図書室は一人で掃除するには、やはり広い。 床がカーペットなので、掃除機をかけ続けた。腰が痛くなりそうだ。
(机の水拭きまでは疲れて出来ない。というか面倒だわ・・・)
掃除機を片付け、久美は校庭の見える窓際のイスにすとんと腰をおろした。 一人の為、ダラダラと自分のペースで掃除をしていたら時間がかかってしまった。 時計の針は5時をさしている。 けれど久美は一人で良かった、と思った。 あの女子たちと図書室に集まったからといって、何をするというのか。きっとしゃべっているだけに違いない。 今までだって、まともに掃除している姿を見たことがないのだ。 広いとはいえ、この密室に知代たちと閉じ込められると思うと、息がつまりそうだった。
日に日に気温が高くなってきた5月下旬。 久美はじんわりと汗をかいていたので、窓をあけた。カーテンがなびき、さわやかな風が久美の肌をなでた。
今日は図書室の開放日ではないので、生徒は誰も来ない。そばの本棚にひじを置き、別のため息をついた。
(まだ家に帰りたくないなあ・・・)
なぜ学校も家も、こんなにうっとおしい場所なのか。いろんな人の感情がうずまいて、まとわりつき、体がドロドロになっていくみたいだ。 深く考えると、久美は目頭があつくなった。 考えだすとダメだ、とわかってはいたが、とうとう目からポロポロと涙をこぼした。 声は出さない。 だけど、この空間には誰もいないと思うと、余計に止まらない。
ああ、鼻水まで出てきた。 ずずっと鼻をすすると同時に、「パタン」と別の音が聞こえた。
一瞬、聞き間違いか、窓の外からの音かと考えたが、振り返るとそこには机の上に本を置いた男子生徒が突っ立っていた。
(市橋 馨(カオル)・・・!)
思わず心の中でフルネームを叫んだ。 あわてて反対を向き、袖でぐいっと顔を乱暴にふく。
「えっと・・・」
かおるが戸惑った様子で口を開く。 久美はビクッと体を固めた。
「・・・なんか、悲しかった?」
久美は言葉をつまらせた。 何を言われるのかと思ったら、拍子ぬけしたような、だけどいきなり核心をつかれたようで、驚いたのだ。
「うるさい」
何か言わなければ!と焦って出た言葉はその一言だった。
(う、しまった・・・)
かおるの顔色をうかがう余裕もなく、その場を足早に去った。
(あんな言い方、違うのに・・・)
後悔しつつも恥ずかしい思いが強く、久美はそのまま廊下を走っていった。
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