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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第97回   97
次の日―――

目が覚めても、当然大人のあたしだった。
そして、いつものように会社と向かう。

いつものように、仕事をこなし就業時間を終える。



あの夢のせいか、携帯をチェックするのをすっかり忘れてた。
家に帰り、メールが入ってるのを気付く。

相手の名前をみて、慌ててメールを開く。

きょんちゃんからだ・・・久しぶりに会わない?って事だった。
昨日の夜9時過ぎに入ってたみたい。

あたしは遅れて返信することを詫びて、会う約束をした。



そして次の日曜日―――
今では、こんな田舎にでもチェーン店のコーヒーショップができており、そこで待ち合わせした。

「・・・智子っ。」
店に入ってすぐ、すでに席に座っていたきょんちゃんが手を振る。
「・・・・・・」
あたしもニッコリ笑い、手を振りきょんちゃんのところへ向かう。


きょんちゃんは、小学校の教師をやっている。
転勤が多く、家を出て一人暮らしているので、なかなか会うことがなかった。

「元気だった〜?」
「うん・・・まぁまぁ・・・きょんちゃんは?」
「あたしは元気だよ〜、子供相手の毎日だから、へこたれてらんないわ。」
「クスクス・・・そっか。教師もいろいろ大変だもんね。」

コーヒーを、ストローで無意味にかき混ぜながら話す。

「あのさ・・・実は今日話したい事があって・・・」
きょんちゃんはそう言いながら、カバンの中から封筒を取り出した。

――っ!!

それは今までも何度か見たことのある真っ白い封筒だ。

「・・・結婚・・・決まったの?」
あたしはそれを受け取りながら聞いた。
「うん・・・まぁ、なんとか。」
きょんちゃんは昔から変わらない赤面をした。

きょんちゃんに彼氏がいるのは聞いていた。
もう2年くらいの交際になるか・・・
同じ教師で、3つ上。
お互い仕事が忙しくて、ゆっくり会うことがなかなかできないって、前に言ってたなぁ。

「・・・おめでと。」
「うん・・・ありがと・・・それでさ・・・頼みがあるんだけど・・・」
「なに?なんでも言って?」
「うん・・・スピーチ・・・お願いしたんだけど・・・」
「スピーチって・・・――えっ・・まさか、友人代表とかいう・・・」
「うんっ。お願いねっ!」
きょんちゃんは満面の笑みをしている。

今までだって、友達の結婚式に出た事はあるけど、スピーチ頼まれたのはこれが初めてだ。
はっきり言って・・・人前での挨拶なんて、自信ない。
でも、目の前でニコニコ笑ってるきょんちゃん見ると・・・断れるわけないじゃん。

「・・・わかった・・・スピーチさせて頂きますわ。」
「ほんとっ!?ありがとうっ。じゃあ・・・智子の時はあたしに任せてね。」
「あはは・・・出番ないかもよ。」
「まだわかんないでしょ?今は?彼氏いないの?」
・・・直球だな・・・
「・・・かれこれ・・・3年いません・・・」
「そうなんだ・・・あっ、そうだ・・・同窓会のハガキ来てたでしょ!?」
「え・・・あぁ・・・うん。」
そうだった・・・ハガキ来てたんだ。
「じゃあ・・・いいチャンスかもよ。」
きょんちゃんはニヤっと笑った。
「・・・なにそれ?」
「だって、よくある話じゃん。久々の再開で何かが芽生えるかもって・・・。」
「・・・ふっ・・・ドラマじゃあるまいし・・・ないない。それに・・・この歳になると、残ってるのって少ないんじゃない?というか、まだ残ってるってことは・・・それなりの問題があるんじゃない?あたしも含めてさ。」
残りのコーヒーを飲み干した。
「もう〜っ・・・すぐそういう風に自分を悪く言うっ。昔っからそういうとこあるんだからっ。」

・・・昔っから・・・か。
ふと、ある事を思い立つ。

「ねぇ、きょんちゃん・・・」
「ん?なに?」
「・・・・・・美樹の事・・・覚えてる?」
「――っ・・・美樹?」
「・・・うん。山下・・・美樹。」
きょんちゃんは、一気に笑顔が消えた。
そして、ストローをグルグルと回す。
「・・・・・・覚えてるよ。」
静かにそう答えた。

――っ・・・しまった。

聞いた後に気付いたけど・・・きょんちゃんは、美樹に謝ることができないまま、別れてしまった事を後悔してたんだった。

「なんかっ・・・ふと、思い出してさ・・・元気かな〜って・・・」
当たり障りのない、言葉を付け足した。

ただ単に、あの変な夢を見てしまったから、ありもしない期待をどこかで抱いていたんだ。
もしかしたら・・・少しは、違う過去になってるのかもって・・・そんなこと考えてしまって、きょんちゃんに聞いてみたかったんだ。

「・・・・・・中一以来・・・なんの連絡もしてないし・・・どこにいるのかなんて・・・全然聞いたこともない。」
「・・・そう・・だよね・・・わかんないよね。」
これ以上は触れないでおこうと、話を打ち切ろうとした。
でも・・・きょんちゃんは続けた。

「・・・・・・元気であって欲しいね。」

――っ・・・
きょんちゃんの言葉に、やけに重みがあった。


そして、帰り際・・・
「・・・あっ・・・そうだ、忘れてた!」
きょんちゃんはカバンの中からA4サイズの茶封筒を取り出した。

「実はさ、あたしが去年までお世話になっていた先生が、来年の4月から個人で保育園開園するんだけど・・・」
そう言いながら、その茶封筒からパンフレットを取り出した。
「誰か知り合いにでも実務経験のある保育士いないかって、相談されたんだ。それで、智子の事思い出して、とりあえずこれ預かってきたの。」

・・・・・・保育士って・・・。
確かに、資格はあるけど・・・。

黙ったまま、そのパンフレットに目をやる。

「開園まで1年以上あるけど、なにかと準備とか研修とかあるみたいで・・・まぁ、智子だって、今会社に勤めてるんだから、簡単には考えれないだろうけど・・・でも・・・保育士の仕事・・・少しでも未練ない?」
「・・・・・・」
「断るなら断るでいいから・・・一度これ目を通してみない?」
「・・・・・・」
「返事は急がなくてもいいから。まだ探し始めたばっかみたいだし。」
「・・・・・・じゃあ・・・一応、考えてみる。」
「うんっ・・・また返事ちょうだい。」

そして、きょんちゃんとの久々の再会を終えた。

保育士の話が出るなんて・・・正直迷った。
だって、きょんちゃんに言われたとおり、あたしには未練があった。
保育士という仕事に・・・。
でも、すぐにっていけるほど・・・過去の失敗を忘れてもいなかった。

今のあたしには、まだそれを乗り越える勇気がなかった。


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