彼女の家が近づくと彼女が言いました「あたし達もう会わない方がいいのかな?」、売り言葉に買い言葉、「君がそれでいいなら、それでいいよ」とK君は答えてしまいました。彼女の家の近くに着くと、彼女はドアを開け、一度も振り返らずに彼女の家に続く路地の方に消えて行きました。
K君は家に帰る道すがらも、帰ってからも考えました。そして結論づけました「やはり、あれは彼女だ」と、「おそらく、あの日、あのアパートで彼女に関わる一身上の問題が起こり、そのストレスがあのような行動に走らせたのだろう」と、そしてそれが「男」だと言うことは経験の浅いK君にも容易に想像できました。
「自分にとって女神のような存在の彼女が男と同棲していた」と思うことはK君にとってとても辛い事でした。でもそれは彼女がK君と出会う以前の話です。「自分に彼女を非難したり、問い詰めたりする権利はない」とK君は思いました。ただ、そうは言ってもその事を押し殺して以前のように彼女に接して行けるだろうか・・・、そしてそれ以上に「万引きと言う破廉恥な行為をして店主に取り押さえられると言う惨めな姿をK君が見ていた」と言うことに、気位の高い彼女自身が耐えられるだろうか・・・K君は悩みました。
彼女を傷つけない一番いい方法は彼女との関係を自然消滅させることだと気がつきました。彼女と別れることはとても辛いことだけれど、この状況ではそれしか選択肢はないのだとK君は自分に言い聞かせました。
それからも彼女は前の薬局に通ってきていました。しかしK君と会っても目を合わせようとはしませんでした。
翌年の2月、千葉の成東と言うところで4年生の集中授業が有りました。3月にその合宿からK君が戻ってくると前の薬局に彼女の姿は有りませんでした。K君の心にぽっかり穴が開いたような気がしたそうです。
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