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作品名:ほろ苦く、甘く。 作者:なりた十緒子

第8回   8
なんだか急に甘いものが飲みたくなった。
昼休みも半分過ぎ、由季は時間を持て余していた。
いつも一人でお弁当を食べているため、どうしても早く食べ終わってしまう。
由季は自販機の前に立ち、迷わず苺ミルクのボタンを押した。
「里見さん」
自分の名前を呼ばれて上体を起こす。
ハキハキとした透る女子の声。見たことのある顔だ。
確か、クラスメイトの・・・。
「小野田さん・・・、なに?」
「ねえ、あのさ」
そう言いながら、由季の腕を掴んで、そばにあるベンチに連れていく。
「今朝、黒峰先輩と話してたって本当?友達から聞いたんだけど」
「ああ・・・、うん」
「マジ!?あたし黒峰先輩のファンなんだぁっ!何でしゃべってたの、知り合いなの?」
小野田さんの勢いに半歩後ずさる。
「先輩、茶道部入ってて部活勧誘のときたまたま」
「茶道部〜!?黒峰先輩って古風〜!里見さん、茶道部なの?」
「わたしは・・・」
ものすごく不本意だが、自分が今茶道部員であることを思い出し、口ごもった。
せっかちなのか、話を聞いていないのか、小野田さんはまた口を話はじめた。
「あたしテニス部なんだけどさあ、茶道部と掛け持ちとかやっていいのかなあ」
ほとんど独り言のように言う。
「テニス部・・・!」
由季は思わず反応した。
「いいね、テニス部・・・ちょっと、興味あって・・・」
「そうなの?」
「うん・・・」
そして友達も作れたら、と由季は思っていた。
「楽しいよ〜!先輩はちょっと厳しいとこあるけど、面白いし!」
「そうなんだ」
いいなあ、と由季は興味津々で話を聞いていた。なにより友達ができそうだから。
由季がこの高校に入ってから、なかなか馴染めず未だに友達が出来ていなかった。
だからこそ、部活はチャンスだと思っていた。
なのに・・・茶道部の同学年といえば、由季のことを「お嬢」と呼ぶあの牧瀬くんよ内山くんだけだ。
二人を思い出して、由季の唇はとんがった。
「里見さん・・・?」
考えこむように視線を地面に傾けた由季に、小野田さんは声をかけた。
なんでもない、と言おうとして今は聞きたくない声に遮られた。
「お嬢〜」
見ると髪はボサボサ、顔に擦り傷、制服をクタクタにした例の二人が歩いていた。


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