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作品名:お竹さん(後編) 作者:カズロン

第5回   次男の結婚
そのチュウ次が、その女の年季が明けたら結婚すると言い出した。竹さん夫婦は驚愕した。竹さんは「お前たち二人はそれでも良いだろうが、子供が生まれたら、その子は学校で女郎の子と言われて苛められる、孫がそんな目に遭うのは我慢できない」と言った。チュウ次は「それなら俺たちは他所の土地へ行く」と言った。

竹さんは朝霧楼のイクと言う、その女に会いに行った。女は細面の色の白い小柄な美人だった。チュウ次より2歳年上だった。竹さんは「此処に30円有る、これでチュウ次と別れて欲しい」と言った。女は「はー」と溜息を吐いて「こうなる事は解っていました。自分が高望みしていると言う事は重々知っていました」と言った。「私は15で此処に売られてきました。16から客を取らされ、毎日泣いていました。チュウ次さんと出合って、若しかしたらこの苦界から救って貰えるかもしれないと思いました。やはり夢だったんですね・・・」と言った。そして「行くところが無いんです」と言った。

竹さんは言った「親元に帰れば良い、親だって待っているでしょうに」と。女は「口減らしに売られたのに、あたしが帰っても親が困るだけですよ」と少し気色ばんで言った。「結局、年季が明けてもこの苦界から出る事は出来ないんですね」と寂しそうに言った。妙様の手紙に、せっかく妙様たちが女たちを遊郭から救い出しても、また遊郭に戻ってしまうと書いてあったのを思い出した。竹さんの中で何かが変わった。竹さんは「解った、チュウ次との結婚を認める」と言っていた。

日を改めてイクを家に呼んだ。チュウ次を迎えに遣った。二人は暗くなってから遣ってきた。イクは言った「遅くに来て申し訳有りません、この村にも私の客が大勢います、人目につくとチュウ次さんや此方にも迷惑を掛けますから・・・」と。竹さんは聞いた「他の土地に行くと言うが何処に行く心算だ」と。

チュウ次が言った「俺たちは台湾に行こうと思っている」と。イクが言った「朋輩が客の男と結婚して台湾のバナナ園で働いて居るんです。その朋輩を頼ってみようと思います」と。チュウ次は「そのバナナ園で仕事を覚えたら二人でバナナ園を遣ってみようと思う、そして内地にバナナを出荷するんだ!」と目を輝かして言った。「私も百姓の娘です、野良仕事は厭いません」とイクが言った。竹さんはバナナと言う果物が有ることは知っていたが、バナナを見たことは無かった。竹さんは二人の前にあの三百円を出した。竹さんは「これでバナナ園を成功させて欲しい」と言った。二人は台湾へ旅立って行った。

【台湾バナナの輸入(移入)は明治三十六年(1903)4月10日、台湾航路の貨客船恒春丸で7籠のバナナが東京に運ばれたのが最初だった。この頃は上流階級の食べ物だったが、入荷が増えると共に庶民の口にも入るようになって行った。】


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