K君の夢の中で、彼女が「貴方に出会う前に犯した過ちを、なぜ貴方は許してくれないのか」と言っていると言うのです。「これはあのときの事が納得出来ずに、彼女の霊がまださ迷っているに違いないから僕の本当の気持ちを、僕はパソコンが苦手だから君が書いてブログに乗せてくれれば彼女に伝わるのではないか」と言うのです。そんなばかげた事はないと思いましたが、K君のたっての頼みでこれまでの内容をブログに乗せてみました。
すると驚いたことに、東京近郊のM市に住むという若い主婦から「母に聞いていた話とよく似ている、Kさんは00さんではないかとK君の本名を書いたメールが届きました。
「そうです」と返信すると3日程して以下のメールが届きました。
K様、貴方とお別れしてからもう40年もの月日が経ってしまいました。でもあの貴方と行ったドライブの日のことは、今でも昨日起こったことの様に鮮明に覚えております。車に乗った時から貴方の様子がいつもと違うと思いました。貴方に「心配事があるのか」と聞いた時に、「何でもない」と言う返事を聞き、すぐ思いました。私があのアパートで男と同棲していたことを知ってしまったのだと。そして後悔しました。あの夏の日、あのアパートの前で打ち明ければ良かったと。
私は打ち明けるつもりでした。でもあなたが私を女神か何かのように思っていることは私にも分っていました。それが重荷でもあり、嬉しくも有りました。そんな貴方のがっかりした姿も見たくなかった。何よりも貴方が離れて行ってしまうのが怖かった。
最初は、泣いて許しを請おうとも思いました。でも時間が経つうちに段々腹が立って来ました。何故私が貴方に許しを請わなければならないのか、私が貴方にどの様な悪いことをしたと言うのか、勝手に私を女神に祭り上げて、自分の基準に合わないからと言って謝れと言う、そんな理不尽な話は無いではないかと思いました。
その事を一言でも言ったなら、猛烈に反駁して貴方をやり込めてやろうと思っていました。「早く言い出せよ!」心の中で叫んでいました。でも貴方は最後まで言い出さなかった。
家に帰って冷静になって考えてみました。貴方はその事をまだ知ったばかりで心の整理がついていないのだと気が付きました。心の整理がつけばきっと電話してくれる。妙な確信が有りました。
あの日、あの本屋さんに貴方が居たなんて、何と言う偶然でしょう。この40年間一度も考えたことは有りませんでした。あの日起こったことは貴方の想像したとおりです。
言い訳になりますが、私は19の時に前の会社の35歳になる上司と不倫関係になり妻と別れて一緒になるという男の言葉を信じてあのアパートで暮らし始めました。あの日は日曜日で出張と言って出てきた男が前の日から泊まっていました。
昼ごろ食事の支度をしていると男の奥さんが来ていきなり殴られ、テーブルをひっくり返され、一方的になじられました。男は土下座をして私と別れるからと言って奥さんに許しを請いました。その姿を見て私はあのベージュのコートを掴んで表に飛び出しました。
悔しくて、悔しくて、そして悲しくて、暫く公園にいました。そして思ったのです。何か悪いことをして大騒ぎをして、警察に行って会社の名前を出して男の家庭を目茶目茶にしてやろうと思いました。
でも実際にやって捕まったら暴れるどころか「お金払います」としか言えませんでした。あの後公園に戻ってベンチに座っていました。何という事をしてしまったのだろう、自己嫌悪に陥りました。暗くなってきてアパートに戻ると男も奥さんも居ませんでした。そして会社を辞めました。
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