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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第94回   94

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バタバタバタッ・・・
どれくらい経ったんだろう・・・やけに廊下が騒がしい。
ナースの人たちが走っているんだろうか?
・・・・・・
・・・走ってる?

なにかあって・・・?

・・・―――っ!!

あたしと美樹はとっさに立ち上がり、待合室へと向かう。

すでに美樹のご両親が廊下に出ていた。
そして、担当医であろう人と話をしている。

すぐに話を済ませ、先生はICUへと入って行った。

「お母さんっ・・・!」
美樹は急いでお母さんの所へ向かう。
「・・・なに?・・・・・・なんなの?」
「・・・・・・」

美樹のお母さんは、また泣いていた。
そのせいで、なかなか言葉にならない様子だ。

すると、美樹のお父さんが、美樹を抱き寄せた。
そして・・・・・・



「・・・・・・たんだ・・・・・・美加は・・・っ」



その声も泣き声に変わり、まともに聞き取れない。



「・・・え?・・・なに?」



「・・・・・・たすかった・・・んだよっ・・・意識がっ・・・戻ったって・・・っ」



―――っ!!
・・・・・・ほん・・とに・・・?
ほんとにっ・・・!?



「・・・・・・ほんと?・・・ほんとだね・・・?・・・っ・・・」
美樹は力が抜けるように、呟いた。
そして、そのせいで涙腺も弱まったんだろう。
次から次へと涙がこぼれていった。


しばらくして、先ほどの担当医が出てきた。
経過は診なくてはいけないけど、危険な状態は切り抜けたみたいだ。
先生からの簡単な説明の後、家族だけの面会が許された。

あたしは待合室で待っていようと思ったが・・・

「・・・智子ちゃん・・・君も会ってあげてくれ。」
美樹のお父さんが声を掛けてきた。

「え・・・でもっ・・・」
さすがにそれは、と思い断ろうとしたけど・・・
「・・・智子。あたしからもお願いっ。おねーちゃんも喜ぶよ。」
美樹がやっと笑顔になって言ってくれた。
「・・・・・・ありがと・・・」

こうして、家族の承諾を得てという形で、あたしも特別に面会させてもらえた。

美加さんは、いろいろいっぱい、医療器具がつけられていた。
無理もない・・・先ほどまで、生死を彷徨ってたんだから。

見守るみんなに気づいて口を開く。

「・・・おと・・さん・・・おか・・さん・・・みき・・・」
その声を聞き、また実感が湧く。
美加さんは生きてるんだって・・・

「・・・っ・・・美加っ・・・よく・・・頑張ったわね・・・っ・・・」
美樹のお母さんは、美加さんの手をしっかりと握った。

「あた・・し・・・なんか・・・よく・・おぼえて・・なくて・・・」
「当たり前だっ・・・意識なくしてたんだから・・・ほんと・・・助かってよかったっ・・・」
美樹のお父さんも声を詰まらせる。

「おねーちゃんっ!・・・もうっ・・・心配したんだからねっ・・・」
美樹は半分怒り口調で訴えた。
それが、気持ちをすごい表していた。

「・・・ごめ・・ん・・・・・・――っ」
美加さんの視線の先に、あたしを捕らえた。
「・・・とも・・こちゃん・・・?」
一歩後ろの方で控えていたあたしは、美加さんに近づいた。
「・・・智子も、おねーちゃんが心配で、駆けつけてくれたんだよっ。」
美樹があたしの腕に絡まってきた。
「・・・そっか・・・・・・ありがと・・・ね・・・」
そう言って、笑ってくれた。

あたしは首を横に振り、無言で応えた。



「・・・あれっ・・・?・・・そういえば、リョーマ君戻ってきてない。」



――っ・・・今頃になって、いるはずの姿が見えない事に気付く。



「・・・りょう・・まも・・・きてる・・の?」

美加さんは弱々しく聞き直した。
「あ・・うん・・・のど渇いたからって、下の自販機のとこ行ったっきりだった。あたし、呼んでくるねっ。」
美樹が行こうとしたけれど、あたしはそれを止めた。



