今日何度目かの鼻をかみ終えて、涙目を必死で擦った。春でも木陰は肌寒いから、シートを日向に移して陣取った。花見の席取りなんて、ホント貧乏くじを引かされたようなものだった。おまけにみんな僕が花粉症だと知っていながら、誰もティッシュを用意してくれなかった。日中の花粉の量はひどくて、桜の木の下にいるのにちっとも桜の香りがしてこない。興なんてものは、花粉症には無縁の存在だった。 暖かな風が吹いて、花びらと一緒に花粉が舞う。なまじ目に見えないだけに性質が悪い。花粉と無力感に、涙が滲み出す。ダメだとわかっていながら、潤んだ目を擦る。 詰まった鼻に、突然フワッとしたものが入ってきた。フローラルなユーカリの香りがする香水。彼女の香りだ。 「楽しい?」 楽しくはなかった。でも彼女のその言葉が聞けて、貧乏くじを引かされた気分は幾分晴れた。 「まだ二時なのに、精が出ますね」 かくいう彼女も今日のノルマが終わって、前線に送り込まれたクチだろう。悪戯な笑顔を振りまいて、僕の隣に座ってくる。自然と、二人だけが照らされた。 鼻づまりで頭がボーっとする。なんだかもう、花見なんてどうでもよくなった。
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