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作品名:お竹さん(後編) 作者:カズロン

第7回   女郎屋の女将
ある日袋真綿の仲買人が真綿を買いに来た。その仲買人が「本庄の朝霧楼に居たイクと言う女郎が台湾の基隆で女郎屋の女将に成っていた」と商用で台湾に行った人から聞いたと言った。「女郎が大した出世ですよね」と言う仲買人の言葉に、竹さんは心の動揺を隠しながら「それはそれは・・・」と言うのが精一杯だった。仲買人がそのイクとこの家の関係を知っていて言っているのかどうかは、よく分からなかった。

竹さんはチュウ次達に「お前たちが女郎屋を遣っていると言う人がいるが本当か?もしそうなら即刻その商売を止めて真っ当な仕事に就きなさい」と手紙を書いた。チュウ次から「色々訳があって・・・この商売を遣る羽目になった」と手紙が来た。竹さんは「どんな訳があろうとも、女の生き血を吸うような商売を私は絶対に許さない、その商売を続けるなら勘当だ!」と書き送った。チュウ次からたった一言「分かった」と手紙が来た。

竹さんはこの当時、チュウ次達の事でイライラしていた。息子ばかりかこの自分もあの女の手練手管に騙されて、あの持参金を女に取られてしまった口惜しさに夜も眠れない日々が続いていた。そのイライラはなかなか勉強が進まない嫁のクニに向けられた。勉強の途中で居眠りをしているクニに「あんたの親の吝嗇のために私がこんなに苦労しているのに居眠りをするとは何事だ」と、言ってはいけない事を言ってしまった。クニは「わあー」と泣きながら自分達の部屋に駆け込んでしまった。

翌朝、竹さんはクニに謝ろうと思い息子達の部屋の前に立った。中からヤス太郎が出てきて「クニは居ないよ、母ちゃんが苛めるからヤマガに帰ってしまった」と言った。

仲人が来て「ヤマガの当主はそんなに気に入らない嫁なら返して貰って結構だ」と言っていると言った。竹さんは仲人に言った「何もこんな事で分かれさせることは無いでしょう」と。ヤマガの当主は竹さんが謝るまで返さないと強硬だった。竹さんはこのような状況では、もはや謝ることも出来なかった。竹さんは自分の軽率な言動が夫婦別れの原因になったことを後悔した。しかし、そうこうしている内にクニの妊娠が判明した。その為ヤマガの当主も折れてきた。

仲人が言った「人には竹さんのように学問の好きな者とそうでない者が居る、そうでない者にとって学問は辛いものだ」と。そして言った「農家の嫁として落ち度があるならいくら叱ってくれても良いが、読み書きを教えるのは止めて欲しい」と。ことここに至って竹さんはクニに勉強をさせる事を諦めた。クニが帰ってきた。クニは姑に対して前以上に従順な嫁で有ったが、しかし竹さんとクニの間には目に見えない壁が出来てしまっていた。


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