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作品名:100年目の希望 作者:パンデミックデリタス

第3回   ミスターおくれ、ダイナマイト仙波さんと出会う
今日は、一段と風が冷たい。冷え性のミスターおくれは、寒さのせいなのか、有意義なお金の使い道が思い浮かばないせいなのかわからないが、少し憂鬱になった。気分転換に代々木公園で散歩でもしようと思い立ち、スペイン坂を抜けて公園へ向かった。途中ユニクロで念願のヒートテックを買った。そして、ヒート テックを履いてうれしくなったミスターおくれは、たくさんの人でひしめき合う通りを敢えてスキップで通り抜けていった。

15分くらいで代々木公園に着いた。この公園に来ると100年前に上京したばかりのころを思い出す。満開の桜の木の下で友人と二人で缶ビールを飲みながら、これから始まる東京生活に夢と期待を膨らませながら語り合ったこと。ゆずもどきの素人ミュージシャンたちの歌を聞いて、新鮮な気持ちを確認した こと。ミスターおくれは少しノスタルジックな気持ちになった。

この公園にはいろんな人がいる。ラジカセを持ち込んで舞踊の練習をしている人。キャッチボールをしている親子。昼間から酒を飲んでヘラヘラしているおっさん。人前でこれでもかというくらいイチャついてみせるカップル。宗教の勧誘をしているおばさん。見たこともない楽器を演奏しているじいさん。そういう光景を見ていると、ミスターおくれがやろうとしていることはこの人達にとって有意義なものになるのだろうか、虚無感を創出する枠組みの中で理不尽さを 感じながらも、身近にあるささやか幸せをかみ締めて生きている人達に、「そんなのはガス抜きに過ぎない、もっと偉大なる理想をみんなで思考していこうじゃないか」、などといったい誰が言えるだろうか。ミスターおくれはポケットに入っていた栗まんじゅうを食べながら、欠けていく夕日をずっと眺めていた。

日が暮れて辺りが暗くなり、街灯にちらほら明かりが灯されはじめたころ、ミスターおくれの前に一人の男が現れた。年齢はミスターおくれよりも30歳上くらいで、まっすぐな目で彼のことを見ていた。

「何か浮かない表情をしているが、その栗まんじゅう、そんなにまずかったのかい?」

「そうじゃないんです、ただ自分がやろうとしていることが正しいことなのかわからなくなったんです。」

「そうかね、私はダイナマイト仙波だ。君は?」

「ミスターおくれです。」

「君に、私が見てきた現実を少ししゃべらせてくれ。」

といって、ダイナマイト仙波はゆっくりと話を始めた。


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