次の日―――
目が覚めても、当然大人のあたしだった。 そして、いつものように会社と向かう。
いつものように、仕事をこなし就業時間を終える。
あの夢のせいか、携帯をチェックするのをすっかり忘れてた。 家に帰り、メールが入ってるのを気付く。
相手の名前をみて、慌ててメールを開く。
きょんちゃんからだ・・・久しぶりに会わない?って事だった。 昨日の夜9時過ぎに入ってたみたい。
あたしは遅れて返信することを詫びて、会う約束をした。
そして次の日曜日――― 今では、こんな田舎にでもチェーン店のコーヒーショップができており、そこで待ち合わせした。
「・・・智子っ。」 店に入ってすぐ、すでに席に座っていたきょんちゃんが手を振る。 「・・・・・・」 あたしもニッコリ笑い、手を振りきょんちゃんのところへ向かう。
きょんちゃんは、小学校の教師をやっている。 転勤が多く、家を出て一人暮らしているので、なかなか会うことがなかった。
「元気だった〜?」 「うん・・・まぁまぁ・・・きょんちゃんは?」 「あたしは元気だよ〜、子供相手の毎日だから、へこたれてらんないわ。」 「クスクス・・・そっか。教師もいろいろ大変だもんね。」
コーヒーを、ストローで無意味にかき混ぜながら話す。
「あのさ・・・実は今日話したい事があって・・・」 きょんちゃんはそう言いながら、カバンの中から封筒を取り出した。
――っ!!
それは今までも何度か見たことのある真っ白い封筒だ。
「・・・結婚・・・決まったの?」 あたしはそれを受け取りながら聞いた。 「うん・・・まぁ、なんとか。」 きょんちゃんは昔から変わらない赤面をした。
きょんちゃんに彼氏がいるのは聞いていた。 もう2年くらいの交際になるか・・・ 同じ教師で、3つ上。 お互い仕事が忙しくて、ゆっくり会うことがなかなかできないって、前に言ってたなぁ。
「・・・おめでと。」 「うん・・・ありがと・・・それでさ・・・頼みがあるんだけど・・・」 「なに?なんでも言って?」 「うん・・・スピーチ・・・お願いしたんだけど・・・」 「スピーチって・・・――えっ・・まさか、友人代表とかいう・・・」 「うんっ。お願いねっ!」 きょんちゃんは満面の笑みをしている。
今までだって、友達の結婚式に出た事はあるけど、スピーチ頼まれたのはこれが初めてだ。 はっきり言って・・・人前での挨拶なんて、自信ない。 でも、目の前でニコニコ笑ってるきょんちゃん見ると・・・断れるわけないじゃん。
「・・・わかった・・・スピーチさせて頂きますわ。」 「ほんとっ!?ありがとうっ。じゃあ・・・智子の時はあたしに任せてね。」 「あはは・・・出番ないかもよ。」 「まだわかんないでしょ?今は?彼氏いないの?」 ・・・直球だな・・・ 「・・・かれこれ・・・3年いません・・・」 「そうなんだ・・・あっ、そうだ・・・同窓会のハガキ来てたでしょ!?」 「え・・・あぁ・・・うん。」 そうだった・・・ハガキ来てたんだ。 「じゃあ・・・いいチャンスかもよ。」 きょんちゃんはニヤっと笑った。 「・・・なにそれ?」 「だって、よくある話じゃん。久々の再開で何かが芽生えるかもって・・・。」 「・・・ふっ・・・ドラマじゃあるまいし・・・ないない。それに・・・この歳になると、残ってるのって少ないんじゃない?というか、まだ残ってるってことは・・・それなりの問題があるんじゃない?あたしも含めてさ。」 残りのコーヒーを飲み干した。 「もう〜っ・・・すぐそういう風に自分を悪く言うっ。昔っからそういうとこあるんだからっ。」
・・・昔っから・・・か。 ふと、ある事を思い立つ。
「ねぇ、きょんちゃん・・・」 「ん?なに?」 「・・・・・・美樹の事・・・覚えてる?」 「――っ・・・美樹?」 「・・・うん。山下・・・美樹。」 きょんちゃんは、一気に笑顔が消えた。 そして、ストローをグルグルと回す。 「・・・・・・覚えてるよ。」 静かにそう答えた。
――っ・・・しまった。
聞いた後に気付いたけど・・・きょんちゃんは、美樹に謝ることができないまま、別れてしまった事を後悔してたんだった。
「なんかっ・・・ふと、思い出してさ・・・元気かな〜って・・・」 当たり障りのない、言葉を付け足した。
ただ単に、あの変な夢を見てしまったから、ありもしない期待をどこかで抱いていたんだ。 もしかしたら・・・少しは、違う過去になってるのかもって・・・そんなこと考えてしまって、きょんちゃんに聞いてみたかったんだ。
「・・・・・・中一以来・・・なんの連絡もしてないし・・・どこにいるのかなんて・・・全然聞いたこともない。」 「・・・そう・・だよね・・・わかんないよね。」 これ以上は触れないでおこうと、話を打ち切ろうとした。 でも・・・きょんちゃんは続けた。
「・・・・・・元気であって欲しいね。」
――っ・・・ きょんちゃんの言葉に、やけに重みがあった。
そして、帰り際・・・ 「・・・あっ・・・そうだ、忘れてた!」 きょんちゃんはカバンの中からA4サイズの茶封筒を取り出した。
「実はさ、あたしが去年までお世話になっていた先生が、来年の4月から個人で保育園開園するんだけど・・・」 そう言いながら、その茶封筒からパンフレットを取り出した。 「誰か知り合いにでも実務経験のある保育士いないかって、相談されたんだ。それで、智子の事思い出して、とりあえずこれ預かってきたの。」
・・・・・・保育士って・・・。 確かに、資格はあるけど・・・。
黙ったまま、そのパンフレットに目をやる。
「開園まで1年以上あるけど、なにかと準備とか研修とかあるみたいで・・・まぁ、智子だって、今会社に勤めてるんだから、簡単には考えれないだろうけど・・・でも・・・保育士の仕事・・・少しでも未練ない?」 「・・・・・・」 「断るなら断るでいいから・・・一度これ目を通してみない?」 「・・・・・・」 「返事は急がなくてもいいから。まだ探し始めたばっかみたいだし。」 「・・・・・・じゃあ・・・一応、考えてみる。」 「うんっ・・・また返事ちょうだい。」
そして、きょんちゃんとの久々の再会を終えた。
保育士の話が出るなんて・・・正直迷った。 だって、きょんちゃんに言われたとおり、あたしには未練があった。 保育士という仕事に・・・。 でも、すぐにっていけるほど・・・過去の失敗を忘れてもいなかった。
今のあたしには、まだそれを乗り越える勇気がなかった。
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