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作品名:灰色のバス1939>2010>2025 作者:カズロン

第2回   断種法
彼は中々結婚しようとは言わなかった。私は彼の気を引くために「留学したい」と言ってみた。彼は「何処へ?」と聞いた。「アメリカ」と私は言った。「君はアメリカの精神医学会の暗部を知っている?」と言った。彼によれば第二次世界大戦前からアメリカとドイツの精神医学会は密接な関係に有って、ナチスの優生学思想の影響を受けたアメリカ精神医学会の指導で「断種法」が制定されたと言う事だ。その法律は劣勢の遺伝子を持った家系の情報を病院に提供させて、その情報を裁判所が管理して、婚姻届が出るとその男女を呼び出してその情報を知らせ、断種しなければ結婚を認めないと言うわけだ。その法律はアメリカ50州のうち30州で施行され、結婚を断念するなど多くの悲劇が起きた。それでもお互いの愛情が深いカップルはまだその法律がない州に移住していったという。

その法律が廃止された1960年までにアメリカでは約6万人が断種させられたと言うことだ。またヨーロッパの多くの国で同種の法律が制定されたそうだ。福祉の国スエーデンは戦後も長く優生思想を推進したと言うことだ。私はナチスがユダヤ人の虐殺を行う前、国内の障害者をガス室で殺害してユダヤ人虐殺のための実験をしたと言う事は知っていたが、アメリカの断種法の話は知らなかった。このアメリカやドイツの優生学者達に資金援助を行ったのがアメリカのR財団だと言うことだ。私は何か日本のライ予防法とよく似た話だと思った。

私はその話に興味を持って色々調べてみた。そもそも優生思想と言うのは「人口論」で有名なトーマス・マルサスによって1800年代初頭に提唱された。彼は有色人種や劣等な白人(ユダヤ人、スラブ人等)を優等なアーリア系白人(イギリス人、ドイツ人、北欧人)が支配すべきだと主張した。マルサスの思想を受け継いだイギリスのゴルトンという人が初めて「優生学」という言葉を使った。ゴルトンは社会の劣等な人間を排除して社会の健全化を図ると言う意味で「優生学」を唱えた。ドイツでは「民族衛生学」と言った。

1900年代になって、その思想はアメリカで盛んになり、アメリカのエスタブリッシュメント、所謂WASPによって支持された。アメリカで最初の断種法が制定されたのが1907年の事なので、逆にアメリカの優生学思想がナチスの優生学思想に影響を与えたのだと私は思った。その事を彼に言うと、彼は「よく気が付いたね」と言った。私は知識が豊富な彼を尊敬すると共に愛情の深まりを感じ、彼と共に生きてゆきたいと願った。彼も結婚を承諾して私たちは婚約した。


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