一大イベントが終わり、たいていの3年生は気が抜けていた。 でも、サッカー部の人たちはそんな場合ではなかった。
試合を翌週に控え、さらに練習がハードになっていた。
そのせいもあって、松井君とはまともに会えない日々が続いてた。 というか、修学旅行の1日目以来、会話をしていない。
そして・・・松井君とケンちゃんも、なんとなくぎこちない感じになっていることが、周りから見てもわかるようになっていた。 特に言い争いをしたわけでもないのに、そう感じてしまうほど二人の間に距離があった。 それに対して田口君は、「あいつらだけに限らず、サッカー部のみんなピリピリしてんだよ・・・試合近いしな・・・」って言ってた。
とりあえず、試合が終わるまでは下手に近づかない方がいい・・・そういう思いもあって、松井君との距離をとっていた。
なんか・・・あたしらって・・・一難去ってまた一難・・・って感じだ。
そんなある日の昼休み―― ・・・衝撃的な出来事はいきなりやってきた――
「山下っ、いるか!?」 美樹のクラスで、いつものようにきょんちゃん、ひとみと雑談していたら、美樹の担任の先生がすごい勢いで教室に入ってきた。 「・・・はい・・・」 美樹は、自分が何かやらかしてしまっただろうか・・・ぐらいに思ってたかも。
先生は返事をした美樹の姿をとらえると、こちらに向かってきた。 そして先生自身が落ち着くように、ゆっくりと話しだした。
「・・・すぐに、県立病院に行くんだ。」 「・・・え?」 「お姉さんの暮らしている寮が、火事に遭ったそうだ・・・」
―――っ・・・火事・・・?
「お姉さん逃げ遅れたみたいで・・・・・・危篤状態らしい・・・」
―――っ・・・き・・とく・・・って・・・っ
「とにかく急いで準備しろっ、ご両親はすでに病院にいってるから、山下はタクシーで来いとの事だ。今呼んでるから・・・・・・山下?」 「・・・・・・」 「・・・おいっ、山下っ・・・」 「・・・・・・なん・・で・・・」 やっと口を開いたが、正気でないのは確かだ。 「・・・危篤って・・・なにそれ・・・」 みるみるうちに、美樹の体は震えだして、立っていられなくなった。
「――美樹っ!・・・」 あたしはとっさに倒れそうな美樹の体を支えた。 「・・・うそだ・・・うそ・・・」
誰だって、こんなことをすぐに受け止めることなんてできるわけがない・・・
「とにかく、今は病院に行くことだけを考えろ!・・・おいっ、おまえたちで山下の帰り支度してやってくれ。じきタクシー来るだろうから、玄関まで付き添ってやってくれ。」 先生はあたしたちに頼んだ。 きょんちゃんもひとみも動揺しながらでも、とりあえず頷き美樹のカバンを手に取った。
「頼んだぞ、先生下でタクシーを待ってるから・・・山下っ・・・しっかりしろよ!」 先生もふさわしい言葉が見つからなかったんだろう。 ‘‘しっかり‘‘なんて・・・今の美樹に無理に決まってる。
「・・・とりあえず・・・ここ座って・・・」 美樹を席へと座らせた。 支えてる手からは、美樹の震えがまだ伝わってくる。
・・・危篤? ・・・・・・美加さんが?
グルグルと頭の中がこんがらかって、すごい目眩がした。
これって・・・こんなことって・・・っ
「・・・――ごめん・・・美樹の事頼むね。」 「・・・えっ・・・智子っ!?」
きょんちゃんが呼び止めるのも聞かず、あたしは教室から出て行った。
前から感じてた。 なにか変だって・・・ いけない気がするって・・・ 今、あたしがここにいることがっ・・・過去を変えてるって・・・っ
本来ありえないことが今までたくさんあった。 発端はあたしが以前と違う行動をとったことからだ。 そしてそれは、あたしにとってプラスになるようなことばかり・・・
親友とうまくいって、新たな友達もでき、出会いもあり、恋もして・・・ 断然あの頃より、充実過ぎるくらいの日々を送っていた。
幸せすぎる・・・なんて思ったほど・・・
でも・・・・・・プラスがあればマイナスもある。
それは、引き起こしたあたし自身にじゃなく、周り周りへと起きている。
田口君ときょんちゃんの事故。 親友であるはずの、松井君とケンちゃんの気まずい関係。 そして・・・美加さんの今・・・
特に最後のなんて、絶対にありえないことだった。 だって・・・・・・美加さんは寮にいないはずだった。 美樹のいじめの問題が、解決することなく転校して・・・そして、美加さんとの同居が待っていたはず・・・ だから、火事が起きたとしても、寮にいなければなんの問題もなかったのに・・・っ 美樹だって・・・転校してからの楽しい生活があったかもっ・・・こんな目に遭うより、よっぽどマシだったかもっ・・・
・・・あたしだ・・・・・・あたしが引き起こしてしまった・・・ 人の命まで・・・・・・美加さんの人生をっ・・・あたしが変えてしまったんだ・・・
走って走りまくって、校舎を後にする。 途中、泣きそうになり視界がぼやけてきた。 すぐに、涙を拭い気をしっかりと持つ。
まだだめだっ・・・気弱になってる場合じゃないっ・・・
そして、あたしはグラウンドへと到着した。
・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・ 息を整え、辺りを見渡す。
・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・どこ?
グラウンドでは、サッカー部が昼練をしていた。 コートには、似たような恰好の部員がたくさんいて、目当ての人が探せない。
いつもなら、不思議なくらい早く見つけれるのに・・・こんな時に限って・・・っ
「・・・山田?・・・どうした?」
まだ本練習に参加していない田口君が、あたしに気づいて近づいてきた。 ―――! すぐさま、田口君の腕を掴んで訴えた。
「・・・はぁ、はぁ・・・松井君っ・・・呼んでっ!」 「え・・・あぁ・・・わかった・・・」
普通ではないあたしの様子に戸惑いながらも、田口君はコ−トに向かって叫んだ。
「リョーマっ!・・・リョーマっ!!」
その声に、本人と何人かの部員がこちらに気付いた。 手招きする田口君と、隣にいるあたしに気付くと、一瞬動きが止まったかのように見えたが、汗を拭いながら、こちらに走ってきた。
「・・・なに?」 松井君は田口君に向かって問いかけた。 「え・・・いや・・・山田が呼べって・・・」 田口君はそう言いながら、あたしに目をやった。
あたしは・・・再度息を整え、気を引き締めた。
「すぐに・・・美樹と一緒に県立病院に行って・・・」
「・・・はぁ!?・・・・・・病院・・・?」 松井君は意外な場所を言われ、ピンときていない。
「・・・美加さん・・・・・・危篤なんだって。」
「・・・・・・え?」
「寮が火事に遭って・・・・・・だからっ、早く病院行ってっ!・・・行かなくちゃっ!・・・」
「・・・・・・」
「・・・―――松井君っ!!」
「――っ!・・・・・・わかった・・・」
松井君はそう言うと、部室へと走って行った。
「え・・・?なに?だれ?危篤?」 田口君はこの様子をすぐに把握できず、うろたえている。 「・・・・・・詳しくは後で話すから・・・」
あたしはそう言うと、玄関の方へ走って行った。
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