フェリーを降りると、他の大学のグループも揃っているようだった。我が日本首都海洋大学からは、今日は大黒班だけが参加している。 「まだ午前中ですし、昼食を済ませてからまた集合にしましょう」 これは遠まわしに自由時間を意味しているのだろう。海洋調査にあたって、『日本太平洋センターポイント』サイドも利用して貰うことを望んでいる。 「ほら、観光出来るじゃないか」 「今日は運が良いな、宙」 孝富は、貴重な『太平洋海洋上博物館』を見学したいと言ったが、僕は研究に来てまで博物館に行きたいとは思わなかった。ここが優秀かそうでないかの違いだろう。それよりも、ずっと前から気になっていた『天海展望塔』に行くことにした。
高速エレベーターで最上階まで上がると、驚いたことに僕だけしかいなかった。確かに、もっと楽しいスペースがある。わざわざ海上に来てまで、海を眺めるのはどうかしている。 大きな双眼鏡を覗き込む。清々しいほど遠くまで、海が広がっている。当たり前だけど。それからグルッと回してみる。船が三隻ほど見えた。 その時、突然視界が暗転した。 「あれ? おかしいな」 僕は双眼鏡を覗き込んだまま、手でその原因を探る。これは……人の頭? 「あの……何してるんですか?」 双眼鏡から目を離すと、そこには逆側から双眼鏡を覗き込んでいる人がいた。僕と同じ白衣を着ているところから考えると、海洋調査に来た大学生だろう。 「いや、ごめんね。この展望台に誰かがいるなんて思ってなかったからさ」 女性だった。物凄く清楚な格好の上に白衣を羽織った、とんでもなく綺麗な女性。僕は咄嗟に身構えてしまう。海と同じくらい、女性が苦手だったりするのだ。
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