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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第85回   85
あたしの初体験は18の夏だった。

短大に入って、交流のあった大学との親睦会で知り合った、2コ上の先輩。
すごい大恋愛・・・というわけでもなく流れというか、短大生にもなって恋のひとつやふたつもしていないのが、すごい子供に感じて・・・。
そのせいもあって、初めての事で戸惑いや不安があっても、それを感じないようにしてた。

だからだろうか?
印象が薄い。
痛かった・・・てのだけは、そういうもんだと認識しているからか、なんとなく覚えてる気がする。

そしてその痛みは、最初のはずだけ・・・・・・


今日も部活へと学校へ向かう。
でも、いつもの調子で自転車がこげない。
どういう体勢でこいだらいいのか、思考錯誤していた。
でも、そのことを決して苦に思うわけでもなく・・・
逆に、ニヤけてしまう自分がいる。

いけないいけないっ・・・誰かに見られたら完全に変態じゃん!
・・・でも、完全否定はできないか・・・

昨日家に帰ってからしばらく、数時間前の余韻に浸りっぱなしだった。
何よりうれしかったのは・・・身体が示したことだ。

・・・一度しか味わう事のないはずの痛みがあったから・・・

松井君が、あたしの初めての相手になったってことが、すごいうれしかった。
こんなこと思うなんて、あの時の彼氏には失礼だけど・・・

でも、気持ちがこもってるのとそうでないのとでは、こんなにも違うんだ。
今さらだけど、やっぱり気持ちって・・・大事なんだ。
そして、こんなに幸せでいいんだろうか?
これ以上の幸せってなに?
贅沢な悩みが出てきていた。

そのくらいあたしは、のぼせあがっていた。



「おはよ〜。」
部室に入り、雑談している集団に挨拶を交わす。
「おはよう。あれ?今日遅くない?」
まどかを始め、ほとんどみんな着替えを終え、コ―トに行けそうだ。
「あ〜・・・ちょっと寝坊・・・あれ?・・・きょんちゃんは?」
今気付いたが、まだ姿がない。

「そういえば、まだだね・・・きょんちゃんも寝坊かな・・・珍しい・・・」
まどかは特に気にするわけでもなく、雑談に戻りみんなとコ―トへ向かった。
あたしも着替えを済ませ、きょんちゃんが来ないかと待っていたが、時間も時間だったので、あまり気にせず部室を後にした。


部活が始まって30分くらい経った頃―――
顧問の先生も、珍しく遅れて来た。
気のせいか、少し険しそうな表情にも見えないでもない。

そして、練習が終わりみんなが集まる。
結局きょんちゃんは休みだったみたい。
いつもなら、部長が挨拶して終わりのはずが、今日は違った。
珍しく先生からの話があるみたい。

「え〜・・っと・・・今に始まったことではないんだけど・・・部活の後、まっすぐ家に帰らない人いるよな。」

ドキッとした。
自分にも当てはまることだし・・・

「まぁ、いろいろと友達と話したりして過ごしたいのはわかるけど・・・基本学校から家まではまっすぐ寄り道しないで帰るように・・・」

何故に今さらそんな話を・・・
きっとみんな同じこと思ってるだろう。

「こんな当たり前の事わざわざ言うのには、訳があって・・・中田なんだけど、昨日の部活帰りに事故に遭ってな・・・」

―――!!・・・え!?

みんなが一斉にざわつく。

「ほんとですか?」
「先生っ、きょんちゃんは?」
一部の人がとっさに質問する。

「静かにっ!・・・まぁ、足をくじいたくらいで大事には至らなかった。」
それを聞き少しホッとする。
「でも、本来なら事故に遭わなかった場所に、中田がいたってことが問題なんだ。まっすぐ家に帰ってれば事故にも遭わなかったし、怪我もしなかった。みんなも休みだけに限らず、普段から部活が終わったら即家路に着くように。わかったな!」

「「・・・はい・・・」」

解散になり、あたしは校舎へと戻る先生の所へ向かった。
「先生っ!」
「ん?なんだ?」
「あの・・・事故って・・・どこで?」
「あぁ・・・中央公園近くの道路だよ。」
「公園・・・ってことは・・・事故に遭ったのは・・・きょんちゃんだけですか?」
「・・・・・・いや・・・まぁ、山田は仲がいいからわかっているだろうけど・・・田口もだ。」

・・・やっぱり・・・

「どうせ、明日になればわかるだろうけど・・・中田より田口の方が怪我がひどくてな。」
「!!・・・そう・・なんですか!?」
「話によれば、中田をかばっての事らしいんだけど・・・骨折したみたいでな・・・」
「骨折!?」
・・・ってことは・・・
「全治3ヶ月らしいから・・・今度の試合には出れないな。」
「―――!!」
サッカーが力を入れてるのは、誰にとってもわかりきってる事で・・・

「・・・時期が時期だし・・・仲良くするなとは言わないが・・・山田も立場考えて行動しろよ。」

はっきりとは言われなかったけど、わかる・・・迷惑をかけるなと・・・大事な試合前に・・・自分らが邪魔だということを・・・
あたしは即効きょんちゃんの家に行った。
きっと、きょんちゃんは今頃・・・!



「あら、智子ちゃん・・・わざわざ来てくれたの?」
「・・・こんにちは・・・あのっ、きょんちゃんは?」
「・・・あがって・・・2階で横になってると思うわ。」
きょんちゃんのお母さんは、快く入れてくれた。

コンコン・・・
・・・・・・
「・・・きょんちゃん・・・あたし・・・入るよ・・・」
返事が返ってこないけど、静かにドアを開けた。
「・・・・・・大丈夫?」
足の心配と、きょんちゃんの気持ちを察して・・・それしか言えなかった。
布団の中に埋もれていたけど、ゆっくりと姿を現す。
想像していた通り、いつもは整えられた髪型も今は天然パーマのせいもあってか、ひどく乱れている。
それに比例するかのように、表情もひどいものだ。
「・・・きょんちゃん・・・」
ベットへと近づく。
そして、泣きはらした後の目元にも気付く。
「・・・・・しよ・・・・・・っ・・・どう・・・しよ・・・っ・・・」
その目元からは、みるみるうちに大粒の涙が・・・

――――――っ・・・!
きょんちゃんの側にしゃがみこんだ。

「・・・あた・・しの・・せいで・・っ・・試合・・っ・・でれなく・・なっちゃっ・・った・・・どうしようっ・・・!」
「――っ・・・きょんちゃんっ・・・」
「あんなに・・っ・・練習っ・・してた・・のに・・・っ・・・最後かもっ・・・しれない・・のに・・・っ・・・」
「――違うよっ!・・・きょんちゃんの・・せいじゃない・・・」
「・・・・・・っひっく・・・」
あたしの言葉に、きょんちゃんは思いっきり首を横にふった。
「・・・違うってば!・・・」
それでもなお、横にふる。
「・・・あたしがっ・・・ひっく・・・ボーっと・・・してたからっ・・・だからっ・・・!」
・・・・・・
何も言えなかった。
これ以上、きょんちゃんに声を掛けても、今はただの慰めにしか・・・いやそれにも値しないだろう。
ただ、側にいてあげるくらいしかできなかった。


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