「・・・お邪魔・・・します・・・」
靴を脱いで、廊下を進む。 開けっ放しのドアから、松井君が出てきた。
「汗臭いからシャワー浴びてくるわ。その辺適当に座っといて。」 手には着替えが持たれていた。 「あ・・うん・・・あのっ・・・お父さんは?見えないの?」 「うん、仕事。」 「・・・ゴールデンウィークなのに?」 「車の販売だから、休み関係ないんだよ。」 「そう・・・なんだ・・・」
予想はしてたけど・・・やっぱり二人っきりか・・・
先ほど彼が出てきた部屋が気になる。 松井君の部屋・・・かな? 2階じゃないのか・・・
「・・・俺の部屋入ってもいいけど・・・」 あたしが目をやっていたのに気づいてか、風呂場へ行きかけて振りかえった。 「・・・あんま詮索すんなよ。」 「・・・・・・見られちゃまずいもんでも、あるの?」 「・・・・・・ある!」 「・・・・・・じゃ、入んない。」 「あっそ・・・こっちでテレビでも観てたら?」 リビングの方を目で案内し、今度こそ風呂場へと行った。
ちょっとしてから、シャワーの音が聞こえてきた。 リビングに入り、辺りを見渡す。
まぁ・・・男所帯だからか・・・なんと殺風景な・・・
テレビに家具、家電・・・必要なものはあるけれど、それだけというか・・・ 自分ちのように、ごちゃごちゃとしておらず、飾りっ気もない。 シンプル・イズ・ザ・ベスト・・・とでも言おうか・・・
ふっと見渡した際に、奥の和室が見える。
自然とそちらに足が向かう。 入口から一番先に目に入ったのは、仏壇だった。 そして、そこには若い女性の写真が・・・
―――! そっか・・・お母さんの・・・写真・・・か。
見たところ20代半ば・・・いや、前半にもみえる。 確か、松井君が3歳の時に亡くなったって言ってたから、実際に若くして亡くなったんだろう。 それにしても・・・キレイな人・・・ この親にして、あの子・・・って感じだな・・・ お父さんの顔見たことないけど・・・きっと松井君はお母さん似だ。
目元がそっくり。
なんとなく、仏壇の前に正座して手を合わせてみる。
・・・・・・お邪魔・・・してます・・・ ・・・・・・―――っ!
そしてたった今、蒲団がたたまれて隅に寄せてあるのに気付き、この部屋がお父さんの寝室だということがわかる。 車の販売って事は・・・ディーラーかな? 休みが稼ぎ時・・・だね。
すぐさまその部屋を後にしリビングへ。
・・・まだシャワーの音が聞こえてる。 腰を下ろす・・・けれど、落ち着くことなく、また辺りを見渡し・・・
・・・・・・あ・・・あれって・・・ 本棚の一番下に、「Album」と書かれたものが何冊かある。
・・・・・・気になる。 でも・・・勝手に見たら失礼・・・だよね・・・
チラッと風呂場の方へ目をやる。 まだ、シャワーの音は聞こえてる・・・
・・・・・・ ・・・・・・ちょっとだけ・・・
あたしの悪い心が動いた。 一番端っこの冊子を手に取る。 そして・・・ゆっくり捲った・・・
・・・かわい・・・ そこには新生児の写真が・・・ 下には「リョーマ 誕生」と書かれている。 他にも、同じような赤ちゃんの写真が続き、パラ・・・パラ・・・と捲っていった。
両親との3ショットも何枚かある。 そしてほとんどに写真にテーマや一言が書き込まれていて・・・ 前に、松井君がお母さんの事を、元々体が弱かったって言ってたのを思い出す。
マメな人だったんだろうか? それとも・・・自分の先を見据えて、こうやってきちんと書き記していたんだろうか?
お母さんと写っている赤ちゃんは、すごい笑っている。 当たり前の表情が、すごく切なく感じた。
そして2冊目に手をやり、また捲った。
―――!
そこには、今までは写っていなかった、女の子の姿が二人・・・
すぐにわかった。 美樹と・・・美加さんだ。
美樹と松井君がそれぞれ、美加さんを挟むようにして手を繋いで写っている。 その小さい二人は、泣きべそをかいていたかのような顔だ。
いくつくらいだろう? 美加さんはもう小学生だろうし・・・ 写真の下には何も記されていなかった。 他の写真も、次のページも・・・
お母さんが・・・亡くなった後・・・なんだ・・・
「・・・・・・静かだと思ったら、勝手に見やがって・・・」
――――――っ!!
いつの間にか、風呂場から松井君が戻ってきていた。 頭をタオルで拭きながら、見下ろしている。
「・・・あ・・・ごめん・・・・・・早かった・・・ね。」 ニコっと笑って誤魔化そうとしたが、すぐさま手に持っているものを奪い取られた。 「・・・こんなの見て、何がおもしろいの?」 松井君はしゃがんで、アルバムを元の場所へとしまう。 「別に・・・おもしろがっては・・・ないけど・・・」 悪いと思いつつも、言い返してみる。 「・・・じゃあ・・・今度あんたのも見せて。」 「・・・えっ!?」 「人の写真勝手に見たんだから、あんたもちっちゃい時の写真見せてよね。」 「・・・・・・それは、無理っ!」 「・・・はぁ!?なんだよ、それ?」 松井君は、拒否するあたしを不服そうに見てきた。 「あたしのなんて・・・見せらんないっ・・・」 「・・・なんで?」 「なんでって・・・・・・から・・・」 自然と声が小さくなっていた。 「・・・聞こえない。」 「〜〜すんごい・・・ブサイクだからっ!!」 やけくそになって答える。
小さい時のあたしは、すんごいデブで、ほっぺたなんてアンパンマン!?ってなくらいパンパンとしていた。
「ブサイクって・・・ちっちゃい時なんて、どんな顔でもかわいいもんじゃねーの?」 松井君は降ろしていた腰を上げ、少し呆れるように言った。 「違うよっ!・・・かわいい子は・・・小さい時からかわいいし・・・そうじゃない子は小さい時からそうなの!現に・・・美樹や美加さんみればわかるじゃん。」
・・・―――っ! アホだあたし・・・自分から墓穴掘って・・・ 一番触れたくない人の名前を出してしまった。
そのことを誤魔化すかのように、話を続けた。 「今のあたし見れば、どんな子だったか想像つくでしょ?わざわざ写真見るまでもないよ。」 そう言って、あたしも立ち上がる。
「俺は・・・・・・あんたのこと、かわいいと思うけど・・・」
―――!! なっ・・・なっ・・・//
言われ慣れてないセリフと、そんなことを言いそうにない相手に、あたしの顔は一気に熱くなってしまった。
|
|