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作品名:お竹さん(後編) 作者:カズロン

第6回   長男の結婚
長男ヤス太郎に縁談が来た。近隣のヤマガと言う所の大きな農家の長女で、名前はクニ、年は17で働き者だと言うことだった。この話は本家の当主、兄のシゲ太からの話だった。話はトントン拍子に進み結納を取り交わす事になった。その時点で竹さんは衝撃的事柄を知った。クニは学校に行って居なかった。従って読み書きが出来ないと言う事だった。

ヤマガの家の当主は「女に学問は要らない、なまじ女が学問をすると亭主を馬鹿にしてそれが不仲の原因になるから・・・」と言っていると言う。ヤマガの家では男の兄弟は全員小学校を出ていると言う。中には中学まで行った者もいると言う事だった。竹さんは女を蔑視するヤマガの当主に怒りを覚えた。ヤマガの当主は、どうせ嫁に遣ってしまう娘に金を掛けたくないだけで、要するにケチなだけだろうと竹さんは思った。そのような考えの人と親戚になりたくなかった。出来ればこの話は壊れて欲しいと思った。

その胸の内を妙様に訴えたところ、妙様は「そのお嫁さんに貴女が読み書きを教えれば良いじゃない、貴女も最初はお父さんから読み書き教わったと言っていたじゃない」と手紙を遣した。竹さんはその妙様の手紙を読んで気持ちが明るくなった。「そうだ妙様の言うとおり自分が教えれば良いのだ」と思った。

クニは評判どおり働き者だった。仕事も手早くこなし、頭も悪く無かった。竹さんはこれなら教え甲斐があると思った。

竹さんは、以前人から聞いた講談話をクニにした。その話と言うのは、ある侍に仕えていた字の読めない下男に、その主人が「この刀と手紙を上司の侍の屋敷に届けるように」と言った。下男は途中で、誤って手紙を水溜りに落としてしまった。「大事な手紙を濡らしてしまった」とオロオロしながら、下男がその手紙を広げて乾かしていると、通りすがりの人が「その手紙を届けるとお前の命は無いよ」と教えてくれた。その手紙には「この下男を刀の試し切りに使って下さい」と書いてあったという。文字が読めないからこのような目に逢うのだと悟った下男は、その後、勉強して立派な学者に成ったと言う話だ。

その話を目を丸くして聞いていたクニは「お母さん、是非私に読み書きを教えてください」と言った。その晩からクニの勉強が始まった。

台湾に移ったチュウ次からバナナ園を辞めて基隆と言う港町に引っ越したと手紙が来た。バナナの栽培は難しく短期間で習得出来るものでは無く、また莫大な資金がかかる事が分かったのでバナナ園は諦めて基隆で商売を始めると書いてあった。竹さんは「どんな商売でも良いが人から後ろ指を指されるような商売はやめて欲しい」と書き送った。次の手紙で花屋を始めたと知らせてきた。竹さんは花屋で食って行けるのかと心配になったが、息子を信じることにした。

クニの勉強は遅々として進まなかった。無理も無かった、朝は姑より早く起きて朝食の支度をして、一日中野良仕事をして、お蚕の時期などは昼も夜も無い程忙しかった。姑は「これとこれを憶えなさい、解らなければヤス太郎に聞くように」と言って寝てしまう。夫のヤス太郎はクニの勉強より夫婦の秘事に熱心でクニは何時も眠かった。


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