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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第92回   92

玄関にたどり着くと、ちょうど美樹がタクシーに乗り込んだところだった。

「待って!!」
「――っ・・智子。」
ひとみときょんちゃんが走ってくるあたしに気付いた。

「なんだ、山田っ。急いでんのがわからんのか!?」
先生は、引き止めるあたしを注意した。
「はぁ、はぁ、・・・お願いですっ・・・はぁ、はぁ、・・・もう少し待ってくださいっ・・・」
またもや息が切れてしまいながら、先生を説得した。
「あのなっ・・・今の状況わかってんのか!?山下のお姉さんがっ――」
「わかってますっ!・・・わかってるから言ってるんですっ!!」
「・・・・・・」
先生はあたしに圧倒されてか、黙ってしまった。

タクシーの中で、怯えている美樹を覗き込む。
「美樹・・・今、松井君来るから・・・一緒に病院行くから・・・」
「・・・・・・」
美樹は、かろうじてこっちを見ることができた。

「・・・なんだと?・・・松井が・・・?おいっ、山田なに言ってんだ?」
先生があたしの言った事を聞き流さなかった。

「・・・先生・・・お願いですっ!!」
そう言うと同時に頭を下げた。
「「―――っ!!」」

あたしの行動に先生も、きょんちゃんとひとみも驚いた。

「松井君も・・・行かせてあげてくださいっ・・・お願いしますっ!」
「・・・しかし・・なぁ・・・」
「松井君にとっても・・・美樹のお姉さんは・・・大事な人なんですっ・・・小さい頃からずっと一緒にいた・・・家族みたいなもんなんですっ・・・だからっ・・・お願いしますっ・・・」
「・・・・・・」



「・・・俺からも、お願いします。」



―――っ!!



制服姿に着替えた松井君だ。
手ぶらだったけど、そのままで行くつもりだろう。

「松井・・・」
先生が困惑している。
家族ならともかく、親戚でもない生徒を一緒に行かせることは、教師という立場上許されることではないだろう・・・しかし、先生も情がないわけではない。

・・・迷ってるのがわかる。

それがわかると、あたしはもう一押しと思い、また口を開いた。
「先生っ・・・今の美樹の心境で、たった一人で行くよりも・・・松井君が一緒にいてくれた方が心強いはずです!病院まで距離もあるし・・・っ」

「・・・・・・わかった・・・」
先生はそう言うと、松井君に目をやった。

「松井・・・山下の事頼んだぞ・・・それから、親御さんには先生からも連絡するが、おまえからも、時間ができたらでいいからするんだぞ。いいな?」
「・・・はい。」

そして、タクシーに松井君も乗り込んで、学校を後にした。



昼からの授業なんて、まるで身にならなかった。

今頃病院に着いただろうか?
美加さんの容体は?
―――無事でいてっ・・・ただただ、それだけを願っていた―――



放課後になり、帰り支度を素早く済ます。
ひとみときょんちゃんがやってきた。
この二人も気が気じゃないだろう・・・

「・・・美加さん・・・大丈夫かな・・・」
きょんちゃんが呟く。
「・・・無事だと・・・いいね・・・」
ひとみも後に続く。

「・・・あたしらは・・・無事を祈ることしか・・・できないね。」
そう言って、荷物を持ち席を離れた。
帰るんだとわかって、きょんちゃんが追いかけてきた。

「・・・智子っ。」
無言で振り返る。

「・・・・・・こんな時に・・・聞くの変かもだけど・・・・・・智子は、大丈夫?」



−――!!



