「もう?もう少し話を・・・」 勢いで、新井先輩のポケットから赤い布が畳の上に落ちた。 「あ、先輩、袱紗(ふくさ)が落ちましたよ」 「あれ、ほんと」 袱紗を拾うと、由季を見た。 「なんでこれが袱紗だって知ってるの?」 素直な疑問だった。 「わたし茶道を少し習ってたことがあって・・・」 何も考えずそこまで言って由季は、はっと新井先輩を見た。 先輩の目がキラキラと輝いて見える・・・のは気のせいだろうか。 がしっ!! と肩を後ろから掴まれ、びっくりして振り向くと辻先輩が笑顔で立っていた。 「あの・・・?」 嫌な予感がする。 「ねえ、お願い!あんなの(男子二人)しか新入部員がいないなんて、わたし達がかわいそすぎる!そう思わない・・・? これじゃ、ゆくゆくは廃部なんて可能性もある・・・あなたみたいな、心優しく、時には愛のある厳しい指導が出来る経験者がいてくれたら、どんなに心強いか・・・!」 「いや、でも〜、そんなすごい事出来ないですよ・・・」 「何言ってるのよ!茶道部の秩序!風紀!は私たちで守るのよっ」 意味のわからない迫力に押されて、由季は窓際まで後ずさっていた。
「男の人がこっち見て何か言ってる」 そばにいた黒峰先輩が窓の外を見て言った。 由季と辻先輩も、窓の外に目を向ける。 「本当だ。何て言ってるんだろ??」 「ああ・・・っ!?」 由季は思わず顔を歪めた。 「由季さんー!お迎えにあがりましたー!」 裏門そばに立っている男性は、恥ずかしげもなく大きな声を出した。 部室にいた全員が一斉に由季を見る。 ・・・早くこの部屋を去りたい・・・。 しかし、皆の好奇の目がそれを許してはくれなかった。
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