玄関にたどり着くと、ちょうど美樹がタクシーに乗り込んだところだった。
「待って!!」 「――っ・・智子。」 ひとみときょんちゃんが走ってくるあたしに気付いた。
「なんだ、山田っ。急いでんのがわからんのか!?」 先生は、引き止めるあたしを注意した。 「はぁ、はぁ、・・・お願いですっ・・・はぁ、はぁ、・・・もう少し待ってくださいっ・・・」 またもや息が切れてしまいながら、先生を説得した。 「あのなっ・・・今の状況わかってんのか!?山下のお姉さんがっ――」 「わかってますっ!・・・わかってるから言ってるんですっ!!」 「・・・・・・」 先生はあたしに圧倒されてか、黙ってしまった。
タクシーの中で、怯えている美樹を覗き込む。 「美樹・・・今、松井君来るから・・・一緒に病院行くから・・・」 「・・・・・・」 美樹は、かろうじてこっちを見ることができた。
「・・・なんだと?・・・松井が・・・?おいっ、山田なに言ってんだ?」 先生があたしの言った事を聞き流さなかった。
「・・・先生・・・お願いですっ!!」 そう言うと同時に頭を下げた。 「「―――っ!!」」
あたしの行動に先生も、きょんちゃんとひとみも驚いた。
「松井君も・・・行かせてあげてくださいっ・・・お願いしますっ!」 「・・・しかし・・なぁ・・・」 「松井君にとっても・・・美樹のお姉さんは・・・大事な人なんですっ・・・小さい頃からずっと一緒にいた・・・家族みたいなもんなんですっ・・・だからっ・・・お願いしますっ・・・」 「・・・・・・」
「・・・俺からも、お願いします。」
―――っ!!
制服姿に着替えた松井君だ。 手ぶらだったけど、そのままで行くつもりだろう。
「松井・・・」 先生が困惑している。 家族ならともかく、親戚でもない生徒を一緒に行かせることは、教師という立場上許されることではないだろう・・・しかし、先生も情がないわけではない。
・・・迷ってるのがわかる。
それがわかると、あたしはもう一押しと思い、また口を開いた。 「先生っ・・・今の美樹の心境で、たった一人で行くよりも・・・松井君が一緒にいてくれた方が心強いはずです!病院まで距離もあるし・・・っ」
「・・・・・・わかった・・・」 先生はそう言うと、松井君に目をやった。
「松井・・・山下の事頼んだぞ・・・それから、親御さんには先生からも連絡するが、おまえからも、時間ができたらでいいからするんだぞ。いいな?」 「・・・はい。」
そして、タクシーに松井君も乗り込んで、学校を後にした。
昼からの授業なんて、まるで身にならなかった。
今頃病院に着いただろうか? 美加さんの容体は? ―――無事でいてっ・・・ただただ、それだけを願っていた―――
放課後になり、帰り支度を素早く済ます。 ひとみときょんちゃんがやってきた。 この二人も気が気じゃないだろう・・・
「・・・美加さん・・・大丈夫かな・・・」 きょんちゃんが呟く。 「・・・無事だと・・・いいね・・・」 ひとみも後に続く。
「・・・あたしらは・・・無事を祈ることしか・・・できないね。」 そう言って、荷物を持ち席を離れた。 帰るんだとわかって、きょんちゃんが追いかけてきた。
「・・・智子っ。」 無言で振り返る。
「・・・・・・こんな時に・・・聞くの変かもだけど・・・・・・智子は、大丈夫?」
−――!!
