いいなあ、ここ・・・鍵をわたしに預けて貰えるなら、今度から昼休みはここにいたい。 お弁当箱をひろげ、黙々と食べ始める。 わたし・・・わざわざ公立高校受験して、一人でお弁当食べて・・・何してんだろ。 ちょっとした反抗心からだった。 少しも気にかけてくれない父親への・・・。 何もかも思い通りにいかない、いつまでも”いい子”のままじゃない事に気付かせたかったのだ。 そう思いつつ非行に走ったりしないところが、結局”いい子”な気がするけれど・・・。 その時、部室の扉が大きな音をたてて開いた。 突然のことに、由季は体を硬直させた。 「だ、誰ですか・・・?」 「お嬢・・・?辻は?」 「あの、まだ来てないです」 現れたのは黒峰先輩だった。 「そうか・・・何、ここで弁当食べてんの?」 「あっ、すみません!」 お弁当箱をひろげ、箸を持ったままの自分に気づく。 「あーいいよ、別に。ダメとかじゃないし。俺もちょっと、ここで隠れて食べようかと思ってて・・・」 「お弁当ですか・・・?」 黒峰先輩が由季のように、友達がいなくて一人で食べるなんて想像できない。 「弁当は食べたんだけどさ〜、女子たちに話しかけられて、うっとおしいというか」 「やっぱりモテるんですね・・・かっこいいって女の子同士で話してるの聞きます」 「ふ〜ん」 さして興味もない様子で、由季を見る。 「あっ・・・わたしは何も、言ってないんですけどね」 由季も黒峰先輩に好意があると勘違いされては困ると思ったが、逆に失礼な言い方になってしまったかもしれない。 由季は少し後悔した。 が、黒峰先輩は気にもとめてない感じだった。
「これが食べたくてっ!」 嬉しそうに手に持っていた紙袋から、それを取り出す。 「・・・・・・?プリン・・・、ですか?」 それは緑色だった。 透明のプラスチックの入れ物に入っている。 「そー、俺、抹茶味のプリンがホント好きで!たまに作って持ってくんの」 「えっ!自分で作ったんですか!?すごい・・・」 やっぱり先輩ってちょっと変わってると思いつつ、プリンが作れるなんて意外だった。 「それにしても・・・濃い、ですね」 見た目からして抹茶の濃厚さが伝わってきそうな感じだ。 しかし黒峰先輩は気にせず、喜んで抹茶プリンを食べ始めた。 「あー、うまいっ」 どれだけ濃い抹茶味なのか・・・気になり、おいしそうに食べてる姿を眺めていた。 「・・・食べたい?」 黒峰先輩に聞かれ、由季は我に返った。 「あ、違いますっ、すみませっ・・・」 パクリ。 抹茶プリンが口の中に入ってきた。 不意打ちだ。 「うまいー?」 「・・・苦いです」 顔が赤くなっていないか気になって、由季は俯きかげんで答えた。 「苦くておいしーんだって」 「にっ苦くて苦いんですよっ」 声が震えてるような気がして、更に下を向く。 「ふっ・・・ははっ、それ意味わかんないんだけど!」 からかうように笑って、おもしろがっている。 かっ、会話しなきゃ!動揺してる場合じゃないでしょ! その時、部室の扉が開く音が響いた。 「里見さーん、お待たせー」 辻先輩だっ! 「あれ、黒峰くんも来てたの。あー、またプリン食べてる」 黒峰先輩のそばまで来て、紙袋のなかを覗き込む。 「まだ2個もあるし」 いいなあ、おいしそう、と呟いた。 「・・・なあに?里見さん、どうしたの?」 由季があまりに辻先輩を見ているので、聞いてきた。 「い、いえ、なんでもないですっ」 首を思い切り振って、お弁当を片づけはじめる。 はー・・・と心の中で深く息を吐いた。 そう言えば、中学のときから男子と二人で話すことなんてなかった。 急にすごく緊張してしまった自分が、由季は少し恥ずかしかった。
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