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作品名:K君の結婚 作者:カズロン

第2回   ストーカーK君
K君がMさんを初めて見たのは1年生の文化祭の時だった。彼女は女子応援部のバトンガールとしてソロのバトン演技を披露した。その演技を見てK君は「カッコ良い!」と彼女に魅せられてしまった。しかし心理学科と社会学科では1年次は共通の授業は殆ど無かったので廊下ですれ違うとき以外、彼女と会う機会も無かった。

K君の一年次の成績は「優」が2つしか無かった。何か有るたびに仲間から「(優)の数で勝負しよう」と言われ、閉口した。2年次には「優」の数を増やそうとK君は決心していた。履修科目を決定する時期に学食で食事をしていると、心理学科の女子の集団が隣のテーブルに来た。その中にMさんが居た。彼女が友達に「月曜日の1限の(文章表現演習)を取らない?」と言って、友達を誘っていた。友達は「やだー、必修なら仕方が無いけど選択で1限はキツイよ」と言って断わった。「そう私一人でも遣るわ」と彼女は言った。「俺も遣るぞ」とK君は思った。

N大の文理学部はN大の中でも偏差値は低い方だった。「Sヶ丘」と言う直属の付属高校を持っていた。この学部は理系の基礎学部と文学部、体育学部が合わさったような学部だった。従って履修科目の選択肢はとても広かった。K君の仲間のY君などは理系の「気象学」を取っていたくらいだった。それでも単位になった。K君も「演劇映画論」などユニークな、そして優が取れそうな科目ばかりを選んだ。

2年次の授業が始まった。8時半から始まる月曜日の「文章表現演習」の授業に間に合うように行くには、K君は自宅を7時過ぎに出なくては成らなかった。この授業が始まった頃は50人程の人が居た。それが3ヶ月を過ぎる頃には15人に減っていた。それはこの授業に宿題が出るからだった。その宿題と言うのは新聞の社説を毎日写してその社説に自分の感想を付けて先生に提出すると言うものだった。何を遣っても3日坊主のK君がこの宿題を続けられたのは、授業に出れば彼女に会うことが出来るからだった。

K君は彼女の座っている机の斜め後方、先生を見ると必然的に彼女が視界の中に入ってくる位置に座って授業を受けていた。ある日、彼女が「此処、良いかしら」と言ってK君の隣に座った。K君は吃驚した。まさに、美しい山を眺めていたら、その山が突然噴火して火砕流となって自分に襲い掛かって来たような感じだった。喉はカラカラになるし、わきの下から汗が噴出すのをK君は感じていた。

K君には彼女の意図が解らなかった。「お前が私をストーカーしているのは分かっているぞ」と言う意味か、それとも単純に「私のことそんなに良いなら友達になってやっても良いよ」と言う意味なのか・・・その一時間半は生涯で一番長く感じた時間の一つだった。次の週にも彼女が自分の隣に座ったら声を掛けるべきか・・・K君は期待半分、不安半分の日々を過ごした。しかし次の週、彼女は元の席に戻った。K君は「ガッカリ」する半面「ホット」した。そして、それからは穏やかな日々が続いた。

その15名は無事学年末を迎える事が出来た。そして先生は言った「ここに居る者全員に(優)をやる」と。みんなが拍手した。K君はエベレストを征服したような充足感を覚えた。そして(心で)彼女に感謝した。

この年度、K君の成績は「全優」だった。「足で稼いだ」と陰口を叩かれたけど、もう誰も「(優)の数で勝負しよう」とは言わなかった。


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