり云った。
「我等、シニア族は仕事が青春、生涯と思って居たが終焉が近好きつつ有る様だ。昭和の戦中戦後が今や遠い歴史と成った。苗木がすくすくと育つ姿を見るに付け老木の去る時期が来たかねえ」
清三の顔を眺め頼もしそうに光一と一郎に目を移した。
「会長のお言葉とも思えません、アメリカ欧州アジアの新興国と日本はまだまだ振り回されるでしょう、不安定な経済は国民が直撃を受け、安定させるには企業も経営其の物を見直し、需給バランスを国内にも向け、海洋日本として海底資源の開発、地上では農業の基礎的開発及び改革,農業人口の若返りと倍増を図り、一日も早く国民生活を安定させなくては成りません。会長が仰る様に企業の投機はいけません。正業で世界の覇者と成らねば為りません。会長のお力はまだまだ我が社でも我が国でも必要です、私も精々長生きをして十年後二十年後の日本、世界を見て見たいものです…」
清三の言葉に頷きながらも佐々正二会長の寂しくも嬉しい微笑みが印象的であった。
社長職に就いたばかりの清三も心の何処かで、「老兵は若者を遠くから見守り、音も無く去る……か」
言葉にはしなかったが胸の内で呟いた。
此の数ヵ月後に戦後最大の株価の大暴落が有るとは此の場に居る誰もが知る由も無かった。
          
                              完


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