20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:あの頃へ 作者:こまち

第86回   86
次の日―――
連休も終わり、いつもの学校生活が戻る。

真っ先の話題になったのは、当たり前のように、きょんちゃんと田口君の事故の話だった。
二人の体の心配はもちろんだけど、それよりも田口君が試合に出られないことの方が話題になっていた。
そしてそれは、きょんちゃんを益々苦しめることだった。

ここぞとばかりに、田口君のファンが事を大きくする。
本来なら事故に遭っていなかっただろうに・・・怪我をしなかっただろうに・・・
まるで事故そのものをきょんちゃんが起こしたかのように・・・

当然そんなことはない。
ちゃんと状況を聞いたところ、歩道を歩いていた二人のところへ原チャリが突っ込んできたらしい。
車道側にいたきょんちゃんを、とっさに田口君がかばった為、怪我がきょんちゃんよりひどかったみたい。
でも、相手がまだ原チャリで良かった。
骨折で済んで良かった。

本当に心からそう思えた。


昼休みになって、冷たい視線からきょんちゃんを守るため、4組へと集まる。
そこにはあたしら女友達はもちろん、ギブスをはめ、松葉杖状態の田口君とケンちゃんもやってきた。
松井君も自分のクラスだったから、自然と寄ってくる。

きょんちゃんにまだ笑顔はみられない。
そして、田口君の事もまともに見れなくなってる。

「・・・きょんちゃん・・・周りの言う事なんて気にしちゃ駄目だよ!」
美樹がきょんちゃんの手を握って励ます。
「・・・・・・」
今のきょんちゃんは何を言われても、すぐに切り替えはできないみたいだ。
相当、自分を責めまくってる。
確かに、自分も同じ立場ならそうなってしまうのがわかるから、余計に何も言えない。

「・・・京子・・・」
田口君が松葉杖を机に立てかけ、隣の席に腰を下ろす。
「・・・言っとくけど、俺は今回の事後悔してないからな!」
「―――!・・・」
少しきょんちゃんの表情が変わる。

「・・・もし・・・おまえをかばうことできてなかったら・・・そっちの方が、断然後悔するし!」
田口君は、少し顔が赤くなっていたが、それを周りのみんなは決して茶化さなかった。
「・・・・・・」
きょんちゃんは一層、顔が俯いてしまう。

「よく言った、田口!おまえのこと男と認めよう!」
ケンちゃんが田口君の肩に手を回した。
「・・・中田。おまえはな〜んも気にすることねーぞ!だいいち、今度の試合だって、こいつがいなくとも勝てるに決まってんじゃん!なっ、リョーマ!」
窓辺に立っている松井君にケンちゃんは声をかけた。
「・・・負けるわけないじゃん。」
相変わらず強気な発言。

「だからっ、今度の試合が最後になるわけねーし、こいつが完治するまでは、まだまだ中学のサッカーは終われねーの!ま、田口はしばしの休憩だな。地獄の練習しなくて済むんだから羨ましー限りだよ!」
「クスクス・・・ケンちゃんが言うと、本音に聞こえるよ。」
美樹が間に入る。
「何言ってんだよ。本音しか言ってねーっつーの!」
「「あはははは」」
みんなにも笑顔が戻る。


「・・・・・・あり・・がと・・・」

―――!

小さい・・・すごく小さい声だったけど、きょんちゃんが初めて前向きな態度を示してくれた。

「・・・お・・おーよ!・・・ったく、そんな暗い顔ばっかしてっと、せっかくのかわいい顔が台無しだぞ!なぁ!」
ケンちゃんはそう言いながら、田口君の肩に手を回しているのを更に強めた。

「――//お・・おー・・//」

田口君の反応に、今度はみんなが一斉に笑った。
「なんだよ、おまえ〜。相変わらずの恥ずかしがり屋だな〜。」
「「あはははは〜」」
ケンちゃんは拳で田口君の頭をグリグリと押し付けている。
「ばっ//・・・やめろよっ・・・」
そう言って、さらに赤くなる田口君にみんな更に笑う。


あたしも笑みがこぼれた。

こういう時、ケンちゃんの明るさが助けてくれる。
そして、それにみんなも笑顔になる。

・・・よかった・・・みんなが友達で、仲間で・・・


きょんちゃんも、すぐにとはいかなかったけど、だんだんと笑顔が見られるようになった。
田口君のフォローも欠かされてなかったし、なんとか周りの影響も少なくなって、元の二人に戻っていってくれた。


そもそも・・・なんで、事故に遭ったの?
そんな過去ではなかったはず・・・
でも・・・あの二人がつきあっていた過去も・・・なかったこと。

そんな事言い出したらきりがない。
美樹だって、ケンちゃんと真美ちゃんだって・・・松井君ともだって・・・
あたしの周りで起きていることは全てあの頃とは違うこと・・・

だからって、他のことがすごく変わってるわけでもない。
クラスのメンバーとか、先生の顔ぶれとか、もっと大きく言ったら、世間で起きていることだって、なんら変わりはないと思う。
あたしの記憶も定かじゃないから言い切れはしないけど・・・

今回の事故が、ただの偶然・・・そう思いたかった。
幸いなことに、命に別状があったわけでもないし、田口君だって骨折で済んで、3ヶ月の期間はかかるけど、その後の活動に支障が出るわけでもない。

・・・多少のズレは生じる。

自分にそう言い聞かせた。

でも・・・それが甘かった。

・・・・・・だんだんと歯車が崩れていく・・・
ううん・・・すでに崩れていたんだ。
あたしがこの世界に飛び込んでしまった時から・・・


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 19737