きょんちゃん・・・あたしの事、気づかってくれてるんだ・・・



「・・・ありがと。」
静かに、少し微笑んで、答えた。

「・・・あたしは、もちろん大丈夫だよ。」

無理をしてとかではなく・・・ほんとうにそう思えたんだ。
そして、きょんちゃんに対しても、ほんとうにありがたいと思った。
やっぱりきょんちゃんとは、親友でいたい。
何度やり直しても、この先もずっと・・・そう認識した。


教室から出て廊下を歩いていたら、またもや呼び止められた。
今度は・・・ここ最近では、久しぶりの相手だった。

「・・・ちょっといいか?・・・俺も部活あるから、あんま時間ないんだけど・・・」
ケンちゃんはそう言うと、荷物を持って、人通りの少ない場所へと向かった。

黙ってあたしは、その後をついて行った。



「・・・こんなこと・・・俺が口出すのもどうかと思うんだけど・・・」
ケンちゃんは、遠慮がちに話し始めた。
「・・・なんで、リョーマを行かせたんだ?」
「・・・・・・」

きっと、きょんちゃん繋がりで、田口君から聞いたんだろう。

「・・・そりゃあ・・・山下んちと幼馴染っては聞いてたけど・・・」
「・・・・・・」
「・・・リョーマと・・・山下のねーちゃんって・・・ただの幼馴染じゃないのか?」
「・・・・・・」
「・・・おまえ・・・なにか知ってたのか?」
「・・・・・・」
「・・・なぁっ・・・山田っ――」
「行かなくちゃいけないからだよっ・・・」
「・・・はぁ!?・・・だからっ、なんでリョーマがっ――」
「松井君なのっ・・・松井君じゃなきゃだめなのっ・・・」
「・・・山田・・・」
「・・・言ったじゃん・・・あたし・・・前に言ったじゃん・・・」
「・・・なにをだよ?」
「・・・あたしと・・・松井君が・・・どうかなるなんてこと・・・やっぱりなかったんだよ。」
「おまえっ・・・いつの話だよそれっ――」
「最初からっ――・・・わかってたことなの・・・」
「・・・・・・じゃあ・・・わかってて・・・それでもおまえは・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

しばしの沈黙の後、ケンちゃんは何かを決意したかのように顔を上げた。
「・・・――っ今、言うべきじゃないって、わかってる・・・」
「・・・・・・」
「・・・でもっ・・・いつも山田に違和感、感じてた・・・なんか、心ここにあらずっていうか・・・いつも何かを考えてるっていうか・・・・・・その理由がわかって・・・っやっぱり無理だ、ほっとけないっ!・・・・・・山田・・・俺はっ――」
「あたしさっ――・・・」

遮った・・・ケンちゃんの言いたい事をわざと遮った。
この先は・・・やっぱり聞いちゃいけない気がした。

「・・・あたし・・・ケンちゃんの事・・・好きだよ。」
「――っ・・・」
「・・・でも・・・それは、友達としてのlikeってやつで・・・」
「・・・・・・」
「あたし・・・ケンちゃんとこんな仲良くなれるとは思ってもみなかった・・・いっつも調子良くて、馬鹿なことばっか言って、おちゃらけて・・・そして、すごい友達思いで・・・・・・ケンちゃんとは・・・ずっとこれからも・・・友達でいたい・・・卒業しても・・・大人になっても・・・10年後も20年後も、ずっと・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・ちょっと・・・なんか言ってよ。」
「・・・・・・」
「・・・冗談じゃねーよとか、誰がおまえなんかとか・・・いつものように・・・言ってよ・・・」
「・・・・・・」

ケンちゃんは下に置いていた荷物を持とうと、俯いた。
そしてしばらくして、顔をあげた・・・・・・いつもの表情になって―――



「・・・しょうーがねーな〜・・・おまえがそこまで言うんだったら・・・なってあげてもいいぞ・・・・・・ずっと友達に。」



「――っ・・・えらそうにっ・・・」

笑うつもりが、すこし引きつってしまう・・・
だめっ・・・せっかくケンちゃんが・・・っ


「・・・まぁ・・・どうしてもさみしくなったら・・・いつでも俺の胸かしてやるからさっ・・・あっ、もちろんタダではねーぞ!」

「・・・っ・・・ご心配なくっ!」

誤魔化すかのように、強気で言い返す。

「クスクス・・・んじゃな・・・俺行くわ・・・」
「・・・・・・うん。」


ケンちゃんの後ろ姿を見送った。

その背に何度も何度も・・・ありがとうって、心の中で呟いた―――


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