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作品名:100年目の希望 作者:パンデミックデリタス

第7回   グレート松本の凍りつく話
まぁそんなにあらたまらずにさぁ、とにかく店の中入んなよ、とグレート松本はサッカーボールを足の裏でコントロールしながらミスターおくれを店の奥へと案内した。店の奥には石油ストーブを囲むようにして二人賭けのソファと一人掛けの椅子が置おかれていて、グレート松本はミスターおくれをソファへ座るように 誘導した。ミスターおくれは、誘導されるがままにソファに腰を下ろそうとしたが、コーヒーと紅茶どっちがいいのかとグレート松本に聞かれたので、中腰のままコーヒーでお願いします、と言って腰を下ろした。

ミスターおくれは、出されたコーヒーを一口飲んで、椅子に座ったグレート松本に話を切り出した。「グレート松本さんに聞きたい話というのは、実 は、僕は今どうしてもわからないことがあるんです・・・(省略)・・・。」ミスターおくれは、10円くれ攻撃で10円をくれた女の子たちが、ギャル男たち を10円以下だと言ったことや、彼女らがギャル男たちがある意味犠牲者だと言っていたこと。また、10円くれ攻撃で貯めた730万円を彼女らが理想とする 社会に変えるための有意義な使い道を模索していること。さらには、ある意味犠牲者だと言った真意はギャル男たちが閉塞感や虚無感を生み出す社会の犠牲に なった象徴的な存在に過ぎず、ギャル男以外の多くの若者も希望を持てないでいるのではないかと仮説を立ててみたものの、なぜ希望が持てないのか、この社会 を覆っている閉塞感や虚無感はいったい何なのか、さっぱりわからないでいることを話した。

「なるほど。若者が希望を持てなくなってきていることの原因がわからないんじゃ、そのお金の有意義な使い道なんてわかるわけないわな。で、俺なら その原因を知ってるんじゃないかってことか。結論から言うと、その原因を知ってるし、君の仮説は正しい。「この国に希望が持てますか」というアンケートを ネットで2000人くらいに回答してもらったんだが、過半数の人が希望が持てないと回答してる。実は、俺が作った大衆の乱っていうのは希望を取り戻すため に結成した反権力組織で、リサイクルショップやカフェは本来の活動とは少し違うんだ。まぁ、宣伝効果はかなりあるんだけど。つまり、あんたがここに来たの は正解ってわけだ。俺はこの国が何でこんなに理不尽に出来てるのか全部知ってる。で、理不尽を生み出す構造を知ってやる気をなくしてしまう大人が大勢いる ことも知ってる。それだけじゃない、理不尽を生み出す構造を私利私欲のために利用しようとする大人がいるのも知ってる。大衆の乱のメンバーたちはそれを全 部知った上で、現実を直視し、自分の頭で考え、自分を律することを心に刻んで巨大な権力と戦っているんだ。」グレート松本は自分の前髪を強く左手で掴み上 げ、怒りを抑えようとして大きく息を吸い込んだ。ミスターおくれは息を呑んだ。

「さあ、覚悟はできたか?」

「覚悟なら100年前から出来てますよ。」

ミスターおくれは、手に持っていたコーヒーカップを置き、両手を膝の上で組んで、グレート松本をまっすぐに見た。

すると、グレート松本は壁に貼ってある世界地図の日本を指差して、こう言った。

「この国は、国家ではない。」


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