「ねえ、ねえ!ちょと待って」 「・・・え?」 一瞬、自分が呼ばれたことに気付かず、ゆっくりと後ろを振り返った。 「ああ、良かった。気付いてくれた」 目の前まで小走りで近づいてきた彼女は、にこにこと笑顔でそう言った。長い髪が背中でさらさらと揺れている。 「すみません・・・」 おそらく上級生だと思いつつ、彼女に見惚れた。目が大きく色白のその人は、モデルでもやっているのでは、と思うような美人だった。同学年で彼女のような目立つ美人がいれば、わかるはずだ。 体育館では一年生がぞろぞろと出てきており、外では2、3年生が自分の所属する部活に入って貰おうと勧誘の声が響いている。 名乃塚(なのづか)高校に入学してまだ10日しかたっていないが、あと一週間以内に入る部活を決めなければならない。この高校では部活動への入部が義務付けられているのだ。 そのため、今日の6時間目は体育館で各部活の活動内容紹介と勧誘にあてられていた。その後は、体育館にて解散になるため、体育館外では勧誘のための上級生がそこかしこにいる。 この学校の恒例のことらしい。 「わたし茶道部なの。うちに入らない?けっこう楽しいところよ!」 この人、意外な部活に入ってるな、と思い一瞬言葉につまった。 「いえ・・・あの・・・別に、いいです・・・」 うまく断れないでいると、さらに迫力ある笑顔で彼女は寄ってきた。 「部活動は週一だから無理せず続けられるし、練習ごとに和菓子食べれるんだよ♪茶道向いてそうに見えるんだけどな〜」 確かに、見た目地味なタイプだとは思う。 だけど、茶道ならある程度の所作は覚えているし、出来ればやったことのない部活に入りたいと思っていた。 「わたし、出来れば・・・」 「お〜、新井〜。なに、おまえも部活の勧誘係?」 知らない男子生徒の声が横から入った。 「そーよー。あたし茶道部だし♪」 「マジ?」 意外そうに言う。 同感だ・・・。 「おとなしそうな子捕まえて、強引に入れようとしてんじゃないよなあ?」 ちらりと視線をこちらにむけて冗談っぽく言う。 「そんな事してないし。これから部室に見学に来て貰おうと思ってたんだから」 初耳だ・・・。 が、なんとなく会話に割って入れない。 「ま〜がんばって」 適当な応援の言葉で去っていき、新井先輩はヒラヒラと手の平を振った。 「ね、部室見てかない?」 子犬のような人懐っこさが新井先輩の良さなのか。 「はあ・・・」 曖昧な返事をすると、それをイエスととったのだろう。こっちよ!と校舎のほうを向いて歩きはじめた。 「あっ、そうだ。あたし新井奈津美。あなたの名前は?」 「里見です。里見由季・・・・・・」 由季は流されるまま、質問に答えた。
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