K君達の新婚生活が始まった。D坂の伯父が、「新婚なのにあんなに大勢の居る所では可哀想だ、貸していた部屋が開いたから此処に住め」と言ってワンKの部屋を提供してくれた。自宅から伯父の所までは歩いて20分ほど掛かった。結婚当初はよく喧嘩をした。やはり、親が原因で言い合いになる事が多かった。K君達は、夜帰るときお互いそっぽを向いて、別々の道を通って帰ったりした。しかし一晩寝ると仲良くなった。
結婚式から4ヶ月程経った頃、その日は、K君の両親が法事で不在だった。K君は店の後ろの居間で新聞を読んでいた。K君の嫁さんは店番をしていた。最近何回か店に買いに来た婦人が突然K君の嫁さんに言った「うちの息子と見合いをして頂けませんか?うちの息子は一応名の通った会社に行っています」と。K君の嫁さんは吃驚して「申し訳ありません私、此処の嫁なんです」と言った。「ええ!」と吃驚した声を上げて、婦人は言った「指輪をなさっていないから、てっきり此方のお嬢さんだと思いました」と。K君の嫁さんは「指輪をしていると、包装紙が破れてしまうものですから・・・申し訳ありません」と言った。婦人は「大変失礼な事を申しました」と言って、ほうほうの体で帰っていった。
K君は新聞をめくる音すらさせられず、新聞の角を摘んだまま息を潜めていた。K君の嫁さんが「ねえ、ねえ聞いた?」と言った。「何が?」とK君はそ知らぬ顔をして答えた。「私を嫁に貰いたいんだって、一流企業に勤めているんだって」とK君の嫁さんは言った。「一流企業とは言わなかったぞ、名の通った会社って言ったぞ」とK君が言うと、「なーんだ、聞いてたんじゃない」と嫁さんは言って笑った。その日一日、K君の嫁さんは機嫌が良かった。
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