私は男性不信に陥りました。私が貴方を選んだのは、最初に見たとき「優しそうなひとだな」と思ったからです。男と別れて寂しかった私の心の隙間を埋めてくれそうな気がしたのです。それに「美男子(いいおとこ)」はもう懲り懲りでしたから、でもそう言う貴方でさえ私をこんなに苦しめる。もう男を当てにする生き方はすまいと思いました。
あの映画の言い争いのとき、貴方は言いました「日本では妻が浮気をすると間違いなく離婚になる、でも夫が浮気をした場合は大抵家庭に戻る」と、私は「そんなの不公平だ」と言いました。貴方は言いました「結局、その違いは経済力が有るか無いかだと、妻は経済力が無いからどんなに悔しくても夫を受け入れざるを得ないのだ」と。
私は男に頼らない生き方をするために手に職を付ける事にしました。自分の貯金と親からの援助で美容師専門学校に行きました。同級生よりも大分遅いスタートでした。学校を卒業してインターンをしている頃、風の便りに貴方が美しい奥さんを貰ったと聞きました。でもそれほど動揺はしませんでした。十分な時間が心の傷を癒してくれていたからでしょう。
28の時、主人と出会いました。私より4歳年上で、美容院にパーマ液などの薬品を卸す会社の人です。もうあんな苦しい思いをしたくないので、最初に全てを話しました。すると主人は「そう言った経験が君の魅力を創り出しているのだ、そうして出来た今の君が好きだ」と言ってくれました。気障な台詞だと思いましたが、うれしかった。
一男一女に恵まれました。仕事もしながらの子育ては大変でした。40歳の時独立して自分の店も持ちました。息子は大学を出て普通のサラリーマンです。娘には自立した女性になって欲しいと常々言っていました。彼女は私の願いどおりに薬科大学を出て薬剤師になり、結婚もして仕事と家庭を両立させています。
娘と息子が年頃になった時、私の過去の出来事を全て話しました。息子は「お母さんのそんな生臭い話は聞きたくない」と怒りましたが、娘は「お母さん、辛かったでしょう」と言って一緒に泣いてくれました。夫には去年先立たれましたが、私は子供や孫に囲まれて幸せに暮らしています。
K様のご多幸をお祈りします。かしこ。
この文章をK君は目に涙をためて読んでいました。「彼女が幸せに暮らしている・・・良かった」と言って涙を拭いました。そしてK君は「彼女の言うとおりだ、僕は奇麗事を言っていた」、「確かに銀行で会った、電話もした、テントの話も思い出した、僕は良い子になろうとした、僕も本音で話す」と言いました。
此処からは私が伝えるよりK君本人に語ってもらいます。
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