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作品名:ほろ苦く、甘く。 作者:なりた十緒子

第6回   6
高校生になってから、由季の登校時間は以前より早くなった。
距離が少し遠くなったのもあるが、朝起きてから学校に行くまで、家にいても落ち着かないのだ。
いまだに教室入るのに緊張するってどうなの・・・。
つい自問してしまう。

「んだよ、知ってる奴いねーのかよ!」
校門近くで大きな声が響いた。
「・・・・・・なに?」
驚いて声のするほうを見ると、他校の男子高校生が近くを歩く生徒を睨んでいる。
耳の蛇の柄のピアスをしていた。
こわ・・・目合わさないようにしなきゃ・・・。
足を速めて通り過ぎようとした。
「・・・ん?」
ふと見るとまた誰か男子生徒が掴まっている。
「あれ・・・」
その男子生徒が由季を見て言った。
「お嬢・・・」
「黒峰先輩・・・!?」
つい声をあげてしまった。
「ていうか、“お嬢”ってなんですか」
「あのさ・・・、牧瀬と内山のクラス知ってる?なんかその二人を捜してるらしくて」
「え・・・」
“お嬢”はスルーですか。
蛇ピアスの男子を見る。
睨んでる。すっごく私を睨んでる!
「えっと・・・どのクラスかはちょっと・・・」
「はあっ!?」
体がビクッと震える。
怖い・・・!どうしよう、どうしよう・・・!?
その時、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。
「お〜、てっちゃん!」
牧瀬くん!
「なにやってんだよ」
「亮太!悟!捜したっつーの」
蛇ピアスの男子も途端に明るくなる。
「あれ、お嬢だー。黒峰センパイも」
牧瀬くんが由季たちを見た。さっきもその呼び方をされた。
「・・・なんで・・・“お嬢”・・・?」
おそるおそる聞く。
「まんま、車の迎えが来るような社長令嬢だから。亮太命名」
そばにいた内山くんが静かに説明した。
はじめて聞いた内山くんの声は、由季の心を落ち着かせた。
「さ〜とる〜!行こうぜー」
「ん」
由季の横を通り過ぎる内山くんの背中を見上げる。どうやら二人とも、学校には行かないらしい。
「やっと行ったね」
三人を見送り、黒峰先輩が呟いた。
淡々と言うので、由季はなにか言わねばと口を開いた。
「わたしに聞かれても困ります。関係ないのに・・・」
「同じ茶道部員でしょ」
由季はびっくりして、慌てて否定した。
「違いますよっ!?わたし入りませんから!」
「・・・でももう受理されたよ」
「・・・え?」
何のことを言ってるのか、わからない。
しかし再度、黒峰先輩は同義の言葉を発した。
「もう茶道部員になっちゃったよ?」
由季はその理解しがたい言葉に、口を開けたまま固まってしまった。


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