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作品名:Hさんとの事 作者:カズロン

第3回   ロックアウトの解除
10月に大学から文書で呼び出しが有った。ロックアウトを解除する為に集まって欲しいと言う事だった。正門のバリケードの一部が片付けられて校内に入れるようになっていた。正門後方の日時計の周りに大勢の学生が集まっていた。そこにヘルメットを被り、ゲバ棒を持った集団が現れ、いきなりゲバ棒を振り回して学生達に襲い掛かった。学生達は蜘蛛の子を散らすように正門の方に逃げ出した。K君も後ろを向いて逃げ出そうとした。「動くな」と言いながらS君がK君の腕を掴んだ。そのS君の声でK君もその場に踏み止まった。ゲバ棒を持った男がK君達の前に現れた。知らない男だった。一瞬目が合ったが、男はK君達の横をすり抜けると他の学生を追って正門の方に走って行った。K君とS君はゆっくり歩いて正門に向かった。大学側のロックアウト解除の目論見は失敗に終わった。しかし、これまで篭城学生に同情的だった一般学生の気持ちはこのゲバ学生達の蛮行によって離れてしまった。

その頃が運動の頂点だったようだ。それ以降、学生運動は下り坂に向かって行った。占拠学生達が新宿駅でカンパを募っている姿を見て「やつら金が無くて乞食しているよ」と言うように一般学生の見方、言い方も変わって行った。人伝に聞こえてきた話だが幹部連中は出前の天丼を食べているのに、下端はコッペパンしか食べていないとか、その不満から脱落者が大勢出ているとか言う話も聞こえてきた。年が明けた2月半ば、また大学から呼び出しがあった。今度は校内ではなく、校門の前のグランドに集められた。大学の職員が「ロックアウト解除に賛成の者は手を上げるように」と言った。集まった殆どの学生が手を上げた。K君も上げた。翌日機動隊が導入され、たいした抵抗も無くロックアウトは解除された。K君はその事をテレビで知った。

ロックアウトは解除されたが学内が荒れていて直ぐに授業が出来ないと言う事で、4年生が千葉の成東と言うところに呼び出された。九十九里の海岸近くの空き地に作られたプレハブ校舎で一日8時間の詰め込み授業が2月の終わりと、3月の始め、一週間ずつ2回有った。近くの民宿に泊り込み、授業を受けた。若者同士、色々語り合い、それなりに楽しい思い出になった。3月の終わりに卒業証書が書留で送られて来てK君の学生生活は終わった。そんな混乱の中でもK君の友人達は全員就職を決めていた。

 K君が簿記学校で友達になったH君とY君は進級して税理士受験科に進んだ。K君も一緒に遣ろうと誘われたのだが、一応検定試験に受かったので簿記学校の方は1年で終わりにした。美容師の彼女とは別れていた。頑張っても褒めてくれる相手も居なくなり、やる気を無くしたと言うのが真相だった。【美容師の彼女=「スナックPに集う人々」参照のこと】


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