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作品名:TRUE BLUE 作者:夢智葦明

第2回   「青い世界」A
 実は海洋遺伝学を学ぶ理由はそれだけでは無い。
 たぶん、もっと恥ずかしい理由なので、あまり言いたくないのだけど。というか、一度も口にしたことが無いかもしれない。
 もう一つの理由、それはある『約束』だ。
小学校六年生の時まで、隣の家に幼馴染の女の子が住んでいた。名前は赤城陽菜。妙にサバサバしてて、すごく仲が良かった記憶がある。でも、彼女はカナダへと移住することになり、それ以来連絡も取れていない。
その彼女と約束をしたのだ。ある日、僕が「海についての恐怖」を語っているときだった。
「怖いんだったら、丸裸にしちゃえば良いんだよ。次に何が飛び出てくるか分かってるお化け屋敷なんて怖くないでしょ? それと同じだよ」
 その陽菜の言葉は、物凄く的確だった気がする。
「一人じゃ大変だから、私も一緒に調べてあげるね」
 これ以降の彼女の言葉は思い出せない。いや、たぶん最後に交わしたのがこの会話だったのだと思う。
 ほら、馬鹿みたいだ。小学生の約束なんて、吹けば飛ぶような薄っぺらいモノだろう。幼稚園児の「将来お嫁さんになってあげるね」レベルだ。
 だけど、それでも良いと思っている。少なくとも、僕は赤城陽菜のおかげで素敵な道を歩めているのだから。贅沢を言えば、いつか海の上で会える日が来れば良いと思う。まぁ、現実は厳しいよね。たぶん彼女は、文学部とか法学部とかにいるというオチだろう。僕を覚えているかすら怪しいか。



 遠足に行く小学生は、前日の晩、それはもう寝られたもんじゃない。太平洋調査前日の晩、僕は寝られなかった。小学生と同レベルだ。大好きなロックバンドのライブがある前夜に、興奮して寝られなかった時以来である。
 集合場所に着くと、もはや見慣れてしまって、ありがたみも感じなくなったジェットフェリーが待機していた。太平洋沖に出るのに三十分も掛からない。これは少し前まで信じられない速さだったのだが、人間とは悲しい生き物で、もっと速い手段は無いのかと欲張ってしまう。
 僕のグループは五人。四年生は孝富と僕の二人。あとは三年生で構成されている。ちなみに女性はいない。この学問分野自体、女性の興味を全く擽らないようである。
 孝富と自作パソコンのことについて熱く語っていると、太陽光が反射して美しい輝きを放つ『日本太平洋センターポイント』が見えてきた。何度見ても素晴らしいと思う。地図に載ってしまうのも納得出来る。


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