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作品名:100年目の希望 作者:パンデミックデリタス

第4回   強き者、弱き者
「私は昔、警察官をやってたんだ。子供のころからの夢だったんだ。だって警察官て善良な市民を悪い奴から守る正義の味方みたいでかっこいいだろ。それでさ、はじめの内は警察官になりたいっていうのはぼんやりとした夢だったんだけど、16歳の時にさ、本気で警察官になろうって決断させた出来事があったん だ。実は私は高校に入ってからずっと集団によるいじめにあってたんだ。体育の時間になると体操服がなくなってるし、教科書も落書きだらけ。朝学校へ行くとかならず机が教室の外に出されてた。暴力だって毎日のように受けた。ある日、いつものように学校の授業が終わって逃げるようにして教室を出て自転車に乗って正門出たら、いじめ集団の仲間が待ち伏せしててさ、人気のない駐車場に連れていかれていっぱい殴られたんだ。悔しくて反抗するんだけどさ、抵抗すればするほどいっぱい殴られるんだ。でもそこで抵抗しなかったら、本当の自分がどっかにいっちゃってもう今いる場所に二度と戻ってこられなくなるような気がして さ、勝てないのわかってても抵抗するのやめられなかったんだ。そしたらさ、誰かが気付いて警察に通報してくれたみたいで、一人の警察官がやってきてその場 を収めてくれたんだ。でさ、状況を読み取ったその警察官がこう言ったんだ。『あいつらは弱い奴らだ、君は強くあれ。』ってね。それ聞いてさ、世界がぱーっと明るくなってさ、これから先どんな辛いことにだって耐えていけるって思えたんだ。その時の警察官の言葉が私の夢を現実的な目標に変えてくれたんだよ。」

ミスターおくれは、ダイナマイト仙波の話をただ黙って聞いていた。何かしゃべろうとしたけど止めた。辺りはすっかり暗くなっていて、人もかなり 減った。気温も下がってきていたが、ヒートテックのおかげかミスターおくれはまったく寒さを感じなかった。ダイナマイト仙波は少し多めに息を吸い込んで ゆっくり鼻から息を吐いた。
そして、またゆっくりと話しはじめた。

「それで、私は警察官になったわけさ。でも、違ったんだよ・・・。現実っていうのはそんなに甘いもんじゃなかったんだ。あいつらは詐欺師と同じ さ。いや、正義の味方を装っている分もっと性質が悪いかもしれない。あいつらはさ、領収書を偽造して、国民の税金を横領してるんだ。領収書の偽造はルー ティンワークのように行われていて罪悪感すら持ってないんだ。偽造したお店のハンコがずらーっと並んでるんだ。でさ、その領収書の偽造を若い奴にやらせる んだ。昔、キリスト教徒を弾圧していた政府がやった踏み絵みたいなもんさ。領収書を偽造しなかった奴は裏切り者として扱われ、みんなからいじめられるんだ。もちろん、私は初めから領収書の偽造に抵抗し続けた。昔の時のように。あの時の警察官が言ったように強くあり続けたんだ。そして、毎日のようにいじめ にあった。飲み会に誘われることもないし、何かと残業を強いてくるし、陰口も叩かれた。自宅には毎日無言電話の嫌がらせ。大人のいじめというやつは、子供 のいじめよりも陰湿で陰険だよ。そして私は、正義の味方であるはずの警察の不正を許してはいけない、偉くなって中から組織を変えようと決意したんだ。私は ノンキャリアだったんだけど、出世できる方法はあったんだよ。だから必至に勉強した。だけど、それは叶わなかったんだ。勉強してトップクラスの成績をとってもことごとく面接で落とされるんだ。何度挑戦してもダメだった。私は警察に失望したよ。で悟ったんだ。正当な手段ではこの組織を変えられないってね。で 私は警察を告発することにしたんだ。それがどれだけ大変なことか、どれだけ家族を不幸にするかを知った上でね。結論から言うとさ、告発してもダメだったんだ。ことごとく証拠隠蔽されてさ、警察と検察が結託してたんだよ、もうお手上げ状態さ。はじめの内はマスコミも面白がってその裁判を取り上げてたけど、そ の内マスコミにも圧力がかかってさ、この告発は人々の記憶の片隅に追いやられてしまったんだ。でさ、思ったんだ。この世に正義なんてないってね。そう、あ の警官の言葉はきっと一時的に私を励ますための建前に過ぎなかったんだよ。」

ダイナマイト仙波は小さなタメ息をついた。ミスターおくれはポケットから10円玉を取り出してそれをじっと見つめていた。

「君はあの警察官が言った言葉を信じられるかい?」
ダイナマイト仙波は声を震わせながら言った。

「僕は信じるよ。強い奴が弱い奴に負けるわけないさ。」
ミスターおくれは、持っていた10円玉を強く握り締めてポケットにしまった。

ミスターおくれは、ダイナマイト仙波に貴重な話を聞けたことのお礼を言って別れた。


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