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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第93回   93

「ただいまっ・・・」
「・・・おかえり〜・・・早いわね〜。」
母の声に返事を返すでもなく、2階へと直行向かう。
そしてありったけのお小遣いを手にし、1階の台所にいる母の元へと急ぐ。

「・・・どうしたの?そんなに慌てて・・・」
母は、いつものあたしと違う様子に戸惑う感じだ。
そして、母に対して初めてするであろう、行動を取った。

「―――お願いがあるのっ・・・」
あたしはそう言いながら、頭を下げた。

「――!?・・・お願いって・・・」

「・・・・・・今から・・・県立病院に行きたいの。」
「えっ!?・・・県立って・・・」
「美樹のお姉さんが・・・危ない状態でっ・・・どうしても気になるから行きたいのっ・・・だからっ・・・タクシー代を・・・貸してほしいの・・・・・・お願いしますっ!」
そう言い、さらに頭を下げた。

「・・・・・・美樹ちゃんのお姉さん?・・・危ないって・・・」

それだけじゃ訳がわからない母に、美加さんの事情を説明した。
それを聞き終えた母は、しばらく考えていたけど・・・

「・・・着替えるの?」
「・・・え?」
どういう意味かすぐに把握できなかった。
「そのままでいいなら、すぐに出掛けるわよ。」
母はエプロンを外し、その場を離れた。
「え・・・?」
「タクシー呼んでる時間もったいないでしょ?行きは母さんが送るからっ・・・ほらっ、早く支度してっ!」

・・・―――お母さんっ・・・


こうして、県立病院まで1時間以上かかる道のりをお母さんは送ってくれた。
道中は、ほとんど無言だった。



そして、病院に到着。
車を止め、母が財布から一万円札を差し出してきた。

「・・・母さんいると、美樹ちゃんのご両親気遣いするから、先に帰るわね。帰りはタクシーで帰って来なさい。」
「・・・うん、わかった・・・ほんとありがとう・・・」
「・・・ほらっ・・・早く行きなさいっ。」
「・・・うん。」
車から降り、入口へと走る。
窓を開けた母が、言い忘れた事を付け加えた。

「ともちゃんっ・・・あんまり遅くならないようにね!」

その母の言葉に、手を振って応えた。



時間帯的に総合受付はやっておらず、夜間受付へと向かい、美加さんのいる場所を聞いた。

「山下・・・美加さん・・ですね・・・」
受付の人が、救急患者名簿らしき冊子を調べている。
そして、該当する用紙を見て、あたしを見てきた。
「・・・・・・あの・・・失礼ですけど、ご家族の方ですか?」
受付の人が、言いにくそうに聞いてきた。
「あ・・いえ。知り合いなんですけど・・・」
「そうですか・・・今2階のICUで・・・ちょっと面会は難しいんですけど・・・」
「・・・はい・・・でもっ・・・家族の方にでもいいので会いたいんですっ・・・」
ここまで来て引き帰るなんてできっこない。
「そうですか・・・でしたら、同じ2階にご家族の方の待合室があるので、そちらにお願いします。」
「わかりました。」
聞き終わると即効、2階への階段へと走る。



病院独特の臭いがする。
夕方で、しかも重症患者がいる病棟だからか、辺りが静かだ。
あたしの走る足音が妙にうるさい。



案内図の通りに向かい、「待合室」という札を見つけた。
少し息を整え、扉をノックした。

コンコン・・・
「はいっ!・・・」
すぐさま返事が返って、扉が開く。
「・・・智子ちゃん?」
「・・・こんにちは・・・」

出迎えたのは美樹のお母さんだった。
・・・すごい疲れ切っている。
いつもの、綺麗に身だしなみを整えているお母さんではなかった。
きっとこのノックの相手が、病院の先生だと思ったんだろう。

「・・・え?・・・智子?」
奥で座っていた美樹がこちらにやってきた。

「・・・あのっ・・・いきなり来てすみません・・・でもっ・・・どうしても気になって・・・長居はしないんでっ・・・すみません・・・」
思い切って来たものの、ご両親の気持ちを考えると申し訳なくなった。

「・・・ありがとう・・・こんな遠いところまでわざわざ・・・」
そう言ってくれたのは、初めて会う美樹のお父さんだった。

「・・・君が智子ちゃんか。」
あたしは会釈をした。
「・・・いつも美樹がお世話になってるみたいだな。」
「いえっ・・・そんな・・・あたしの方がいつも美樹に気遣ってもらって・・・」
焦って言い返すあたしを、ニッコリと笑ってくれた。

「聞いていた通り・・・しっかりしてるんだね・・・美加も言ってたよ・・・」
「――っ・・・・・・あの・・・」
聞くのが怖い・・・でも・・・何のために来たのか・・・っ
「・・・・・・美加さんは・・・?」

「・・・・・・」

すごく長く感じられた沈黙だった。

「・・・まだ意識は戻らない・・・今夜が・・・やま・・らしい・・・」

――――――!!
・・・そん・・な・・・

「・・・っく・・・ひっく・・・どこもっ・・・怪我してっ・・・ないのよっ・・・・・・ほんと・・・ただ・・・っ・・・寝てるみたいなのにっ・・・ひっく・・・」

美樹のお母さんは、美加さんの様子を愛おしそうに・・・そして、なんともやり切れないように・・・泣きじゃくっていた。

こんな時に、なんて声をかけたらいいの・・・?
あたしは・・・まるで無力だ・・・



待合室からでて、美樹と廊下のベンチに座る。
「・・・おねーちゃんね・・・今日に限って、風邪ひいて寝てたんだって・・・・・・だから、他の人たちは学校行ってて、誰も被害受けてないの・・・火元の原因は、誰かの煙草の消し忘れだって・・・その犯人さえ逃げてんのに、部屋で寝ていたおねーちゃんだけが・・・・・・消防隊の人が救出に行った時には、すでにおねーちゃん意識なくって・・・・・・火の気は来てなかったんだけど・・・・・・煙を吸い過ぎたらしい・・・」
美樹は、淡々とまではいかないけど、どこか人ごとのようにも聞こえる口調だ。
「・・・そんなんで?って、思ったけど・・・・・・先生の話じゃ、火事で亡くなるのは、大半が煙の吸い過ぎなんだって・・・・・・ほんと・・・おねーちゃん、ついてないね・・・」

・・・・・・美樹っ・・・
思わず美樹の手を握る。

「・・・・・・ごめんね・・・」
「・・・なんで智子が謝るの?」
「・・・・・・あたし・・・美樹に何もしてやれない・・・」
「何言ってんの!?・・・今ここに居てくれるだけで・・・それだけで・・・どんなにあたしが救われてるか・・・・・・ありがと、智子。」
「――っ・・・・・・」

立場がまるで逆だ。
なんであたしが慰められてんの?
なにやってんの、あたし!?

だいたいっ・・・なんでっ・・・?
なんで美加さんがっ・・・美樹がっ・・・美樹の家族がっ・・・!

結局、あたしは美樹の家族を苦しめただけじゃんっ・・・
あの頃も・・・今もっ・・・
こんなことだったらっ・・・・・・戻りたくなかった―――
やり直したくなかった―――
本来の・・・あたしでよかった―――
元に・・・・・・こんなはずじゃなかった元にっ・・・戻してよっ・・・!

・・・神様っ・・・いるならきいてよっ・・・あたしの願いっ・・・きいてよっっ―――
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