高校生になってから、由季の登校時間は以前より早くなった。 距離が少し遠くなったのもあるが、朝起きてから学校に行くまで、家にいても落ち着かないのだ。 いまだに教室入るのに緊張するってどうなの・・・。 つい自問してしまう。
「んだよ、知ってる奴いねーのかよ!」 校門近くで大きな声が響いた。 「・・・・・・なに?」 驚いて声のするほうを見ると、他校の男子高校生が近くを歩く生徒を睨んでいる。 耳の蛇の柄のピアスをしていた。 こわ・・・目合わさないようにしなきゃ・・・。 足を速めて通り過ぎようとした。 「・・・ん?」 ふと見るとまた誰か男子生徒が掴まっている。 「あれ・・・」 その男子生徒が由季を見て言った。 「お嬢・・・」 「黒峰先輩・・・!?」 つい声をあげてしまった。 「ていうか、“お嬢”ってなんですか」 「あのさ・・・、牧瀬と内山のクラス知ってる?なんかその二人を捜してるらしくて」 「え・・・」 “お嬢”はスルーですか。 蛇ピアスの男子を見る。 睨んでる。すっごく私を睨んでる! 「えっと・・・どのクラスかはちょっと・・・」 「はあっ!?」 体がビクッと震える。 怖い・・・!どうしよう、どうしよう・・・!? その時、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。 「お〜、てっちゃん!」 牧瀬くん! 「なにやってんだよ」 「亮太!悟!捜したっつーの」 蛇ピアスの男子も途端に明るくなる。 「あれ、お嬢だー。黒峰センパイも」 牧瀬くんが由季たちを見た。さっきもその呼び方をされた。 「・・・なんで・・・“お嬢”・・・?」 おそるおそる聞く。 「まんま、車の迎えが来るような社長令嬢だから。亮太命名」 そばにいた内山くんが静かに説明した。 はじめて聞いた内山くんの声は、由季の心を落ち着かせた。 「さ〜とる〜!行こうぜー」 「ん」 由季の横を通り過ぎる内山くんの背中を見上げる。どうやら二人とも、学校には行かないらしい。 「やっと行ったね」 三人を見送り、黒峰先輩が呟いた。 淡々と言うので、由季はなにか言わねばと口を開いた。 「わたしに聞かれても困ります。関係ないのに・・・」 「同じ茶道部員でしょ」 由季はびっくりして、慌てて否定した。 「違いますよっ!?わたし入りませんから!」 「・・・でももう受理されたよ」 「・・・え?」 何のことを言ってるのか、わからない。 しかし再度、黒峰先輩は同義の言葉を発した。 「もう茶道部員になっちゃったよ?」 由季はその理解しがたい言葉に、口を開けたまま固まってしまった。
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