「ただいまっ・・・」 「・・・おかえり〜・・・早いわね〜。」 母の声に返事を返すでもなく、2階へと直行向かう。 そしてありったけのお小遣いを手にし、1階の台所にいる母の元へと急ぐ。
「・・・どうしたの?そんなに慌てて・・・」 母は、いつものあたしと違う様子に戸惑う感じだ。 そして、母に対して初めてするであろう、行動を取った。
「―――お願いがあるのっ・・・」 あたしはそう言いながら、頭を下げた。
「――!?・・・お願いって・・・」
「・・・・・・今から・・・県立病院に行きたいの。」 「えっ!?・・・県立って・・・」 「美樹のお姉さんが・・・危ない状態でっ・・・どうしても気になるから行きたいのっ・・・だからっ・・・タクシー代を・・・貸してほしいの・・・・・・お願いしますっ!」 そう言い、さらに頭を下げた。
「・・・・・・美樹ちゃんのお姉さん?・・・危ないって・・・」
それだけじゃ訳がわからない母に、美加さんの事情を説明した。 それを聞き終えた母は、しばらく考えていたけど・・・
「・・・着替えるの?」 「・・・え?」 どういう意味かすぐに把握できなかった。 「そのままでいいなら、すぐに出掛けるわよ。」 母はエプロンを外し、その場を離れた。 「え・・・?」 「タクシー呼んでる時間もったいないでしょ?行きは母さんが送るからっ・・・ほらっ、早く支度してっ!」
・・・―――お母さんっ・・・
こうして、県立病院まで1時間以上かかる道のりをお母さんは送ってくれた。 道中は、ほとんど無言だった。
そして、病院に到着。 車を止め、母が財布から一万円札を差し出してきた。
「・・・母さんいると、美樹ちゃんのご両親気遣いするから、先に帰るわね。帰りはタクシーで帰って来なさい。」 「・・・うん、わかった・・・ほんとありがとう・・・」 「・・・ほらっ・・・早く行きなさいっ。」 「・・・うん。」 車から降り、入口へと走る。 窓を開けた母が、言い忘れた事を付け加えた。
「ともちゃんっ・・・あんまり遅くならないようにね!」
その母の言葉に、手を振って応えた。
時間帯的に総合受付はやっておらず、夜間受付へと向かい、美加さんのいる場所を聞いた。
「山下・・・美加さん・・ですね・・・」 受付の人が、救急患者名簿らしき冊子を調べている。 そして、該当する用紙を見て、あたしを見てきた。 「・・・・・・あの・・・失礼ですけど、ご家族の方ですか?」 受付の人が、言いにくそうに聞いてきた。 「あ・・いえ。知り合いなんですけど・・・」 「そうですか・・・今2階のICUで・・・ちょっと面会は難しいんですけど・・・」 「・・・はい・・・でもっ・・・家族の方にでもいいので会いたいんですっ・・・」 ここまで来て引き帰るなんてできっこない。 「そうですか・・・でしたら、同じ2階にご家族の方の待合室があるので、そちらにお願いします。」 「わかりました。」 聞き終わると即効、2階への階段へと走る。
病院独特の臭いがする。 夕方で、しかも重症患者がいる病棟だからか、辺りが静かだ。 あたしの走る足音が妙にうるさい。
案内図の通りに向かい、「待合室」という札を見つけた。 少し息を整え、扉をノックした。
コンコン・・・ 「はいっ!・・・」 すぐさま返事が返って、扉が開く。 「・・・智子ちゃん?」 「・・・こんにちは・・・」
出迎えたのは美樹のお母さんだった。 ・・・すごい疲れ切っている。 いつもの、綺麗に身だしなみを整えているお母さんではなかった。 きっとこのノックの相手が、病院の先生だと思ったんだろう。
「・・・え?・・・智子?」 奥で座っていた美樹がこちらにやってきた。
「・・・あのっ・・・いきなり来てすみません・・・でもっ・・・どうしても気になって・・・長居はしないんでっ・・・すみません・・・」 思い切って来たものの、ご両親の気持ちを考えると申し訳なくなった。
「・・・ありがとう・・・こんな遠いところまでわざわざ・・・」 そう言ってくれたのは、初めて会う美樹のお父さんだった。
「・・・君が智子ちゃんか。」 あたしは会釈をした。 「・・・いつも美樹がお世話になってるみたいだな。」 「いえっ・・・そんな・・・あたしの方がいつも美樹に気遣ってもらって・・・」 焦って言い返すあたしを、ニッコリと笑ってくれた。
「聞いていた通り・・・しっかりしてるんだね・・・美加も言ってたよ・・・」 「――っ・・・・・・あの・・・」 聞くのが怖い・・・でも・・・何のために来たのか・・・っ 「・・・・・・美加さんは・・・?」
「・・・・・・」
すごく長く感じられた沈黙だった。
「・・・まだ意識は戻らない・・・今夜が・・・やま・・らしい・・・」
――――――!! ・・・そん・・な・・・
「・・・っく・・・ひっく・・・どこもっ・・・怪我してっ・・・ないのよっ・・・・・・ほんと・・・ただ・・・っ・・・寝てるみたいなのにっ・・・ひっく・・・」
美樹のお母さんは、美加さんの様子を愛おしそうに・・・そして、なんともやり切れないように・・・泣きじゃくっていた。
こんな時に、なんて声をかけたらいいの・・・? あたしは・・・まるで無力だ・・・
待合室からでて、美樹と廊下のベンチに座る。 「・・・おねーちゃんね・・・今日に限って、風邪ひいて寝てたんだって・・・・・・だから、他の人たちは学校行ってて、誰も被害受けてないの・・・火元の原因は、誰かの煙草の消し忘れだって・・・その犯人さえ逃げてんのに、部屋で寝ていたおねーちゃんだけが・・・・・・消防隊の人が救出に行った時には、すでにおねーちゃん意識なくって・・・・・・火の気は来てなかったんだけど・・・・・・煙を吸い過ぎたらしい・・・」 美樹は、淡々とまではいかないけど、どこか人ごとのようにも聞こえる口調だ。 「・・・そんなんで?って、思ったけど・・・・・・先生の話じゃ、火事で亡くなるのは、大半が煙の吸い過ぎなんだって・・・・・・ほんと・・・おねーちゃん、ついてないね・・・」
・・・・・・美樹っ・・・ 思わず美樹の手を握る。
「・・・・・・ごめんね・・・」 「・・・なんで智子が謝るの?」 「・・・・・・あたし・・・美樹に何もしてやれない・・・」 「何言ってんの!?・・・今ここに居てくれるだけで・・・それだけで・・・どんなにあたしが救われてるか・・・・・・ありがと、智子。」 「――っ・・・・・・」
立場がまるで逆だ。 なんであたしが慰められてんの? なにやってんの、あたし!?
だいたいっ・・・なんでっ・・・? なんで美加さんがっ・・・美樹がっ・・・美樹の家族がっ・・・!
結局、あたしは美樹の家族を苦しめただけじゃんっ・・・ あの頃も・・・今もっ・・・ こんなことだったらっ・・・・・・戻りたくなかった――― やり直したくなかった――― 本来の・・・あたしでよかった――― 元に・・・・・・こんなはずじゃなかった元にっ・・・戻してよっ・・・!
・・・神様っ・・・いるならきいてよっ・・・あたしの願いっ・・・きいてよっっ――― ―――――――――――― ―――――――――――― ――――――――――――・・・・
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