あたしと司(つかさ)が知り合ったのは、ケータイサイトだった。 ちょっと前まではそんな出会い方に疑問を感じていたし、嫌悪すらしていたけど、今となっては感謝している。あたし達はそんな方法でしか仲間を探せないということに気付いたから。特にあたしは高校生だから、尚更。 でもあたしは親友にすら自分に恋人ができた事を打ち明けていなかった。どのサイトで知り合ったの?なんて聞かれても、困っちゃうし。 大学生の司はあたしから見るとやっぱり大人で、大学での私生活が気になってしょうがなかった。授業の合間に女の子たちと談笑している司を思い浮かべて、あたしは勝手に架空の女たちに嫉妬する。 大好きよ、司。 あたしも周りの目を気にしないで司の隣にいられるように、早く大人になりたいの。
「理緒(りお)ってさ、彼氏作らないの?すぐ出来そうなのにね」 沙織が言った。昼休みになると、女の子は皆恋愛話をしたがる。駅前のゲーセンでナンパされただとか、今度カラオケ合コンするから一緒に行こうよとか、彼氏ができた、とか。 「そうだよね、理緒何気モテるよね。てかなんか、最近可愛くなった」 ダイエット中だという真奈が、お菓子みたいな栄養食品を頬ばりながら言った。全然太ってないのに、ダイエット。新しくできた彼氏の為に痩せるらしい。その癖砂糖のたっぷり入った珈琲牛乳を毎日欠かさず飲んでいる。女の子って不思議だ。なんて思ってるあたしも、実はちょっとだけ食事には気をつけていた。ダイエットはしてないけど、少なくともこれ以上は太ったりしないように。 前付き合ってた人は、「割と胸大きい子が好きなんだよね」なんて言うから、その頃は一生懸命、毎日のように鶏肉ばっかり食べていた。結局すぐに別れちゃったから、あたしの胸は特に変わり映えしないまま、司と付き合うことになった。 そしたら司は、「どっちかって言うと、胸は無い方がいいかな。ぺったんこなくらいが好きかも。洗濯板みたいにちょっとあばらのごつごつしたのが見えるくらいのが好き」と、ちょっと予想外な事を言ってきた。あたしにとってはうれしい言葉だったし、司のそんなちょっと変なとこ、なんかいいなぁと思って惚れ直した。 だからあたしはいつもお風呂上がり、体のどの部分よりも、首の下から胸の間にかけてのラインを念入りに手入れした。 「だよね、私も思った。理緒もしかして好きな人できた?」 沙織がニヤニヤしながら小さな声で探ってくる。 あたしだって本当は言いたい。あたしだって素敵な恋をしてるんだから。でも本当の事を知って、みんなに軽蔑されるのが怖かった。そう思いながらも一方では、みんなに知ってほしい。全部打ち明けて、それでも堂々として当たり前のように振舞っていられたらいいのに。といつも思っていた。 「いない。男嫌いだもん」 いつもそう、素っ気なく答えてしまう。 「ねーもう、理緒ってほんと男嫌いだよね。何でなの?勿体ないじゃん」 「そうだよ。いつまでもそんな子供みたいなこと言ってないでさ、一歩を踏み出してみようよ。彼氏の友達、紹介してもらおうか?」 「いいねー、合コンしようよ、合コン」 「しない。合コン嫌いだってばっ。知らない男になんて興味無いもん」 こういう話になると、いつもどうしても口調が冷たくなってしまう。興味がない。他に言葉が見当たらない訳じゃなくて、本当に興味がないのだ。 「知らない男じゃなかったらどんな男と知り合うのよ」 沙織も真奈も、あたしの態度は毎度のことなので特に気にせずにかえって面白がっている。 「まぁいいけどさ、理緒はそのままでいてよ」
誰にも言わない、あたしだけの秘密の恋人。 でも彼女は、街中で手すら繋いでくれない。 そう、彼女。 あたしには世界で一番かっこよくてきれいな、彼女がいる。 「ねぇー、司、手繋ぐくらいいいじゃん。たまに会った時くらい」 「だめ。どこで知り合いに会うかわからないでしょ。こんな都会のど真ん中でさ。私なんて、女の子と手繋いでたら見るからにそっち系じゃん。しかもロリコンだと思われるし。レズでロリコンなんて、最低」 「何でよ。今日は制服着てないし、女同士で手繋ぐなんて普通なのに。それにレズじゃなくてビアンって言って」 ぷぅーっと、頬を膨らませて見せる。 「普通じゃないの。私たち、普通じゃないでしょ。別に二人きりの時は違うんだからさ、いいじゃん」 司は普段割と毒舌で結構グサグサくることを平気で言うのに、たまにポロッと甘い言葉を囁いたりするから、たまらない。 そんなところが、好き。 「ねぇ、今度二丁目連れて行ってよ」 「だーめ。理緒はまだ子供でしょ。私犯罪者になっちゃうよ。ちゃんと、大人になってからね」 “ちゃんと、大人になってからね” あたしを“大人の女”にしたのは、司だった。 でもそれは、気持ちだけ。まだ年齢が追い付いていなかった。あたしはそれが、もどかしくてたまらない。 「ふーんだ。ロリコンだとか犯罪者だとか、ひどいじゃない。司があたしの写メ見て“可愛い”とか“会いたい”とか、言ったんだよ。散々口説いてきたくせに。あたし、会う前の司から来たメール、全部とってあるんだからね」 あたしは司の弱みでも握っているかのように大袈裟に言ってみせた。 「でも年齢ウソついてた。私どっちかって言うと、年上が好きなんだよね」 「もー、何度も聞いた。だってあのサイト、18歳未満はだめなんだもん」 「それはね、私みたいな犯罪者を作らないようにっていう配慮があったからなんだよ。ちゃんと守らないと」 「もうやってないし。これからもやらないよ、被害者は司だけにしとく」 「よし、いい子」 司は例えようもなく、中性的で魅力的な口元にふわりと笑みを浮かべて、「これくらいはいいかな」と言ってあたしの頭を撫でてくれた。 「でもさ、年上好きなのに胸が無い方がいいなんて、変なの。本当はロリコンなんじゃないの?」 突然のご褒美にびっくりして素直によろこべずに、あたしは顔が真っ赤に染まっていくのを感じながらつい可愛げのないことを言ってしまう。 「わかってないな。まぁ、理緒が貧乳なまま大人になったらさ、わかるんじゃない?」 「ひどい、貧乳なんて」 司は勝ち誇ったような瞳で上からあたしを見下ろしていた。あたしは怒っている振りをしながら、胸の内に広がっていく司への気持ちが溢れてしまわないようにぎゅっと抱き締めていた。 沙織も真奈も知らない、あたしは素敵な恋をしている。
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