中体連が始まった。 どの部も、3年にとってこれが最後になるかもしれない試合だから気合いが入る。
きょんちゃんは足がまだ完治されず、断念せざるを得なかったけど、応援は人一倍頑張っていた。
そして、あたしも今回の部活動は以前と違い、頑張った方だ。 結果はさほど変わっていないけど、終えた後の感情が明らかに違う。
なんでもそうだけど、一生懸命頑張ったのと、そうでないのでは、後の気持ちも違ってくる。 すごく、悔しかった・・・勝負に負けるということが、こんなにも悔しい事なんて・・・今になって味わった。
サッカー部は、ケンちゃんの宣言通り、見事な結果。 夏にも大会があり、それに向けて更に練習に力が入る。
そして、この時期の3年生の重大行事と言えばもう一つ・・・修学旅行だ。 行き先は、あの頃と同じ山口の萩だ。 秋吉台とか鍾乳洞を観光する。
当然ひとみと同じ班で、他のメンバーとも変わりなく同じだった。 まさか、修学旅行をもう一度味わえるなんて・・・ラッキーかも。
クラスごとにバスに乗り、この歳にとっては長旅になる旅行の始まりだ。 出発して早々、カラオケ大会が始まった。 トップバッターは、当然のようにケンちゃんだった。 夏祭りで歌っている姿を見た人は結構いたため、ケンちゃんコールが激しかった。 そして期待通りのうまさに、みんなは盛り上がっていた。
楽しい旅行の幕開けだった。
一日目の宿泊するホテルに到着する。 のんびりする暇もなく、広い会場へと集まり、班ごとに今日観光したところの感想を発表する。 大人と違って、旅行を楽しむだけでは済まないのが、修学旅行だ。 そのスケジュールも分刻みで結構ハードだし・・・行きのバスの中での元気はほとんどみんななくなっていた。
でも、それは夜になると不思議とテンションが上がってきて・・・
仲のいい男女の班は、一つの部屋に集まり、雑談やゲームが繰り広げられていた。 こんな大勢での泊まりなんて、こういう時でもない限りできないから、みんな寝てる場合ではなかったのだ。
そして、時間が経つにつれ、自然とつきあっているカップルは姿を消していく・・・
あたしも、その一人だった。
事前に待ち合わせをしており、部屋のある棟の非常階段のところへと向かう。 先生に見つからないよう、充分に配慮しながら・・・ こういう刺激的な事がまた、気分を盛り上げてるのかも・・・。
すでに松井君が先に来て、階段に座り込んでいた。 「・・・ごめん、待った?」 姿を確認して小走りに近づく。 「ううん・・・俺もさっき来たばっか。」 そう言うと立ち上がった。 「・・・向こうの棟に行ってみよっか。」 そう言い、連絡通路のある方へと歩きだす。 「・・・大丈夫・・かな?」 キョロキョロと辺りを見渡す。 「・・・わかんない。まぁ・・・見つかった時はそん時考えればいいっしょ。」 松井君らしい返事だ。 それを聞いただけで、不安が飛んでいってしまう。
そして、他の宿泊客の姿もあまり見られず、ロビーのところにやってきた。 ホテルの従業員も、今から客を接客する時間帯でもなく、フロントは少し暗めの照明が照らされてるだけだった。
あたしらだけしかいないような空間で、ふと誰かの話し声が聞こえてきた。
とっさに体に緊張が走る。 もしかして、先生たちはこっちの方にも見回り来てるのかも・・・なんて不安もよぎった。
でも、声の主たちの姿に、違う意味で緊張が走った。 あたしたちは、その人たちに気付かれないよう、大きな柱に身を潜めた。
そこには、ケンちゃんと同じクラスの女の子の二人っきりの姿があった。 その子は、わりとケンちゃんと仲のいい子だ。
もしやこれは・・・。 修学旅行といえば・・・いや、なにか行事があるとなると、自然と行われることがある。
告白だ。
「・・・気持ちはありがたいんだけど・・・」 ケンちゃんは、いつものお茶らけた様子ではなく真剣な表情だ。
この様子は、女の子が気持ちを伝えた後とみえる。
「・・・あの子と・・・上手くいってんの?」 わかりきった答えだったからか、彼女である真美ちゃんの事を聞いたんだろう。
それにしても、彼女がいるってわかっていても告白するなんて・・・ そこまで気を大きくしてしまうのが修学旅行か。
「・・・うん・・・まぁ・・・」 ケンちゃんは少し間を置いてから答えた。
「・・・・・・嘘ばっかり。」
――!! ・・・え?
