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作品名:ほろ苦く、甘く。 作者:なりた十緒子

第4回   4

「もう?もう少し話を・・・」
勢いで、新井先輩のポケットから赤い布が畳の上に落ちた。
「あ、先輩、袱紗(ふくさ)が落ちましたよ」
「あれ、ほんと」
袱紗を拾うと、由季を見た。
「なんでこれが袱紗だって知ってるの?」
素直な疑問だった。
「わたし茶道を少し習ってたことがあって・・・」
何も考えずそこまで言って由季は、はっと新井先輩を見た。
先輩の目がキラキラと輝いて見える・・・のは気のせいだろうか。
がしっ!!
と肩を後ろから掴まれ、びっくりして振り向くと辻先輩が笑顔で立っていた。
「あの・・・?」
嫌な予感がする。
「ねえ、お願い!あんなの(男子二人)しか新入部員がいないなんて、わたし達がかわいそすぎる!そう思わない・・・?
これじゃ、ゆくゆくは廃部なんて可能性もある・・・あなたみたいな、心優しく、時には愛のある厳しい指導が出来る経験者がいてくれたら、どんなに心強いか・・・!」
「いや、でも〜、そんなすごい事出来ないですよ・・・」
「何言ってるのよ!茶道部の秩序!風紀!は私たちで守るのよっ」
意味のわからない迫力に押されて、由季は窓際まで後ずさっていた。

「男の人がこっち見て何か言ってる」
そばにいた黒峰先輩が窓の外を見て言った。
由季と辻先輩も、窓の外に目を向ける。
「本当だ。何て言ってるんだろ??」
「ああ・・・っ!?」
由季は思わず顔を歪めた。
「由季さんー!お迎えにあがりましたー!」
裏門そばに立っている男性は、恥ずかしげもなく大きな声を出した。
部室にいた全員が一斉に由季を見る。
・・・早くこの部屋を去りたい・・・。
しかし、皆の好奇の目がそれを許してはくれなかった。


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