「美樹っ・・・・・・あたしが呼んでくるから・・・美樹はここにいてあげて。」



「え・・・あぁ・・・うん、わかった。」
美樹は、戸惑いながらも承諾してくれた。

ベットから離れ、この家族を眺める。
・・・笑ってる・・・みんな・・・笑ってる・・・
ほんと・・・良かった・・・



そして1階の、自販機コーナーへと向かう。
ここも人気がなく静かだ。

設けてあるベンチに、ひとりポツンと座っている姿を捕らえる。



「・・・・・・松井君。」



「―――っ・・・なん・・で?」



いるはずのないあたしに驚いている。

近づいて、ふと手に持っている紙コップが目に入る。
中身はほとんど減っていない。
買ってはみたものの、とても口にすることができなかったのか・・・飲む事を忘れていたのか・・・どっちにしろ、彼の心情が見えてくる。


「あたしも気になって来たの。」
「・・・そっか・・・」
「そんなことより・・・早く上に行って・・・」
「――っ・・・え?」
「美加さん・・・意識戻ったよ。」
「―――っ!!・・・・・・マジ・・・で?」
思わず握り締めたせいで、コップの中身がこぼれた。

「――っ・・・あぁっ・・・もう、何してんの?」
あたしはそう言いながら、ポケットからハンカチを取り出し松井君の濡れた手を拭いた。
「あ・・・ごめん・・・」
「・・・・・・下は、あたしが拭いておくから・・・・・・早く行って?」
そう言い、松井君から飲み物を取り上げた。
「・・・――っ・・・サンキュ・・・」
松井君はそう言うと、最初は歩いていたが、だんだん早足になり、そのうち・・・走って行った。



・・・さて・・・とっ。



とりあえず、こぼれた飲み物と、残っている物を片付けた。
そして、再び2階へ上がり、待合室を覗いた。

いないかと思ったけど、期待通りにいた美樹のご両親に声を掛ける。


「あのっ・・・」
「・・・あぁっ・・・ほんと今日はありがとうね。」
美樹のお母さんにもやっと笑顔が戻っていた。

「いえ・・・こちらこそ、急に来てすみませんでした・・・あたし、失礼しますね。」
「えっ?・・・もう?」
「あ・・はい。母にもあまり長居しないように言われてるんで・・・」
「・・・そういえば、ここまでどうやって来たんだい?・・・っもしかして、お母さん待って見えるのか?」
美樹のお父さんが、聞いてきた。
「いえっ・・・送るだけ送ってもらって・・・帰りはタクシーで帰るよう言われてるんで・・・」
「そうか・・・ほんとすまなかったね。」
「そんなっ・・・ほんと気にしないでください。」

「・・・智子ちゃんっ・・・」
美樹のお母さんがカバンを探りながら近づいてくる。
そして財布から1万円札を取り出した。
「これっ・・・タクシー代、受けとって。」
差し出されたお金を思わず手で押し戻した。

「困りますっ・・・あたしが勝手に来たくて来たのに・・・受け取れませんっ。」
「そう言わずにお願いっ!」
断るあたしの手を握り、お金を持たせる。

「・・・でもっ・・・」
「・・・・・・お金で済むことじゃないけど・・・ほんと今日のことは感謝してるんだ・・・せめてもの気持ちとして、これくらい受け取ってくれ・・・」
美樹のお父さんも、促してきた。

「・・・・・・」
これ以上断ることもできず・・・結局タクシー代を頂いてしまった。


そして、そのまま下へ降り、出口へと向かう。
きっとこの時間帯でも、病院だからタクシーは外で待ってるだろう。

・・・・・・
・・・・・・遠くから足音が聞こえてくる。
誰かが走っているんだろうか?
・・・・・・やがて、それは近付いてきた。



「・・・・・・――山田っ!!」



―――っ!!



辺りが静かなせいか、余計に呼び止める声が響いた。


立ち止まって振り返るあたしに・・・松井君は近付いてきた。


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