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作品名:ほろ苦く、甘く。 作者:なりた十緒子

第11回   11
いいなあ、ここ・・・鍵をわたしに預けて貰えるなら、今度から昼休みはここにいたい。
お弁当箱をひろげ、黙々と食べ始める。
わたし・・・わざわざ公立高校受験して、一人でお弁当食べて・・・何してんだろ。
ちょっとした反抗心からだった。
少しも気にかけてくれない父親への・・・。
何もかも思い通りにいかない、いつまでも”いい子”のままじゃない事に気付かせたかったのだ。
そう思いつつ非行に走ったりしないところが、結局”いい子”な気がするけれど・・・。
その時、部室の扉が大きな音をたてて開いた。
突然のことに、由季は体を硬直させた。
「だ、誰ですか・・・?」
「お嬢・・・?辻は?」
「あの、まだ来てないです」
現れたのは黒峰先輩だった。
「そうか・・・何、ここで弁当食べてんの?」
「あっ、すみません!」
お弁当箱をひろげ、箸を持ったままの自分に気づく。
「あーいいよ、別に。ダメとかじゃないし。俺もちょっと、ここで隠れて食べようかと思ってて・・・」
「お弁当ですか・・・?」
黒峰先輩が由季のように、友達がいなくて一人で食べるなんて想像できない。
「弁当は食べたんだけどさ〜、女子たちに話しかけられて、うっとおしいというか」
「やっぱりモテるんですね・・・かっこいいって女の子同士で話してるの聞きます」
「ふ〜ん」
さして興味もない様子で、由季を見る。
「あっ・・・わたしは何も、言ってないんですけどね」
由季も黒峰先輩に好意があると勘違いされては困ると思ったが、逆に失礼な言い方になってしまったかもしれない。
由季は少し後悔した。
が、黒峰先輩は気にもとめてない感じだった。


「これが食べたくてっ!」
嬉しそうに手に持っていた紙袋から、それを取り出す。
「・・・・・・?プリン・・・、ですか?」
それは緑色だった。
透明のプラスチックの入れ物に入っている。
「そー、俺、抹茶味のプリンがホント好きで!たまに作って持ってくんの」
「えっ!自分で作ったんですか!?すごい・・・」
やっぱり先輩ってちょっと変わってると思いつつ、プリンが作れるなんて意外だった。
「それにしても・・・濃い、ですね」
見た目からして抹茶の濃厚さが伝わってきそうな感じだ。
しかし黒峰先輩は気にせず、喜んで抹茶プリンを食べ始めた。
「あー、うまいっ」
どれだけ濃い抹茶味なのか・・・気になり、おいしそうに食べてる姿を眺めていた。
「・・・食べたい?」
黒峰先輩に聞かれ、由季は我に返った。
「あ、違いますっ、すみませっ・・・」
パクリ。
抹茶プリンが口の中に入ってきた。
不意打ちだ。
「うまいー?」
「・・・苦いです」
顔が赤くなっていないか気になって、由季は俯きかげんで答えた。
「苦くておいしーんだって」
「にっ苦くて苦いんですよっ」
声が震えてるような気がして、更に下を向く。
「ふっ・・・ははっ、それ意味わかんないんだけど!」
からかうように笑って、おもしろがっている。
かっ、会話しなきゃ!動揺してる場合じゃないでしょ!
その時、部室の扉が開く音が響いた。
「里見さーん、お待たせー」
辻先輩だっ!
「あれ、黒峰くんも来てたの。あー、またプリン食べてる」
黒峰先輩のそばまで来て、紙袋のなかを覗き込む。
「まだ2個もあるし」
いいなあ、おいしそう、と呟いた。
「・・・なあに?里見さん、どうしたの?」
由季があまりに辻先輩を見ているので、聞いてきた。
「い、いえ、なんでもないですっ」
首を思い切り振って、お弁当を片づけはじめる。
はー・・・と心の中で深く息を吐いた。
そう言えば、中学のときから男子と二人で話すことなんてなかった。
急にすごく緊張してしまった自分が、由季は少し恥ずかしかった。


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