きょんちゃん・・・あたしの事、気づかってくれてるんだ・・・
「・・・ありがと。」 静かに、少し微笑んで、答えた。
「・・・あたしは、もちろん大丈夫だよ。」
無理をしてとかではなく・・・ほんとうにそう思えたんだ。 そして、きょんちゃんに対しても、ほんとうにありがたいと思った。 やっぱりきょんちゃんとは、親友でいたい。 何度やり直しても、この先もずっと・・・そう認識した。
教室から出て廊下を歩いていたら、またもや呼び止められた。 今度は・・・ここ最近では、久しぶりの相手だった。
「・・・ちょっといいか?・・・俺も部活あるから、あんま時間ないんだけど・・・」 ケンちゃんはそう言うと、荷物を持って、人通りの少ない場所へと向かった。
黙ってあたしは、その後をついて行った。
「・・・こんなこと・・・俺が口出すのもどうかと思うんだけど・・・」 ケンちゃんは、遠慮がちに話し始めた。 「・・・なんで、リョーマを行かせたんだ?」 「・・・・・・」
きっと、きょんちゃん繋がりで、田口君から聞いたんだろう。
「・・・そりゃあ・・・山下んちと幼馴染っては聞いてたけど・・・」 「・・・・・・」 「・・・リョーマと・・・山下のねーちゃんって・・・ただの幼馴染じゃないのか?」 「・・・・・・」 「・・・おまえ・・・なにか知ってたのか?」 「・・・・・・」 「・・・なぁっ・・・山田っ――」 「行かなくちゃいけないからだよっ・・・」 「・・・はぁ!?・・・だからっ、なんでリョーマがっ――」 「松井君なのっ・・・松井君じゃなきゃだめなのっ・・・」 「・・・山田・・・」 「・・・言ったじゃん・・・あたし・・・前に言ったじゃん・・・」 「・・・なにをだよ?」 「・・・あたしと・・・松井君が・・・どうかなるなんてこと・・・やっぱりなかったんだよ。」 「おまえっ・・・いつの話だよそれっ――」 「最初からっ――・・・わかってたことなの・・・」 「・・・・・・じゃあ・・・わかってて・・・それでもおまえは・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」
しばしの沈黙の後、ケンちゃんは何かを決意したかのように顔を上げた。 「・・・――っ今、言うべきじゃないって、わかってる・・・」 「・・・・・・」 「・・・でもっ・・・いつも山田に違和感、感じてた・・・なんか、心ここにあらずっていうか・・・いつも何かを考えてるっていうか・・・・・・その理由がわかって・・・っやっぱり無理だ、ほっとけないっ!・・・・・・山田・・・俺はっ――」 「あたしさっ――・・・」
遮った・・・ケンちゃんの言いたい事をわざと遮った。 この先は・・・やっぱり聞いちゃいけない気がした。
「・・・あたし・・・ケンちゃんの事・・・好きだよ。」 「――っ・・・」 「・・・でも・・・それは、友達としてのlikeってやつで・・・」 「・・・・・・」 「あたし・・・ケンちゃんとこんな仲良くなれるとは思ってもみなかった・・・いっつも調子良くて、馬鹿なことばっか言って、おちゃらけて・・・そして、すごい友達思いで・・・・・・ケンちゃんとは・・・ずっとこれからも・・・友達でいたい・・・卒業しても・・・大人になっても・・・10年後も20年後も、ずっと・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・ちょっと・・・なんか言ってよ。」 「・・・・・・」 「・・・冗談じゃねーよとか、誰がおまえなんかとか・・・いつものように・・・言ってよ・・・」 「・・・・・・」
ケンちゃんは下に置いていた荷物を持とうと、俯いた。 そしてしばらくして、顔をあげた・・・・・・いつもの表情になって―――
「・・・しょうーがねーな〜・・・おまえがそこまで言うんだったら・・・なってあげてもいいぞ・・・・・・ずっと友達に。」
「――っ・・・えらそうにっ・・・」
笑うつもりが、すこし引きつってしまう・・・ だめっ・・・せっかくケンちゃんが・・・っ
「・・・まぁ・・・どうしてもさみしくなったら・・・いつでも俺の胸かしてやるからさっ・・・あっ、もちろんタダではねーぞ!」
「・・・っ・・・ご心配なくっ!」
誤魔化すかのように、強気で言い返す。
「クスクス・・・んじゃな・・・俺行くわ・・・」 「・・・・・・うん。」
ケンちゃんの後ろ姿を見送った。
その背に何度も何度も・・・ありがとうって、心の中で呟いた―――
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