意外な反応に思わず聞き入ってしまった。
「・・・うまくいってたら・・・あたしケンちゃんに気持ち伝えなかったよ・・・」
・・・何を言ってるの? うまく・・・いってないの?
「・・・・・・」
なんで・・・ケンちゃん黙ってんの?
「・・・ケンちゃん・・・あの子の事・・・ほんとうに好きなの?」
―――!!
それはあたしが問い詰めた事だ。 あの時は、好きじゃないって言ってた。 でも、そうするようにって・・・そうなるようにって・・・ 好きな人を諦めるためにって・・・
「・・・何言ってんの?」 笑って誤魔化そうとしたのか、それはすぐに遮られた。 「好きじゃないんでしょ!?無理してっ・・・つきあってるんじゃない?」 「・・・・・・」 「・・・ほんとうはっ・・・好きな人・・・他に・・いるんじゃない?」
最後の方は、だんだんと小さくなっていた。 本心を聞きたい、でもその本心を聞くのも怖い・・・そんな気持ちだろう。
この女の子は・・・ケンちゃんの好きな人をわかっているんだ。 好きな人の事は当然よく見てしまう。 だから、好きな人の好きな人も・・・自然とわかってしまうんだ・・・
「あのさっ・・・さっきから、何言ってんだよ。」 ケンちゃんは対面していた体勢から離れた。 それが返って、答えになってるとも気付かずに・・・
「あたしっ・・・わかるもんっ・・・見てて・・・わかっちゃうもん・・・」 「・・・・・・」
「・・・・・・山田さん・・でしょ?」
・・・―――!! えっ?・・・今・・・あたしの名前・・・
―――っ・・・
とっさに立ち止まっていた体が、松井君が腕を引っ張ることで動き出した。
・・・へっ・・・? え・・・?
思わず声が出そうになったのを押さえて、あたしは素直に松井君に引っ張られたままだった。
そして、あの二人から離れたところで動いていた足が止まる。
・・・・・・ ・・・・・・
松井君は黙ったままだ。
「・・・なんか・・・・・・あの子・・・勘違いしてたね・・・」
そうだ・・・ケンちゃんの好きな人があたしだって思い込んでいる。 違うのに・・・ケンちゃんの好きな人は、美樹なのに・・・
「・・・・・・」
「・・・っていうかさ・・・ケンちゃん・・・真美ちゃんとうまくいってないの?」
「・・・・・・」
「・・・やっぱり・・・諦めきれない・・のかな?」
「・・・・・・」
ふと、掴まれていた松井君の手が腕から離された。 そして、あたしの方を振り返って・・・ため息をゆっくりついた・・・
「・・・・・・勘違いしてんのは・・・あんただよ。」
・・・・・・え?
「・・・たぶん・・・美樹だと思ってたでしょ・・・ケンの好きな奴・・・」
・・・・・・え?
「・・・その様子だとそうみたいだね・・・・・・俺もはっきり本人から聞いたわけじゃないから、わかんないけど・・・でも・・・あの子の言ってることは間違いないと思う。」
松井君は・・・何を淡々と・・・言ってるの?
「・・・ケンは・・・たぶん、あんたのこと・・・好きなんだよ。」
あたしは・・・下を向いて話している松井君を・・・ただ見ているだけだった。
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