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作品名:お竹さん(前編) 作者:カズロン

第1回   ナカ女中
K家の工場が埼玉に越してまもなく、工場にK君の母親の姉、おセイ伯母が泊まりに来た。そのお姉さんとK君の母親は14歳、年が離れていた。そのお姉さんは五人兄弟の一番上でK君の母親は末っ子であった。中三人は男で、その頃、その内二人は既に亡くなっていた。K君は、長く疑問に思っていた曾祖母の事をその伯母に聞いてみた。

その曾祖母は「お竹さん」と言い、名古屋の人で明治の始めに関東に来て、20歳で曽祖父と結婚したという事だった。K君の母親が2歳の時に亡くなった。大正10年ごろの事だと言う。K君が高校生の頃「何故名古屋の人が曾御祖父さんと結婚したの」と母親に聞くと、母親は「大方役者の後でも追って、こっち(関東)に来て捨てられて、それをお祖父さんが拾ったんだろう」と言った。

K君はその母親の言い方を聞いて自分の母親が曾御婆さんに良い感情を持って居ない事を感じ取った。母親の気持ちはおそらくK君の祖母(母の母)の気持ちを投影したものだったのだろう。K君の母親は自分の母親から姑に嫁いびりされた話を繰り返し聞かされ、曾祖母に対してその様な感情を持ったのだろうとK君は思った。

その話をKくんがおセイ伯母にすると、おセイ伯母は「そうじゃあないよ!お竹ばあさんは本庄の島村と言う種屋にナカ女中として来て居たんだ」と怒ったように言った。K君が「ナカ女中って何?」と聞くと、伯母は「養蚕飼育場が出来るまでは種屋が蚕の飼育をして、それを農家に卸していたんだ」と言った。

関東は養蚕の盛んな地域で、養蚕の技術を学ぶために全国の村から若い娘が関東の種屋に奉公に来たんだよ、その娘たちをナカ女中と言うんだ」と言った。

おセイ伯母は「お竹ばあさんは私のことを「おセイ、おセイ」と言ってとても可愛がってくれた。私が16の時死んだ」と言った。K君の母親が言った「要するにお蚕の勉強に来たのに関東の男に引っかかって村に戻らなかった訳ね」と。おセイ伯母はむっとした顔をしたが反論しなかった。

おセイ伯母はお竹ばあさんから聞いた話として次のように言った。「お竹さんは名古屋市近郊の村で生まれた、大きな農家の一人娘だった。兄が一人居たのだが早死にした」と言う。

ところが「両親が結婚式に呼ばれ、そこで出された食事で食中毒に罹り、二人ともあっけなく死んでしまった」という。お竹さんが数え年15の時だった。

一人残されたお竹さんを如何するかと言う事で、親族会議が開かれた。村の有力者で母親の兄の伯父と父親の弟の叔父とがお竹さんの「行く末」を巡って大喧嘩になった。擦った、揉んだの挙句、将来お竹さんに婿を迎え、家を継がせる。それまでは父親の弟の叔父が後見人として家族を連れてお竹さんの家に入ると言う事で話が着いたということだ。

そのお竹さんが何故関東に来る事になったのかはよく分からないが、お竹ばあさんは「家を叔父さんにくれてやった」と言っていたと言うから、叔父一家との暮らしがうまく行かなかったのかも知れない。


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