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作品名:TRUE BLUE 作者:夢智葦明

第1回   「青い世界」@
 戦争終結から十年が経った。当時小学校で六年生をやっていた僕にとって、それらの記憶はさほど鮮明では無い。なにしろ、戦争が行われているのに、その光景を一度も目にしなかったからだ。
 そもそも何故戦争が起きたのか。アメリカの大統領が変わる時、国民はその嘘を見抜けなかった。フィラー・フェイソンという、歴史上に悪い意味で名を残すこととなった人物。彼は独裁者となり、国名まで捨てたのだ。アメリカは『ユナイティア』と名を変え、世界から孤立しようとした。そして、それを阻止するために世界は一つとなり、大きな戦争となったのだ。
 日本はロボットテクノロジーが発展していた。世界が束になっても敵わないほどの技術力だった。日本を中心とした世界連合が戦勝に至る経緯は、記録として残っているのかどうかも怪しい。ここまで徹底しているともう、伝説を聞いているようなものなのだ。




 ライブラリセンタ―の窓から、清々しく晴れた空を仰ぐ。
「よくそんな余裕があるな」
 向かい側に座って黙々と作業していた孝富が、軽く皮肉をこぼした。この大黒孝富は、一緒に学ぶ仲間の中でも特に秀でている。僕は彼と一緒に勉強しているだけで、少し得した気分にさえなれるのだ。
「レポート、もう五件は溜まってるんだぜ」
「これ書いたら、何か謎でも解けるのかな」
 僕は積んである資料を手に取り、パラパラと捲ってみる。
「いや……解けないだろ。俺らにとっちゃ、実地調査の方が謎解きだな」
「あれ、明後日だよね。太平洋に出るの」
 手帳を開くと、土曜日のところに『太平洋調査』と赤ペンで書かれていた。海洋遺伝学科の学生にとって、スケジュール手帳は欠かせない。もし、一人でもグループで欠けていた場合、それは命の危険にも繋がるということだからだ。

 僕は蒼野宙。海洋遺伝学部で研究している大学四年生。何も考えてないけど、このまま大学院に進む気がする。
 何故、海洋遺伝学を学んでいるのか。海が怖いからだ。こんな理由で勉強している学生は、僕だけだと自信満々で言い切れる。昔から海に恐怖を抱いていた。海水浴に行った時、自分の足の下を巨大な何かが泳いでいる錯覚に陥ったことは無いだろうか。もちろん、実際にはあり得ない。巨大な何かが、人の泳げる領域まで入ってくることは無いからだ。だが、トラウマというのは簡単には抜けない。それは知識を得た今でも、変わることはないのだ。
 ここ数年で、海洋上にたくさんの調査ポイントが作られた。小さな町のようになっていて、人が暮らすことまで出来てしまう。宿泊調査なんていうのも可能になり、僕等にとって無くてはならない施設である。明後日の太平洋調査で利用することになっている『日本太平洋センターポイント』は、最近設けられた特に新しい調査ポイントで、僕も楽しみにしていたのだ。孝富には「観光じゃないぜ」と釘を刺されているけれど。


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