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作品名:灰色のバス1939>2010>2025 作者:カズロン

第1回   プロローグ
私の家は3代続いた精神病院を経営している。私の父は兄を医学部に入れようと、兄に期待を掛けたが、兄は高校時代道をそれて父親の期待を裏切った。後に父の力添えで三流私大に入った。今は実家の病院の事務長をしている。姉は父親に期待される事を嫌って普通の大学に進学して、同級生と「出来ちゃった婚」をしたが3年で破局、子供を連れて実家に戻った。姉もまた病院の経理を受け持っている。母は私が幼い頃亡くなった。再婚もせず子供に期待して頑張った父を兄達は裏切った。私はそんな父が可哀そうで、父の期待に応えるべく、医学部を目指して勉強した。

私は国立大学の医学部を受験したが見事に失敗した。滑り止めに受けた私立のA大医学部には合格した。それでも父親は大喜びした。私が医師免許を取って医師になってからは「医者と結婚しろ」と父は言い続けた。しかしその期待には応えられずに私は三十路を過ぎた。私が病院の娘だと知って近づいてくる男性医師も居たが、兄と姉の存在を知ると離れて行った。

私が31歳の時、関西の国立医大附属病院から来た泌尿器科の38歳のOと言う男性医師と出合った。彼には離婚暦があった。彼が此方の大学病院に来たのは「その事が原因かな」と私は推測した。その頃私は後期研修を終わり、父の希望も有り実家の病院の副院長になっていた。大学病院には週2日非常勤の医師として勤めていた。父は私が泌尿器科の医師と交際している事を知ると、自分の病院に「泌尿器科を開設しよう」と言い出した。病院は精神科の他に内科も併設していたが、待合室の雰囲気から内科の患者は少なかった。「まだ結婚すると決まった訳では無いのに」と私は父親に怒った。彼は「僕は一度失敗しているから」と、結婚には消極的だった。

私が前期研修医を終わって後期研修医になった頃、初めて受け持った患者に和菓子屋を経営しているTさんがいた。Tさんは和菓子職人としては腕の良い職人だったようだ。Tさんは幻覚と幻聴に悩まされ、奥さんに連れられてA大病院に来た。そのまま入院になった。私はその時まだ前期研修医だった。Tさんは精神科の研修で初めて接した患者だった。Tさんの退院と私の前期研修が終わるのがほぼ同時だった。精神科で後期研修医になった私は週一度半日だけ外来に出ることになった。その曜日、外来に来る患者の中にTさんがいた。私はTさんの主治医になった。そう言う訳でTさんは私にとって思い入れのある患者だった。


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