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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第91回   91
一大イベントが終わり、たいていの3年生は気が抜けていた。
でも、サッカー部の人たちはそんな場合ではなかった。

試合を翌週に控え、さらに練習がハードになっていた。

そのせいもあって、松井君とはまともに会えない日々が続いてた。
というか、修学旅行の1日目以来、会話をしていない。

そして・・・松井君とケンちゃんも、なんとなくぎこちない感じになっていることが、周りから見てもわかるようになっていた。
特に言い争いをしたわけでもないのに、そう感じてしまうほど二人の間に距離があった。
それに対して田口君は、「あいつらだけに限らず、サッカー部のみんなピリピリしてんだよ・・・試合近いしな・・・」って言ってた。

とりあえず、試合が終わるまでは下手に近づかない方がいい・・・そういう思いもあって、松井君との距離をとっていた。

なんか・・・あたしらって・・・一難去ってまた一難・・・って感じだ。



そんなある日の昼休み――
・・・衝撃的な出来事はいきなりやってきた――



「山下っ、いるか!?」
美樹のクラスで、いつものようにきょんちゃん、ひとみと雑談していたら、美樹の担任の先生がすごい勢いで教室に入ってきた。
「・・・はい・・・」
美樹は、自分が何かやらかしてしまっただろうか・・・ぐらいに思ってたかも。

先生は返事をした美樹の姿をとらえると、こちらに向かってきた。
そして先生自身が落ち着くように、ゆっくりと話しだした。

「・・・すぐに、県立病院に行くんだ。」
「・・・え?」
「お姉さんの暮らしている寮が、火事に遭ったそうだ・・・」

―――っ・・・火事・・・?

「お姉さん逃げ遅れたみたいで・・・・・・危篤状態らしい・・・」



―――っ・・・き・・とく・・・って・・・っ



「とにかく急いで準備しろっ、ご両親はすでに病院にいってるから、山下はタクシーで来いとの事だ。今呼んでるから・・・・・・山下?」
「・・・・・・」
「・・・おいっ、山下っ・・・」
「・・・・・・なん・・で・・・」
やっと口を開いたが、正気でないのは確かだ。
「・・・危篤って・・・なにそれ・・・」
みるみるうちに、美樹の体は震えだして、立っていられなくなった。

「――美樹っ!・・・」
あたしはとっさに倒れそうな美樹の体を支えた。
「・・・うそだ・・・うそ・・・」

誰だって、こんなことをすぐに受け止めることなんてできるわけがない・・・

「とにかく、今は病院に行くことだけを考えろ!・・・おいっ、おまえたちで山下の帰り支度してやってくれ。じきタクシー来るだろうから、玄関まで付き添ってやってくれ。」
先生はあたしたちに頼んだ。
きょんちゃんもひとみも動揺しながらでも、とりあえず頷き美樹のカバンを手に取った。

「頼んだぞ、先生下でタクシーを待ってるから・・・山下っ・・・しっかりしろよ!」
先生もふさわしい言葉が見つからなかったんだろう。
‘‘しっかり‘‘なんて・・・今の美樹に無理に決まってる。

「・・・とりあえず・・・ここ座って・・・」
美樹を席へと座らせた。
支えてる手からは、美樹の震えがまだ伝わってくる。


・・・危篤?
・・・・・・美加さんが?

グルグルと頭の中がこんがらかって、すごい目眩がした。

これって・・・こんなことって・・・っ


「・・・――ごめん・・・美樹の事頼むね。」
「・・・えっ・・・智子っ!?」

きょんちゃんが呼び止めるのも聞かず、あたしは教室から出て行った。


前から感じてた。
なにか変だって・・・
いけない気がするって・・・
今、あたしがここにいることがっ・・・過去を変えてるって・・・っ

本来ありえないことが今までたくさんあった。
発端はあたしが以前と違う行動をとったことからだ。
そしてそれは、あたしにとってプラスになるようなことばかり・・・

親友とうまくいって、新たな友達もでき、出会いもあり、恋もして・・・
断然あの頃より、充実過ぎるくらいの日々を送っていた。

幸せすぎる・・・なんて思ったほど・・・

でも・・・・・・プラスがあればマイナスもある。

それは、引き起こしたあたし自身にじゃなく、周り周りへと起きている。

田口君ときょんちゃんの事故。
親友であるはずの、松井君とケンちゃんの気まずい関係。
そして・・・美加さんの今・・・

特に最後のなんて、絶対にありえないことだった。
だって・・・・・・美加さんは寮にいないはずだった。
美樹のいじめの問題が、解決することなく転校して・・・そして、美加さんとの同居が待っていたはず・・・
だから、火事が起きたとしても、寮にいなければなんの問題もなかったのに・・・っ
美樹だって・・・転校してからの楽しい生活があったかもっ・・・こんな目に遭うより、よっぽどマシだったかもっ・・・

・・・あたしだ・・・・・・あたしが引き起こしてしまった・・・
人の命まで・・・・・・美加さんの人生をっ・・・あたしが変えてしまったんだ・・・

走って走りまくって、校舎を後にする。
途中、泣きそうになり視界がぼやけてきた。
すぐに、涙を拭い気をしっかりと持つ。

まだだめだっ・・・気弱になってる場合じゃないっ・・・

そして、あたしはグラウンドへと到着した。


・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・
息を整え、辺りを見渡す。

・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・どこ?

グラウンドでは、サッカー部が昼練をしていた。
コートには、似たような恰好の部員がたくさんいて、目当ての人が探せない。

いつもなら、不思議なくらい早く見つけれるのに・・・こんな時に限って・・・っ

「・・・山田?・・・どうした?」

まだ本練習に参加していない田口君が、あたしに気づいて近づいてきた。
―――!
すぐさま、田口君の腕を掴んで訴えた。

「・・・はぁ、はぁ・・・松井君っ・・・呼んでっ!」
「え・・・あぁ・・・わかった・・・」

普通ではないあたしの様子に戸惑いながらも、田口君はコ−トに向かって叫んだ。

「リョーマっ!・・・リョーマっ!!」

その声に、本人と何人かの部員がこちらに気付いた。
手招きする田口君と、隣にいるあたしに気付くと、一瞬動きが止まったかのように見えたが、汗を拭いながら、こちらに走ってきた。


「・・・なに?」
松井君は田口君に向かって問いかけた。
「え・・・いや・・・山田が呼べって・・・」
田口君はそう言いながら、あたしに目をやった。


あたしは・・・再度息を整え、気を引き締めた。



「すぐに・・・美樹と一緒に県立病院に行って・・・」



「・・・はぁ!?・・・・・・病院・・・?」
松井君は意外な場所を言われ、ピンときていない。



「・・・美加さん・・・・・・危篤なんだって。」



「・・・・・・え?」



「寮が火事に遭って・・・・・・だからっ、早く病院行ってっ!・・・行かなくちゃっ!・・・」



「・・・・・・」



「・・・―――松井君っ!!」

「――っ!・・・・・・わかった・・・」

松井君はそう言うと、部室へと走って行った。

「え・・・?なに?だれ?危篤?」
田口君はこの様子をすぐに把握できず、うろたえている。
「・・・・・・詳しくは後で話すから・・・」

あたしはそう言うと、玄関の方へ走って行った。


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